エアライン, 解説・コラム — 2015年3月1日 18:50 JST

「これおもろいやん!」乗客が生み出した“第4の客層” ピーチ井上CEOインタビュー(上)

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 ピーチ・アビエーション(APJ/MM)が3月1日、就航3周年を迎えた。2014年3月期決算では、就航から2年1カ月で単年度黒字を達成。累計搭乗者数も2012年11月29日に100万人を達成後、2014年4月28日に500万人、同年11月24日に700万人と順調に推移し、3周年前日の2月28日には、800万人を突破した。

就航3周年を迎えたピーチの井上CEO=15年2月 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 好調に見える同社も、2014年は機長不足により5月から10月まで約2000便の欠航を余儀なくされるなど、必ずしも順風満帆とは言えない時期もあった。

 一方で2014年7月には、本拠地の関西空港に続き、那覇空港を拠点化。関空と同様に夜間駐機ができるようになり、関空から片道4時間で路線網を拡大してきた同社は、那覇を起点に東南アジアへの路線拡大が容易になった。これを受け、今年2月21日は那覇発着路線では4番目で、国際線としては台北線に続き2番目となる那覇-香港線を開設した。

 現在は14機のエアバスA320型機(180席)で国内線10路線、国際線7路線の計17路線を運航。3月29日からは、拠点化を見据えて成田路線の拡充を進める。既存の関西線に加えて札幌線と福岡線を新設することで、首都圏でもビジネスを拡大していく。

 1日に約70便が飛び、1万人以上が利用するようになったピーチ。2月にAviation Wireの単独インタビューに応じた同社の井上慎一CEO(最高経営責任者)に、これまでの同社を巡る変化や第2拠点である那覇空港の課題、本格化する首都圏乗り入れや機材など今後の展望、人材採用の3点を中心に聞いた。

*ピーチが求める人材像や4年目に目指す姿を取り上げた下編はこちら
*本格化する首都圏乗り入れ計画や機材調達、LCCの将来像を取り上げた中編はこちら

─ 記事の概要 ─
“電車”になってきた
1機しか駐機できない那覇空港

“電車”になってきた

──3年間を振り返った感想は。

井上CEO:2014年3月期に単年度黒字化し、搭乗率は9割を超えている。これらはお客様あってのことで、絶大な支援をいただいてきたからだ。

──ピーチは旅行者やビジネス客に加えて、就航時から親族訪問など、新規需要の掘り起こしを掲げてきた。現在の客層は。

3年前、関空を出発したピーチの札幌行き初便=12年3月1日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

井上CEO:ビジネス客や旅行者に当てはまらない人が、増えてきているようだ。旅行は非日常に入っていくものだが、ピーチでは日常の行動範囲を拡大する動きが見られる。

 しかも、われわれが考えたものではなく、お客様が「これおもろいやん!」というノリで開発された動きだ。

 われわれが重視している安全運航の価値を理解していただき、365日ロープライスを提供し続けてきたことで、市場が拡大してきた。

 お客様自身が「この値段だったら、こんなことできるやん」と思いつく、ビジネスでも旅行でも、さらにわれわれが想定していた親族訪問でもない、新しく“おもろい使い方”が出てきている。

 大阪在住のヨガ好きの女性は、沖縄の海辺でヨガをするために、ピーチで通っているそうだ。沖縄だと三線(さんしん)を習いに行く人もいる。仙台でジョギングを楽しんでいる人が、京都で走るために乗ってくださったこともあった。

 ピーチのコンセプトは「空飛ぶ電車」だが、本当に電車になってきている。これらの人たちに共通するのは一人旅だ。この動きを精査していきたい。

 こうした需要は、ぼんやりと見えてきた“第四極”とも言える。旅行会社も、気づいていないのではないか。

1機しか駐機できない那覇空港

──第2拠点の那覇から香港線が就航した。拠点としての立地はどうか。

井上CEO:予想以上だ。何が予想以上かと言えば、インバウンド(外国人の訪日需要)がすごい。沖縄が外国人を引きつけるものが顕在化している。中国や台湾、香港、韓国の人にとって、魅力的な旅行先だということがはっきりした。

 沖縄の魅力だけではなく、アジアに近いことも認知されてきた。「沖縄は近いじゃん」という感覚だ。これまで東京や大阪を訪れていた外国人に、認知されてきたと言える。

 ピーチで大阪入りし、新幹線で東京へ移動していた人たちが、日本第3の旅行先として認知してきている。

──第2拠点として那覇空港の課題は何か。

那覇空港を出発する香港行き初便。飛行機を1機しか駐機できないのが課題だ=15年2月21日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

井上CEO:中期的な課題だが、飛行機(A320)が1機しか置けないこと。駐機場がないことで、(那覇からの)路線拡大のペースが落ちている。

 (海外に)飛ばせば来るので、発着枠がガンと広がる施策をお願いしていきたい。

──今後那覇からはどのような都市に就航したいか。

井上CEO:ベトナムのハノイやホーチミン、タイのバンコク、マレーシアのクアラルンプール、シンガポールなどだ。シンガポールは片道4時間より少しかかるが。

──関空から那覇、東南アジアと、乗り継ぐ旅をする利用者も出てきそうだ。

井上CEO:出てくるだろう。うちは“電車”だから、うちのお客様も乗り継ぎが苦にならない。ビジネスマンでも、旅行者でもない人も乗っているから。

 ピーチのお客様は50%が20歳代の男女。ほかに定年退職したご夫婦もいらっしゃる。シニアのお客様に話を聞くと、どこに行くかは決めず、ピーチのセールで安いところに行くそうだ。

 従来は海外ばかり行っていたシニアの方がおっしゃるには、航空券が安いからといって(旅行先として)失敗したことはなく、すごく面白いと楽しまれている。

──3年前を振り返ると、国内LCCは苦戦するとの見方もあった。ピーチの認知度はどうか。

井上CEO:最近変わってきていて、認知度が高まってきている。

 安全運航や満足度へのこだわり、収益を出せるローコスト経営といったことで、新しい価値の提供の仕方があるはず。お金を掛けなくても、お客様に喜んでもらえる方法はある。こうした取り組みが、理解されてきたのではないか。

 妥協せず、かたくなにやっていることで、異業種コラボの依頼が多い。中には相手企業の社長が直接会いに来られる。ピーチの生き様に共感できる、ということだそうだ。(つづく)

*成田乗り入れなど首都圏戦略や機材など、ピーチの今後に迫る中編はこちら

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ピーチ・アビエーション

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