エアライン, ボーイング, 機体, 解説・コラム — 2015年7月27日 15:00 JST

12時間半乗っても疲れない 特集・JAL国際線ファーストで行くパリ(3)

By
  • 共有する:
  • Print This Post

 ファーストクラスの特典航空券をどのようにゲットしたか、どのようにマイルをためたのか、羽田にはファーストクラス専用導線がない、空港のラウンジでは何を食べたのかと、本特集ではこれまでの2回、日本航空(JAL/JL、9201)のファーストクラスに搭乗するまでの様子を書いてきた。

シャンパンは「サロン」が飲めるJALのファーストクラス=6月14日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 特典航空券でJALのパリ行きJL45便のファーストクラスに乗り、パリ航空ショーへ向かうこの特集。前回は食事のペース配分に失敗した空港編を第2回としてお届けした。

—記事の概要—
マンガ喫茶みたい?!
幻のシャンパンを堪能
機内食は和食をオーダー
ロエベのアメニティ
12時間半でも疲れない

 最終回となる今回は、ついに機内へたどり着く。

マンガ喫茶みたい?!

 機材はボーイング777-300ER型機の新仕様機「SKY SUITE 777(スカイスイート777)」。登録番号を見ると、JA733Jと書いてある。Aviation Wireが創刊間もない時期に、改修開始時から取材できた初号機(JA731J)か、昨年取材した最後の改修機(JA741J)のどちらかが希望だったが、こればかりは仕方がない。人生初のファーストクラス、できれば最初に取材した初号機に乗りたかった。

JALスカイスイート777のファーストクラス=6月14日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

JALのファーストクラスは扉がないので”マンガ喫茶”よりは開放感がある=14年7月24日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 機内に入ると、何だか落ち着かない。初めて取材以外で踏み入れた、ファーストクラスの率直な感想だ。機内で個人が使う空間としては、別格の広さと言えるだろう。

 一人ひとりのスペースにゆとりがあり、窓で数えると最低3つ分が1人分の空間。木目調のデザインを取り入れたシートは、1-2-1配列で計8席。ベッド長は約199.4cm、ベッド幅は最大約84cmと世界最大級のベッドサイズで、テンピュールの寝具を採用している。個人モニターは23インチと大型で申し分ない。

 最初は持てあまし気味だったが、しばらくすると慣れてしまうものだ。小物の収納スペースが用途ごとにあり、使いやすかった。

 過去にファーストクラスに乗った経験がある友人は、身の回りにありとあらゆるものが揃い、個人の空間が作られている様子を、「マンガ喫茶みたいだった」と表現していた。JALの場合、出入口に扉がついていないので、そこまでマンガ喫茶のようには感じなかったが、言い得て妙だ。

 扉付きで完全に個室になるタイプと、JALのようにやや開放感があるタイプでは、好みが分かれるだろう。

幻のシャンパンを堪能

 羽田を午前10時30分すぎに出発し、約12時間半の旅が始まった。離陸してしばらくたつと、飲み物のサービスが始まる。JALのファーストクラスでは、仏サロン社のシャンパン「シャンパーニュ サロン 2002」がメニューに載っている。「幻のシャンパン」とも呼ばれる、目玉商品のシャンパンを頼んでみた。

幻のシャンパンとも呼ばれる「サロン」=15年6月14日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 周りを見ると、ほとんどの乗客が1杯目はサロンを選んでいる。私は無線LANによる機内インターネット接続サービス「スカイWi-Fi」を使い、iPhoneからFacebookに“ファーストクラス自慢”の投稿をしてみた。

 すると、旅好きの友人たちからは、「サロンは頼んだか」「たくさん飲んでこい」と、過去にJALのファーストクラスに乗った友人を含め、“サロン推し”のコメントが多かった。

 食事を終えるまでに3杯飲んだ。確かにおいしかったが、「さすがはサロンはですね」「まさに幻だ」といった、歯の浮くセリフは浮かんでこなかった。しかし、思わず3杯は飲んでしまう、そんなシャンパンだった。この飛行機から降りたら、次はいつ飲めるのだろうか。

 グラスに注がれて泡がほんのりと浮かんでいく様は、実に美しい。ファーストクラスに乗ったんだと実感するには、十分すぎる体験だった。

機内食は和食をオーダー

 最大の楽しみと言える機内食は、和食と洋食が選択できた。普段は洋食を選ぶが、今回は和食を選んでみた。東京・六本木「日本料理 龍吟」の山本征治シェフ監修のメニューだ。せっかくの東京発便であることと、メインで肉が出てくることが、選択の決め手となった。

和食の機内食は「季節の小皿」からスタート=6月14日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

睡眠を取った後に食べた特製ラーメン=6月14日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 ファーストクラスのコースでは、季節の小皿、お椀、海鮮、台の物、飯物、留め椀、甘味と大きく分けて7種類が出てくる。小皿は焼きナスと穴子や厚焼きたまごなど5品が並ぶ。メインとなる台の物は、「厚切り和牛フィレ肉と賀茂茄子 すき焼き夏仕立て」だ。最後まで食べると、かなりの量だ。

 ここでラウンジでの食べ過ぎが効いてくる。最初は余裕で食べていたが、メインが登場する頃にはお腹が張ってしまい、おいしくても一皿を平らげるのは厳しかった。人間、無尽蔵には食べられない。今度ファーストクラスに初めて乗る読者の方は、ぜひラウンジでの食べ過ぎに注意していただきたい。本当に苦しかった。

 肉が食べられるからと選んだ和食だったが、炊きたてのご飯も理由の一つだった。一週間も日本を離れる以上、最後にご飯を食べるチャンスだ。やはり機内で炊きたてのものを食べられるのは、普段とは違った良さがあり、おいしくいただくことができた。

 しかしここでまた、食い意地が張ってしまう。洋食メニューに載っている「メゾンカイザー特製パン」も捨てがたかったので、食後にパンもいただいた。肝心なメインの時には、お腹がかなり苦しかったが、時間が経つと不思議なものでパンを食べることはできた。そして、デザートの龍吟特製プリンを、コースの最後に食べた。

 機内では、このほかにカレーや醤油ラーメン、カツサンドなどのアラカルトメニューも好きなタイミングで食べられる。この中では醤油ラーメンだけ、睡眠を取った後に食べた。機内という制約が多い環境の割には、おいしいラーメンを味わえた。

 私の好物である「ラーメン二郎」は仮に機内で再現できたとしても、においが独特なので、メニューに載せるのはかなり難しいだろう。せめて、北海道・千歳の「味の一平」の特製味噌チャーシューラーメンは、どうにかならないだろうか。

ロエベのアメニティ

ロエベのアメニティ(未開封)=7月27日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 今ではビジネスクラスでフルフラットシートが当たり前となり、快眠を求めるからこそファーストクラス、という理由で乗る人は少なくなっただろう。どちらかと言えば、客室の定員が少ないことによる静かさやゆとりが、価値につながっている。食事までを終えて感じた良さは、こうした数値化しにくい要素だった。

 食事以外では、スペインの高級ブランド「ロエベ」とコラボレーションしたアメニティキットや、寝間着が渡される。いずれも機内では使用しなかったので、降機する際に手提げ袋に入れてもらった。

 帰国後、取材先の方と会食した際も“ファーストクラス自慢”をしてしまったが、このロエベはかなり興味を持つ人が多かった。

12時間半でも疲れない

 そして、ベッドの用意も客室乗務員がしてくれる。食後にトイレへ行っている間にお願いしておいた。

寝具を用意したファーストクラス=6月14日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 ファーストクラスの価値の一つは、前述のように快適な眠りだ。このため、機内では仕事をせず、寝ることに徹する人が多いと聞いていた。しかし、私が乗った便では、半数近い人が機内食の時間の前後くらいまでは仕事をしていたようで、食事を終えて3時間程度たつと、自分の時間を楽しんでいるようだった。

 私もサロンを3杯、日本酒を2杯ほど飲み、お酒がまわったこともあってか、食後にベッドが用意されると爆睡してしまった。普段は1、2時間程度しか寝られない日も多く、まとまった睡眠が取れたのは良かった。

 眠りから覚めると、映画やビデオを見たり、取材で気になる点を整理しながら過ごした。スカイWi-Fiは衛星回線を使う関係で、つながりやすい場所とそうでない場所があるので、地上に近い状態でネットを楽しむのは難しい時間帯がある。これは昨年、ロンドン便に乗った時も同じだった。

約12時間半かけてパリに到着=6月14日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 6月14日午後4時前。約12時間半の旅を終えてパリに到着した。最初は広さにどことなく圧倒されてしまい、落ち着かなかった自分の席も、長く乗っていると愛着を感じるものだ。普段よりもよく眠れたことで、長旅の疲れはなかった。これがファーストクラスの価値の一つだろう。

 機内でのサービスにも満足し、ファーストクラスに乗って良かったと思えるフライトだった。12時間半という長い時間をファーストクラスで過ごしてみて、奇をてらったサービスではなく、不満を感じずに普段通り過ごせることこそが、一番のサービスなのではと感じた。

 そして、シャルル・ド・ゴール空港に降り立ち、バスと地下鉄を乗り継いで宿泊先のホテルへ向かった。

   ◆ ◆ ◆

 「JAL国際線ファーストで行くパリ」と、ツアーの広告のような特集タイトルを付けてしまったが、少しはファーストクラスの旅を“体感”していただけただろうか。

 人生初のファーストクラス体験。確かにビジネスクラスでも、フルフラットシートなら快適に眠れる。しかし、数十席あるビジネスと、8席しかないファーストでは空間のゆとり、客室乗務員のサービスのきめ細かさなど、マニュアル化や数値化が難しい分野の差が、非常に大きいと感じた。

 今回ファーストクラスというものに実際に乗り、改善した方が良いと感じたことは、ラウンジの混雑状況や、羽田空港固有の問題であるファーストクラス客向け導線がないに等しいことと、空港関連ばかりだった。

 ファーストクラス客向けには、ビジネスや上級クラス会員よりも、ラウンジでゆったり過ごせる工夫があったほうが良いのではないか。羽田のファーストクラスラウンジそのものの問題ではなく、ファーストクラス客専用ゾーンのようなものを設けるような、運用の改善で良さそうだ。

 航空業界は優雅に見えるが、とかく露骨な階級社会を感じる世界だ。まして欧州はその傾向が強い。そうした感覚を持つ外国人客を、今後はさらに取り込む必要がある。

 2020年の東京五輪開催という大きな節目を目指すにあたり、訪日(インバウンド)需要の取り込みを進め、より多くの富裕層に日本の航空会社を使って訪れてもらうためには、航空会社だけが努力しても、空の旅の魅力を増すことは難しい。日本の空の玄関である、羽田国際線ターミナルの設備レベルを抜本的に見直すことが急務だ。(おわり)

パリ行きJL45便の搭乗口。ファーストクラスなら搭乗開始時刻に並ぶ必要がそもそもなかった=6月14日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

いよいよ機内へ=6月14日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

JALスカイスイート777のファーストクラス=6月14日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

横にある物入れには、MacBook Pro 13インチがは収納できた=6月14日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

ドアが閉まり出発=6月14日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

羽田を出発しパリへ=6月14日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

羽田を出発しパリへ。地図はまだ東京=6月14日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

羽田C滑走路(16L)から離陸=6月14日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

和食は「季節の小皿」に続いて「お椀」=6月14日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

次は「海鮮」=6月14日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

メインとなる「台の物」とご飯、お椀=6月14日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

メインの「厚切り和牛フィレ肉と賀茂茄子 すき焼き夏仕立て」=6月14日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

龍吟特製プリン=6月14日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

洋食メニューの「メゾンカイザー特製パン」=6月14日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

スイーツも出る=6月14日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

シャルル・ド・ゴール空港へ着陸する際に見えた、パリ航空ショーの会場となるル・ブルジェ空港=6月14日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

パリ到着前のファーストクラスの機内=6月14日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

シャルル・ド・ゴール空港に到着したファーストクラス。最初は落ち着かなかった自分の席も長く乗ると愛着を感じた=6月14日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

関連リンク
スカイスイート 777(日本航空)

特集・JAL国際線ファーストで行くパリ
(2)専用ラウンジは食べ過ぎ注意(15年7月25日)
(1)特典航空券でファーストクラスに乗ってみた(15年7月24日)

スカイスイート 777
写真特集・JALスカイスイート777ができるまで
最終回 格納庫離れる最終改修機(14年8月3日)
第2回 新シート244席を手作業で(14年7月30日)
第1回 シート外した機内は広大な空間(14年7月28日)

初号機の機内写真
日航、新国際線機「スカイスイート 777」の機内公開 1月9日ロンドン線就航(12年12月21日)

JALファーストクラスラウンジ
世界へ旅立つ飛行機眺めて鉄板焼き 写真特集・JAL羽田国際線ファースト新ラウンジ(14年9月15日)
JAL、鉄板焼きをファーストクラス客に 羽田新ラウンジ(14年8月29日)