エアライン, 機体, 解説・コラム — 2016年4月18日 09:25 JST

仏ATRのCEO、ターボプロップ機の優位性強調 鹿児島でMRO展開視野に

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 エアバスなどが出資するターボプロップ機メーカーの仏ATRは4月14日、日本市場でのビジネス戦略説明会を都内で開いた。来日したパトリック・ド・カステルバジャックCEO(最高経営責任者)は、短い滑走路で離着陸でき、低騒音・低燃費であることをアピールした。

 また、鹿児島に開設したスペアパーツセンターを活用したMRO(整備・改修・オーバーホール)ビジネスの展開や、フライトシミュレーター設置にも意欲を見せた。

 ATRはビジネス戦略説明会を開いた翌15日、天草エアの熊本発伊丹行きの定期便を利用した、ATR42の試乗会を実施。客室の広さや静粛性などをアピールした。

—記事の概要—
天草エアとJAC導入
ジェット機より45%低燃費
前方貨物室で折り返し時間短縮
日本でMRO展開も
MRJ「競合しない」

天草エアとJAC導入

 ATRのターボプロップ機は、48-50席仕様のATR42と68-78席仕様のATR72の2機種で構成。日本国内では、天草エアライン(AMX、AHX/MZ)が初導入し、ATR42-600型機「みぞか号」(登録番号JA01AM)を2月20日に就航させた。

熊本空港に駐機中の天草エアライン「みぞか号」。日本初導入となったATR機だ=16年4月15日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

パリ航空ショーで開かれた調印式でATR42-600の模型を手にするJACの安嶋社長(左)とATRのパトリック・ド・カステルバジャックCEO=15年6月15日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 天草エアはこれまで、ボンバルディアDHC-8-103型機(登録番号JA81AM)を唯一の機体として運航していたが、2000年3月の就航から16年が経過し、DHC-8より9席多い48席仕様のATR42に置き換えた。

 ATR42-600は、日本航空(JAL/JL、9201)グループで鹿児島空港を拠点とする日本エアコミューター(JAC/3X)も、2017年から導入。2015年6月に開かれたパリ航空ショーで8機を確定発注し、1機をオプション、14機の購入権付で契約した。

 日本の航空会社への機体引き渡しが始まったことで、鹿児島にスペアパーツセンターを開設し、2015年10月には東京駐在事務所をエアバスの東京オフィス内に開設している。

 現在ATRのアジアにおける訓練センターはシンガポールにあり、天草エアやJACのパイロットはここで機種移行訓練を受けている。カステルバジャックCEOは、「日本にもシミュレーターを置きたい」と述べ、訓練センターの開設に前向きな姿勢を示した。

ジェット機より45%低燃費

 「50-90人乗りのリージョナル機市場で、2010年から15年までの受注シェアはATR42とATR72で37%。納入機数は5年間で70%増えており、今後3年分の受注残を確保している」と、カステルバジャックCEOはシェアの高さを強調。100カ国200社で運航されており、同社で1500機目の受注はJACからのものだったと語った。

熊本発伊丹行きの機内でブランケットを配る天草エアラインの客室乗務員。機内の広さや快適性がATR機の売り=16年4月15日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

都内で会見するATRのカステルバジャックCEO=16年4月14日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 「機内の広さはボーイング737型機やエアバスA320型機の1列6席を4席分にした広さと同じで、手荷物収納棚も大きく、ターボプロップ機市場では客室がもっとも広い。客室内高度も7200相当フィートのリージョナルジェット機や大型機の6000相当フィートより低い3800フィート相当で、耳に掛かる圧力が低く機内は快適だ」と説明した。

 ATR42とATR72の2機種については「同じコックピットで同じライセンスの型式限定、同じエンジンとプロペラ、90%が共通のスペアパーツだ」と、必要とする座席数に応じた機体を選べるメリットを強調した。

 エンジンについても、「ジェット機と同じタービンジェットエンジンを使用している。プロップ機はプロペラを、ジェット機はファンを回転させている」と説明。「離陸後の上昇や着陸に向けた下降で燃料を多く使うが、ATR機は上昇下降が早く、エネルギー効率が高い」と述べ、ジェット機と比べて短距離では燃料消費量を45%削減出来ることや、二酸化炭素(CO2)排出量を年間1機当たり5000トン削減出来ること、外部騒音が13dB低いことなどをアピールした。

 このため、ATRでは、ATR42やATR72を「エコ・プロップジェット」と呼び、ブランディングしている。

前方貨物室で折り返し時間短縮

みぞか号に荷物を積み込む天草エアラインの社員=16年2月20日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 また、離島などで乗客だけではなく貨物を運ぶことを考慮し、ATR72-600では最大72席の旅客型のほか、44席と1400キロの貨物を積めるコンビバージョン(客貨混載型)の機体を用意。機体前方に大型貨物室を設ける。

 「前方に貨物室を設けることで、地上支援設備がない空港でも容易に貨物の搭降載が出来る」と、カステルバジャックCEOは地上高が低い機体前方に貨物室を置くメリットを語る。

 地上高が低く、広い貨物室を設けることで、「ターンアラウンドタイム(折り返し時間)を短縮できる。運航便数を増やせることは、地域航空会社の収益面で重要」と説明した。

日本でMRO展開も

 リージョナル機の日本市場について、カステルバジャックCEOは「ジェット機が就航できない1500メートル以下の滑走路を持つ日本国内の30空港にも乗り入れできる。国内の平均フライト距離は、ATR機がターゲットとする典型的な地域間輸送と同じ平均225海里でスイートスポット。平均座席数は68席だ」と述べ、50席のATR42や70-78席であるATR72との親和性の高さを説明した。

天草エアラインのDHC-8-Q100。ATR42は経年化した同機の後継機=16年2月19日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 ATRでは、2025年までに日本市場では100機のリージョナル機が必要となり、うち70機がターボプロップ機と予測している。100機のうち、50機は経年化したターボプロップ機の代替需要、30機はリージョナルジェットの経年機の代替需要、20機が新規路線用のリージョナル機需要とした。

 カステルバジャックCEOは、鹿児島のスペアパーツセンターを軸としたMROビジネスの展開にも言及。「他国より充実した施設で、オーバーサイズ気味に作った。MRO機能を持たせて外からの需要を取り込みたい」と語った。

 また、自衛隊や海上保安庁向けの販売については、「選定機種の候補にはなっている」と述べ、他国での採用実績に触れた。

MRJ「競合しない」

伊丹空港を離陸する天草エアラインのATR42みぞか号=16年4月15日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 一方、三菱航空機が開発中のリージョナルジェット機「MRJ」と競合する可能性は否定。MRJは飛行試験が進む1クラス92席の「MRJ90」と、設計を進めている1クラス78席の「MRJ70」の2機種で構成され、MRJ70はATR72に近い座席数だ。

 「ATR機とMRJは投入路線の航続距離が違い、補完関係にある」(カステルバジャックCEO)と説明。また、「90席クラスはジェット機が中心だと思う」と述べ、同クラスのターボプロップ機を開発する可能性は当面低いとの考えを示した。

 「仮の話になるが、新しく飛行機を作るのであれば、100席になるだろう」と語った。

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天草エアライン
Avions De Transport Regional

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