エアライン, 解説・コラム — 2018年4月10日 22:45 JST

「この会社でよかった」特集・破綻乗り越えたスカイマーク自社養成パイロット1期生 ベヒシュタイン暁夫さん

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 パイロット不足が叫ばれる中、スカイマーク(SKY/BC)が初めて自社養成したパイロット4人が、副操縦士の辞令を4月4日に受け取った。2014年4月に入社した第1期生のうち、訓練を終えた人から発令しており、残る24人も副操縦士として順次乗客を乗せた飛行機の操縦桿を握る。

 スカイマークのように、1990年代の規制緩和で誕生した「新規航空会社」では、パイロットの自社養成は初の取り組み。第1期生の募集要項が発表された2013年6月当時は、エアバスA380型機やA330-300の導入が計画されていたほか、国際線進出など事業拡大を進めていた時期。これまで以上にパイロットが必要となりはじめたことから、自社養成に踏み切った。

 しかしその後、スカイマークは2015年1月28日に経営破綻。会社を再建する過程で、機材はボーイング737-800型機1機種に絞られた。一方で、パイロットの自社養成は訓練を中断したものの、2016年に再開。第1期生のうち、最初の4人は2017年12月に国土交通省航空局(JCAB)の試験に合格し、4月に副操縦士に任用された。

スカイマーク自社養成パイロット1期生のベヒシュタイン副操縦士=18年4月6日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 第一陣となった4人のうち、3人は社会人経験を経て入社。ただひとり新卒だったのが、ベヒシュタイン暁夫さん(27)だ。初フライトから間もないベヒシュタインさんを取材した。

—記事の概要—
訓練途中で経営破綻
“必ず再開する”を信じて
「この会社でよかった」

訓練途中で経営破綻

破綻当日のスカイマーク本社。自社養成パイロットの訓練も中断となった=15年1月28日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 「パイロットは別の世界のものだと思っていました。大学2年生くらいで将来を考えた時に、文系の学生でもなれると知りました」と、ベヒシュタインさんは話す。入社後は、2週間ほどで渡米し、自家用単発と双発のライセンスを取得。事業用の訓練をしていた2015年1月に訓練が中断となり、帰国した。

 経営破綻となれば、パイロット訓練生は最初にクビを切られるかもしれない──。ベヒシュタインさんは、「また就活か、という気分でした」と不安に感じた当時を振り返る。しかし会社は訓練生を解雇することはなく、地上職として働くようにし、ベヒシュタインさんは営業部門に配属された。

 入社後すぐに訓練が始まったベヒシュタインさんにとって、営業職のように社会人らしさを実感しやすい職場は初めて。旅行代理店を担当していたが、クレーム対応だけではなく、時には「需要のある航空会社だったから、復活したらがんばって、と声を掛けていただくこともありました」と、激励されることもあったという。

「みんな優秀」とパイロット訓練生を高く評価するスカイマークの市江社長=18年4月6日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 営業や安全推進、乗員管理など、さまざま職場に配置されたパイロット訓練生たち。当時の彼らの働きぶりを、市江正彦社長は「みんな優秀。神戸にいた訓練生は、法人から契約を取ってきましたよ」と、高く評価する。

 一方で、社内では訓練を本当に再開すべきか、揺れていたという。訓練生を募集した当時と異なり、この時は破綻企業。「スカイマークの規模で自社養成をやるのか、という声もありました」と、市江社長は明かす。

 訓練再開は、2016年の春前に決まった。「正月に訓練生たちと話した際、『ぜひ再開してください。機長になって頑張ります!』って言われてね。1期生と2期生合わせて40人弱。目的意識がはっきりしてましたよ。パイロットになりたい、という気持ちが強かった。(破綻したのに)それでも会社に残っているのは、根性がある」(市江社長)と、彼らの想いに応えた。

“必ず再開する”を信じて

出発前に髙橋機長(右)とブリーフィングするベヒシュタイン副操縦士。「必ず再開する」の言葉を信じて頑張った=18年4月6日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 営業部門に配属されたベヒシュタインさんは、「最初のころは、訓練再開が何年後になるかわからない状態でした。上の人たちから『必ず再開する』と言われ、それを信じて頑張るしかなかったですね」と、当時の気持ちを打ち明ける。

 そして2016年4月。訓練が再開された。「急でした。来月からやるよ、くらいの感じで、本当にうれしかったです」と喜ぶベヒシュタインさんは、営業職としての社会人経験で、飛行機を安全に飛ばすだけではなく、会社で働くことの責任や、多くの職種の人によって、1つのフライトが成り立っていることを、強く感じるようになったという。

 訓練の中断中は、仕事の合間に訓練生が集まり、勉強会を開いた。第一陣の4人は、「最初からコケるわけにはいかないので、気持ちを引き締めて頑張りました。4人はちょうどよいバランスで得手不得手があり、助けてもらうことも多かったです」と、ベヒシュタインさんたちは、チームワークで訓練や試験を乗り切った。

 2017年11月に実機を初めて飛ばし、12月に国交省の試験に合格すると、今年1月からはOJTがスタートした。機長とベヒシュタインさんのほかに、もう1人正規の副操縦士が乗務して、乗客を乗せた運航便の操縦桿を握る。

 シミュレーターや乗客が乗っていない実機と異なり、当然ながらさまざまハプニングが起きる。ベヒシュタインさんは54レグ(区間)のOJTを終え、副操縦士として一本立ちした。

「この会社でよかった」

 取材当日の4月6日は、副操縦士として4日に初フライトしてから3日目。ベヒシュタインさんは、羽田を午前11時13分に出発した福岡行きBC009便(737-800、登録番号JA737Q)と、福岡午後1時54分発の羽田行きBC012便(同)に、髙橋正博機長と乗務した。風が強かったが、大きな遅延もなくフライトを終えた。

羽田発福岡行きBC009便のコックピットから手を振る髙橋機長(手前)とベヒシュタイン副操縦士=18年4月6日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 羽田に戻ったベヒシュタインさんに、3日間の感想を尋ねた。「1日目は機内アナウンスで、副操縦士として初めて名前を呼ばれました。OJTでは、正規の副操縦士も同乗していましたが、副操縦士としての責任が一気にのしかかってきます。運航は奥が深く、やっとスタートラインに立てました。やり遂げたという感覚はないです」と気を引き締める。

 スカイマークに自社養成パイロットとして入社した社員は、2017年入社の4期まで入れると46人。同社では、最短5年で副操縦士から機長に昇格できる。市江社長は「実力があれば認められるようにし、飛んでいる副操縦士を訓練する部署を新設しました」と説明する。

 ベヒシュタインさんは、「パイロットを目指して後悔したことはありません。この道を選んでよかったし、この会社でよかったです」と、訓練生として過ごした4年間を振り返った。

 スカイマーク初の自社養成パイロットたちは、機長昇格に向けてスタートラインに立った。

福岡行きBC009便の出発前に髙橋機長(右)とブリーフィングするベヒシュタイン副操縦士=18年4月6日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

福岡行きBC009便に向かう髙橋機長とベヒシュタイン副操縦士=18年4月6日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

福岡行きBC009便に向かう髙橋機長とベヒシュタイン副操縦士=18年4月6日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

コックピットで出発準備するスカイマーク自社養成パイロット1期生のベヒシュタイン副操縦士=18年4月6日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

コックピットで出発準備するスカイマーク自社養成パイロット1期生のベヒシュタイン副操縦士=18年4月6日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

髙橋機長(左)と乗務するスカイマーク自社養成パイロット1期生のベヒシュタイン副操縦士=18年4月6日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

福岡行きBC009便の出発前に髙橋機長や客室乗務員と機内でブリーフィングするベヒシュタイン副操縦士=18年4月6日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

髙橋機長とベヒシュタイン副操縦士が乗務し羽田を出発するスカイマークの福岡行き009便=18年4月6日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

髙橋機長とベヒシュタイン副操縦士が乗務し羽田を出発するスカイマークの福岡行き009便=18年4月6日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

羽田に着陸するスカイマークの福岡発012便=18年4月6日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

髙橋機長とベヒシュタイン副操縦士が乗務し羽田に到着するスカイマークの福岡発012便=18年4月6日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

髙橋機長とベヒシュタイン副操縦士が乗務し羽田に到着したスカイマークの福岡発012便=18年4月6日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

髙橋機長とベヒシュタイン副操縦士が乗務し羽田に到着したスカイマークの福岡発012便=18年4月6日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

羽田に到着し福岡発012便から降機した髙橋機長(右)とベヒシュタイン副操縦士=18年4月6日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

羽田に到着しデブリーフィングする髙橋機長(中央)とベヒシュタイン副操縦士(左)=18年4月6日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

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