日本航空(JAL/JL、9201)は1月21日、グループで空港グランドハンドリング(地上支援業務)を担うJALグランドサービス(JGS)で、成田空港で運用される「外国免許特認」制度の第一号取得者が2人誕生したと発表した。2025年12月1日に運用を開始した同制度に基づく国内初の実績で、外国人材の活躍を阻んでいた「運転免許の壁」を規制改革で乗り越え、即戦力としての活用を進める。

成田空港の外国免許特認制度の第1号となったJGSのカインさん(右)とフウさん=26年1月21日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
国内初の特認取得者となったのは、成田でグラハン業務を担うミャンマー出身の社員2人。申請者が大幅に増加し、日本の免許に切り替えるまで半年以上待たされてきた「免許の壁」を乗り越えつつ、指定教習所での仮免許級の技能試験や、空港特有の事故リスクを踏まえた訓練、視力や色彩識別も含めた毎年の適性確認など、安全面では通常より一段厳しい仕組みを整えたのが制度の特徴となっている。
—記事の概要—
・公道は走れない空港限定制度
・日本語教育も内製化
・運転免許取得より厳しい基準
・従来型オペレーションからの変革期
公道は走れない空港限定制度
今回の外国免許特認制度は、ベトナムなど「ジュネーブ条約」に加盟していない国の運転免許保持者が対象となる。これまでは、非加盟国出身者が日本の運転免許を取得・切り替える際、試験受験までに約6カ月の待機期間を要し、その間は空港制限区域内での運転業務に従事できない「空白期間」が課題となっていた。

成田空港の外国免許特認制度の第1号となり教官が同乗するトーイングトラクターで出発確認するJGSのカインさん(右)=26年1月21日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
学科試験から技能試験までを含めると、入国から運転業務の開始までは計7カ月程度(JGS調べ)かかっていたが、今回の特例措置で日本の免許への切り替えを待たずに、厳格な安全基準を担保した上で空港内限定の運転資格(ランプパス)を取得できるようになった。成田空港の制限区域など指定エリアに限られ、普通免許のように一般の公道を走ることはできない。
JGSは安全品質を維持するため、自動車教習所による客観的な評価と、長年培った社内の教育ノウハウを組み合わせた独自の育成スキームを構築した。空港内の事故特性を踏まえた危険予知トレーニングや、航空機と地上支援機材(GSE)の特性を加味した車両操作教育を実施し、人手不足が課題となる中で「グラハンのプロ」を育成していく。

成田市とJALグループが始めた外国人グラハン新制度の概要(両者の資料から)
今回の制度改革は、成田市とJGSが2023年に内閣府の国家戦略特区へ規制緩和を共同提案したことがきっかけとなり、国の制度改正による全国措置として実現した。JALグループは今後、成田で確立した運用ノウハウを「成田モデル」として、同様の課題を抱える全国の空港への展開も視野に入れる。訪日客6000万人時代に向けて空港オペレーションの持続可能性を高め、空港グラウンドハンドリングの現場構造そのものを変えていくことも視野に入れている。
日本語教育も内製化
今回、国内第一号として認定された社員はミャンマー国籍の2人で、JGS成田空港LCCサービス事業部のカイン・ゾー・ミョーさん(36)と、同ランプサービス事業部のテッ・ウェー・フウさん(23)。ミャンマーなどのジュネーブ条約非締約国出身者は、日本の運転免許への切り替えに時間がかかり、空港内で運転業務に就くまで長い待機期間が課題となっていた。

成田空港の外国免許特認制度の第1号となったJGSのカインさん(右)とフウさん=26年1月21日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
カインさんは「選ばれてうれしいですが、責任も感じています」、フウさんは「責任のある仕事なので、安全第一で業務に取り組みたいです」と意気込みを語った。
JGSが雇用する特定技能外国人は現在、成田空港に74人、羽田空港に80人の計154人。同社は今後200人程度まで拡大し、全体の約5%を海外人材が担う体制を目指す。協力会社など二次委託先まで含めると、作業員の半数以上が外国人になっているという。1月20日には2025年の訪日客数が初めて4000万人を突破したことが発表されており、外国人従業員の早期戦力化が一層重要になっている。
JALグループが、特定技能外国人の受け入れを検討しはじめたのは、コロナ前の2019年。当時は制度開始直後で、海外からの直接受け入れを計画したものの、新型コロナの影響や「責任あるサポートを自社で完備できるか」という懸念から、一時は断念を余儀なくされた経緯があったという。
その後、今回の制度を成田市とともに国へ共同提案した2023年に専門組織を立ち上げ、本来は外部委託も可能な登録支援機関としての業務を自社で内製化することを決めた。組織の立ち上げからこれまで約1年半をかけ、生活支援や在留支援、日本語教育やキャリアパス策定、日本文化への理解といった支援体制を自社内で一貫して整備したことが、今回の「第一号」誕生の土台となった。
運転免許取得より厳しい基準
組織面では「運転技能・海外人財サポート室」などの専門組織を新設。週6回の日本語教育や、言葉の壁を越えるための視覚的な操作手順書の整備など、長年培ったノウハウを独自の育成プログラムに凝縮している。単なる労働力の確保ではなく、キャリアパスの提示や免許取得支援までを含め、多様な人材が長期的に活躍できる環境づくりを進めている。

成田空港の外国免許特認制度の第1号となり教官が同乗するトーイングトラクターを運転するJGSのカインさん(右)=26年1月21日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
安全面では、今回の制度を単なる規制緩和ではなく、空港内走行に特化した「特認(特別に認める)」制度として位置づけ、通常の運転免許取得よりも厳しい基準を設けた。指定自動車教習所での技能評価は、日本の仮免許試験に相当するクランクやS字走行などの内容で実施する。
特例による運転資格の有効期間は3年間。視力や聴力、色彩識別などの適性確認を毎年義務付けるほか、空港特有の事故特性や車両特性を踏まえた教育を定期的に行い、安全品質の維持を図る。
制度の運用面では、国土交通省、空港管理者、事業者の三者による事後評価を年2回実施。万が一、運用上の問題が発生した場合には、制度自体の停止も含めた厳格なガバナンス体制を敷いており、安全を最重要項目としている。
従来型オペレーションからの変革期
JGSの足立知・総務部長によると、外国人材の戦力化を進めるうえで、最大の壁として浮上しているのが「日本人スタッフ側の意識改革」だという。日本の伝統的な美徳や「あうんの呼吸」を前提とした従来のオペレーションが、多様な文化的背景を持つ人材にそのままなじむとは限らないためだ。

成田空港の外国免許特認制度の第1号となり同乗する教官とトーイングトラクターを出発前に確認するJGSのフウさん(左)=26年1月21日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

成田空港の外国免許特認制度の第1号となり教官が同乗するトーイングトラクターを運転するJGSのフウさん(右)=26年1月21日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
現場では、海外人材に日本流の適応を求めるだけでなく、受け入れ側の日本人スタッフも価値観をアップデートし、組織として機能させるかというマネジメントの転換が課題になっているという。
今回の特例は、成田市と共同で提案した「制限区域車両運転資格特認制度」に基づくもので、羽田など他空港で導入するには各空港の規定見直しが前提になる。日本人採用だけでは現場を維持できない状況が見え始める中、免許のボトルネックを外しつつ教育や評価で安全水準を確保する今回の特認制度は、外国人材を安全に即戦力化する仕組みとして、慢性的な人手不足に直面する空港現場のモデルケースになりそうだ。
関連リンク
成田市
日本航空
JALグランドサービス
国家戦略特区(内閣府)
外国の運転免許をお持ちの方(警察庁)
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