エアライン, 企業 — 2016年12月1日 20:15 JST

ANAとHIS、宇宙ベンチャー出資 23年に商用運航

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 ANAホールディングス(9202)とエイチ・アイ・エス(HIS、9603)は12月1日、宇宙機を開発・製造するベンチャー企業、PDエアロスペース(PDAS、名古屋市)と宇宙輸送の事業化に向け資本提携したと発表した。PDASは2023年12月の商用運航開始に向け、開発を加速させる。

有人宇宙機のイメージパネルを手にする(左から)HISの澤田会長兼社長、PDASの緒川社長、ANAHDの片野坂社長=16年12月1日 PHOTO: Yusuke KOHASE/Aviation Wire

高度100キロの「弾道飛行」実用化目指す

 10月28日付で資本提携し、HISは3000万円、ANAHDは2040万円を出資。持株比率はそれぞれ10.3%、7%となる。

 2社は資本の提供のほか、ANAHDは旅客機運航のノウハウを活かし、宇宙機のオペレーションをサポート。HISは宇宙旅行や輸送サービス販売を担当する。

 PDASは資金調達により、宇宙空間の高度100キロに向けて発射し、出発地に帰還する「弾道飛行」の実用化を目指す。弾道飛行の技術を、宇宙空間を飛行して地球上の目的地に向かう「二地点間飛行」にも転用する。

 今後は2017年10月をめどに無人機システムの要素技術を実証し、2018年10月に無人で、2020年10月に有人による高度100キロ到達を目指す。その後、FAA(米国連邦航空局)と国土交通省からの認証を2023年5月に取得し、同年12月の商用運航開始を計画している。

PDASが特許を取得した「パルスデトネーションエンジン」の概念図(同社資料から)

 PDASは、1つのエンジンでジェット燃焼とロケット燃焼を切り替えられる「パルスデトネーションエンジン」を開発。空気のある高度15キロまではシャッターを開き、空気を取り入れる「ジェット燃焼モード」で作動させ、空気のない高度15キロ以上ではシャッターを閉じ、酸化剤を空気に見立てる「ロケット燃焼モード」で作動させるもので、2012年に特許を取得している。

100万円台で宇宙旅行も

 PDASの緒川修治社長は「課題はコスト」と述べ、ロケット1基にかかる費用を説明した。ロケットには1回限りの使い捨てパーツが多く使用されていることから、コストがかさむ。例えば、国産ロケットのH-IIAは110億円、スペースシャトルは1100億円かかるという。

 同社はパーツを使い捨てることなく、航空機のようにすべてを繰り返し使用する宇宙機「完全再使用型弾道宇宙往還機」の開発に着手している。再利用することで、輸送コストを他社と比較し55%削減する。有人機の場合、全長は14.8メートル、乗務員を含め8人が搭乗でき、搭載量は1000キログラム。高度100キロまで飛行できる。

 海外で弾道飛行での宇宙旅行を目指す他社は、1500万円から2500万円の旅費を設定している。緒川社長は他社の7割程度の価格を検討するとし、「庶民の宇宙旅行を目指す。最終的には欧州へ行くくらいの価格」との展望を述べた。当初は1000万円台から開始し、将来的には100万円程度の価格設定になると見られる。

片野坂社長「すぐにメリットない」

 HISの澤田秀雄会長兼社長は「本格的な事業展開には資本が必要で、増資がいちばん」と話した。「これだけでは足りない。いろいろな方に協力してもらいたい」と続け、他社に対しさらなる資金提供を求めた。

 ANAHDの片野坂真哉社長は出資理由について、「事業化後は機内の仕様やパイロットの訓練、整備など、航空輸送で培った技術が役に立つ」との認識を示し、「すぐにメリットがあるわけではない。航空会社の“飛ぶ空間”が広がることはいいこと」と話した。

 社長就任初日となった2015年4月、片野坂社長は入社式でパネルに「次は宇宙へ」と寄せ書きし、将来の宇宙展望を以前から明らかにしていた。自身が入社して間もないころの社内報に「将来のANAは、いつか宇宙を飛んでいる」と書いたエピソードを披露し、「宇宙は『新しい分野』への挑戦でもある」としていた。

 片野坂社長によると、緒川社長が2016年7月に傘下の調査研究機関・ANA総合研究所にコンタクトを取ったことから提携を決定したという。また、エンジンの特許を取得していることも出資理由のひとつ、と説明した。

関連リンク
PDエアロスペース
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片野坂社長インタビュー
(上)「データにとらわれず、世界を読む」(15年4月17日)
(中)MRJ「製造中止まっぴらごめん」(15年4月18日)
(下)「要望を見抜く観察力が大事」(15年4月20日)