エアライン — 2017年6月26日 22:05 JST

機材・資金調達「成功他社を参考に」 特集・ピーチの成長戦略

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 2017年3月期通期決算で、4期連続で増収増益を果たしたピーチ・アビエーション(APJ/MM)。一方で、ことし4月にはANAホールディングス(9202)が出資比率を38.7%から68.0%に引き上げて連結子会社とするなど、取り巻く環境が大きく変わろうとしている。

 6月23日には、ANAHDの株主総会に井上慎一CEO(最高経営責任者)が登壇し、「自社の独自性に磨きをかけ、ANAHDの企業価値向上に貢献する」と述べている。

 ピーチが今後成長するにあたり、財務的な課題は何か。機材調達などでANAHDの恩恵はあったのか。拠点化する仙台と新千歳(札幌)の路線計画は。岡村淳也財務・法務統括本部長と、遠藤哲経営企画室長の2人の執行役員に話しを伺った。

ピーチの岡村財務・法務統括本部長(左)と遠藤哲経営企画室長=17年6月8日 PHOTO: Yusuke KOHASE/Aviation Wire

—記事の概要—
ライアンエアとイージージェット参考に
機材追加「準備している」
札幌路線「広く検討」
運休路線「複数便体制構築で復活検討」

ライアンエアとイージージェット参考に

機材調達など成功他社を参考にすると述べるピーチの岡村財務・法務統括本部長(左)=17年6月8日 PHOTO: Yusuke KOHASE/Aviation Wire

── 2016年3月期に累積損失を解消した。財務上で課題となることは。

岡村本部長:現時点ではない。将来に向けて、2020年度をめどに機材を35機前後に増やす。ファイナンスが必要になってくる。現状の18機から倍くらいになる。資本施策に向けての準備が必要になってくる。

── どのように準備を進めるのか。

岡村本部長:現在は借入がゼロだが、ある程度、借入を交えてコントロールしていくのが一般的なファイナンスのやり方だ。LCCで成功している同業他社、例えばライアンエア(RYR/FR、アイルランド)やイージージェット(EZY/U2、英)が、どのようなバランスシートを持っているのかを参考にしながら、研究している。

 ライアンエアは成長のスピードが速い。リソース(人財)もそうだが、どのように機材を調達し、資金を調達しているのか、非常に参考になる。彼らは急拡大した。われわれもそれを狙っている。

── 燃油費が上昇傾向にあり、今期(18年3月期)は上昇懸念がある。対策は。

岡村本部長:2015年と2016年、ドバイ原油の年間平均は(1バレルあたり)46ドルから47ドルで変わらない。今期は47ドルを超えている。すでにヘッジ済みで、ことしの燃油消費量のおよそ4割を、昨年度の安い段階で予約している。いまの市場価格よりも安い価格で確保している。4割程度はヘッジ済みで、上昇リスクは抑えられている。残り6割は、情勢を見ながらヘッジの比率を上げるか考えている。

── 付帯収入は2015年度が17.5%、2016年度が19.2%。将来的には25%までの引き上げを目標としていた。見通しは。

岡村本部長:いけると思う。過去3年が付帯事業収入が伸びている。ほぼ20%は見ている。成功しているLCCは25%を超えているところもある。(25%は)決して無茶な数字だとは思っていない。

── いつごろをめどに25%を突破できそうか。

遠藤室長:2020年あたりをターゲットとしたい。外部環境など、いろいろなチャレンジがある。決して無謀な目標ではない。

岡村本部長:(付帯事業は)かなり浸透している。運賃は運賃、手荷物を預ける場合は事前に購入したほうが安い、というのが浸透している。伸びる余地はある。

機材追加「準備している」

A320neo発注会見で握手を交わすピーチの井上CEO(右)とエアバスのブレジエCEO=16年11月18日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

── 4月にANAHDが出資比率を引き上げた。機材調達などで恩恵はあったか。

岡村本部長:(出資比率引き上げを)決定したのは2月。それ以降、航空機の購入契約を結んでいない。目に見える形で恩恵が増えたことはない。今後、連携が強化されることから、機材調達に関してはスケールメリットを得ることができる。購入量が多ければディスカウントも利く。マイナスになることは一切ない。

── A320neoは2019年から10機を導入する。追加導入は考えているか。

岡村本部長:どのような導入形態にするか決めていないが、準備はしている。(A320)20号機までは今年度中に受領する。2018年度に3機、2019年度と2020年度にA320neoを計10機導入する。機体は2011年から8年リースで導入してため、退役が始まる。合計で35機から40機体制にしようとすると、追加の発注もある。

札幌路線「広く検討」

── 2018年度に札幌を拠点化する。具体的にはどのようになるのか。

遠藤室長:具体的な方向性を絞り込んでいる段階ではなく、広く検討している。昨年10月に拠点化と、札幌以外の道内空港への就航の2点を発表した。この2点により、札幌からの国内・国際新路線と、道内空港とどこかを飛ばす、3つが可能になる。

 道内空港路線を細かく言うと、札幌以外の空港と道外を結ぶ路線、札幌からの道内路線が考えられる。これらすべてを含め、何がいちばんいいのか調査・研究している。

 ことし9月から、札幌-福岡線の運航を開始する。現在は関空-札幌のみだが、福岡が加わる。道外と札幌を結ぶ新規路線を含め、検討していく。

── 成田-札幌線の復活は。

成田路線は現在国内2路線のみのピーチ・アビエーション=15年8月 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

遠藤室長:可能性としては(ある)。他社が1日複数便を飛ばしている市場で、1日1往復ではしんどい。複数便で飛ばすことができる体制を作れれば、優れたマーケットなので、ポテンシャルは十分ある。

 首都圏は大きなマーケットで、見捨てるつもりもない。国は、東京や大阪などの大都市圏だけではなく、外国人を中心とした地方への直接の誘客を、2020年までに訪日客4000万人とする目標で強く打ち出している。地方に外国人客をより多く運ぶことに、微力ながら貢献していきたい。

── 仙台と札幌の拠点化がカギとなる。

遠藤室長:そうだ。手始めに仙台-台北を就航する。それに加え、国際路線も検討していきたい。

── 井上CEOは「片道4時間以内が就航地」とつねづね言っている。札幌の拠点化で、“4時間の円”が北にずれる。ロシアはどうか。

遠藤室長:可能性はゼロだとは思っていない。2国間で一般の方々が活発になる環境が整えば、新たなマーケットとして期待が持てる。現在は短期滞在者でもビザ(査証)が必要。いますぐ飛ばせるか、といえば厳しいとは思う。政治関係など2国間関係がいい方向に変わっていけば、可能性が出てくるのではないか。

 新規需要開拓は得意分野ではあるが、絶対数がどれだけあるか。

運休路線「複数便体制構築で復活検討」

── 成田-那覇、那覇-石垣など、運休路線の再開予定は。

遠藤室長:具体的な予定は、現時点ではない。いずれの路線も運休時に、いまの環境では便数を増やすことが容易にできない地点だったので休止する、と関係先に伝えている。将来的に複数便で運航できる体制が整えば、再開を検討したいと申し上げた。

 (14年7月に運休した)那覇-石垣線は当時、日本トランスオーシャン航空(JTA/NU)と全日本空輸(ANA/NH)、スカイマーク(SKY/BC)が1日20便を運航する“太い路線”。そこに1日1往復のピーチが入っていっても取り負ける。成田-札幌と成田-那覇も便数の規模は違うものの、他社が複数運航する。同じような価格帯では劣後してしまう。

 クルーベース(乗務員拠点)は関西が基本。現在は那覇にも置いているものの、クルーベース以外からの増便はハードルが高い。不可能ではないが、今回は一旦休止、と判断した。将来的にはクルーベースの増加や環境の変化などにより、再乗り入れの可能性はある。

 会社が伸びて、国内にクルーベースを3カ所、4カ所と置けるようになれば、より柔軟な事業計画を考えられるようになる。

── 将来は仙台と札幌にもクルーベースを置くようになるのか。

遠藤室長:置く可能性はある。現時点で具体的な予定はないが、拠点の機数規模が増えていけば置いたほうが効率的に運用できるようになる。

── 成田の拠点化はどうなるのか。

遠藤室長:事業計画では、拠点に準ずるような位置づけで路線展開できると思っている。現在は成田から国内2路線、羽田から国際3路線を運航している。今のところ、空港要件などにより限定的な運用になっている。制度が変わっていけば、ビジネスチャンスはある。状況を見ながら、チャンスがあれば着手していこうと思っている。

関連リンク
ピーチ・アビエーション

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