国の運輸安全委員会(JTSB)は8月27日、2024年4月7日に米子空港への進入中、全日本空輸(ANA/NH)の羽田発米子行きNH389便(ボーイング737-800型機、登録記号JA69AN)が、水面近くまで降下した「重大インシデント」について、パイロットが規程類で定めた手順や基準を守らず、滑走路を視認できないまま降下を続けたことが原因だったとする調査報告書を公表した。EGPWS(強化型対地接近警報装置)が作動し、機体の高度は最低254フィート(約77メートル)まで低下していた。

米子空港の滑走路進入時にEGPWSが作動し重大インシデントに認定されたANA(資料写真)=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
また、同便を運航したANAウイングス(AKX/EH)は、発生翌日に国土交通省航空局(JCAB)へ報告したものの、重大インシデントとして扱われたのは発生から12日後で、JTSBによるパイロットへの口述聴取が遅れた。JTSBは航空局に対し、より客観的な調査のため、できるだけ早く事故や重大インシデントを認定することが重要だと指摘した。
—記事の概要—
・警報作動後も降下し最低高度77m
・「周回進入」を「視認進入」と誤認
・機長に疲労蓄積、副操縦士は1カ月ぶり飛行
・翌日運航でCVR上書き
警報作動後も降下し最低高度77m
重大インシデントが起きた2回目の進入では、機長が副操縦士に何度か滑走路が見えるか尋ねたものの、副操縦士はいずれも「見えない」と答えた。機長は自ら滑走路を探しながら、ND(ナビゲーション・ディスプレイ)などの計器を頼りに降下旋回を継続。副操縦士は機長に2度「低い」と指摘し、その直後の午後9時27分33秒、高度270フィート(約82メートル)でEGPWSが作動した。機体はその後も一時降下し、同38秒に最低高度254フィート(約77メートル)となった。

羽田発米子行きNH389便の推定飛行経路(JTSBの報告書から)

羽田発米子行きNH389便の当該機(JTSBの報告書から)
JTSBは、水面近くまで降下した背景について、機長の疲労や体調不良による一時的な判断力低下とマネジメント不足、副操縦士の混乱や一点集中による状況認識への影響により、双方のコミュニケーションが不足していたことが関与した可能性があるとした。副操縦士の混乱などには、最近の飛行経験不足が関与した可能性も挙げた。
NH389便はANAウイングスの運航便で、乗客132人と乗員6人の計138人が搭乗。けが人や機体の損壊はなかった。
「周回進入」を「視認進入」と誤認
同便は当初、米子空港の海側にある滑走路25(RWY25)へのILS(計器着陸装置)による進入を計画していた。主に操縦を担当する「PF(Pilot Flying)」だった副操縦士は、2000フィートで通過する必要があった最終進入フィックスを2430フィートで通過。機長は副操縦士が適切に降下できていないと認識していたが、体調が思わしくなく注意力が散漫で、通常のように降下率を計算して助言できなかったという。

美保飛行場(米子空港)の操縦席からの右下方(右上方)視界(JTSBの報告書から)

美保飛行場(米子空港)の操縦席からの右後方視界(JTSBの報告書から)
機長はその後、風向や副操縦士が右操縦席にいることを考慮して、隣接する湖「中海」に突き出した滑走路07(RWY07)への着陸を指示し、練習のため手動で操縦するよう求めてFD(フライト・ディレクター)を切った。管制官は滑走路07への「周回進入」を許可したが、副操縦士は「視認進入」を行っているものと認識していた。周回進入は、所定の計器進入後に飛行場や滑走路などを視認し、目視で周回して着陸する方式。一方、視認進入は、所定の進入方式によらず、地上の物標を視認しながら行う方式となる。
機長は滑走路からの距離の目安として、滑走路25側を中心とした半径2海里の円をNDに表示したものの、副操縦士には円を表示したことだけを伝え、中心が滑走路25側であることを伝えなかった。副操縦士は滑走路を判別できず、円も滑走路07側を中心にしたものと思い込み、それを目安に降下したことで高度の判断を誤った。途中で機長と操縦を交代し、1回目の進入は復行した。
1回目の復行後は周回進入を終え、管制官の指示に従った目視による飛行となった。同機は高度1000フィートの右ダウンウインドを要求し、承認を受けた。機長は通常なら滑走路上空を通過するまで直進するところ、滑走路中央付近の上空で右旋回し、ショートカットして右ダウンウインドへ入った。ダウンウインドの高度まで上昇することはなく、FDやオートパイロット(AP)も使わなかった。
EGPWS作動時、操縦席の計器には「PULL UP」と表示され、同表示は午後9時27分33秒から45秒まで13秒間続いた。「TOO LOW TERRAIN」の音声警告は2回作動した。機長は300フィート付近を安定して降下していると思っていたため、最初は警報を誤報かと思ったものの、すぐに出力を上げ、2回目の音声警告で復行した。JTSBは、機長が警報が鳴るまで高度低下を認識していなかった可能性があるとした。
その後の3回目の進入では、機長はAPを使い、副操縦士が滑走路07側を中心とする半径2.5海里の円をNDに表示。午後9時34分に正常に着陸した。当日は天候に飛行上の支障はなく、機材にも特段の不具合はなく、米子空港の飛行場灯火も正常に機能していた。
機長に疲労蓄積、副操縦士は1カ月ぶり飛行
JTSBは、2人のパイロット間の共通認識について、最初の進入で機長が副操縦士へ適切な助言をしなかったことや、着陸方法を変更する際にブリーフィングを実施しなかったこと、NDに表示した円の中心を正確に伝えなかったこと、MDA(最低降下高度)を入力せず自動コールアウト機能を使わなかったことなど、必要な情報交換の欠落が度々生じていたと分析した。

重大インシデントに認定されたANAの羽田発NH389便が着陸時の飛行経路(Flightradar24から、実際の位置や数値と誤差がある場合があります)
機長は、有効な航空身体検査証明書を持ち、勤務時間や乗務時間も会社の基準内だった。一方、重大インシデント後に提出した疲労レポートには、長期的な疲労の蓄積があり集中が困難だったことや、当日は連続勤務4日目で、普段なら就寝を始める時間帯に飛行していたことなどが記されていた。
JTSBは、疲労の蓄積により業務に必要な身体的能力に支障を来していた可能性があり、これにはアレルギー性鼻炎による睡眠不足や、勤務時間の変更に伴う概日リズムのずれが影響した可能性があるとした。
副操縦士は、2020年12月から2023年3月まで854日間乗務を離れ、復帰訓練を経て同年7月に乗務へ復帰していた。重大インシデント当日は約1カ月ぶりの飛行で、PFを担当するのは約1カ月半ぶりだった。夜間の周回進入は実機、シミュレーターとも経験がなかった。副操縦士は、しばらくPFを担当していないことは機長に伝えていたが、夜間の周回進入経験がないことは伝えていなかった。
翌日運航でCVR上書き
調査では、CVR(コックピットボイスレコーダー:操縦室音声記録装置)の記録が残っていなかったことも判明した。EGPWSが作動したことは当日の夜にANAウイングスへ報告されたものの、2時間記録型のCVRを機体から取り卸さないまま、翌日に別のパイロットが米子から羽田まで1便を運航したため、重大インシデント発生時の記録が上書きされた。
JTSBはこのため、パイロット間のやり取りを確認する客観的な資料を得られなかったとしている。事故などの発生が疑われる場合は、次の飛行前にCVRを取り卸すことが重要だとし、25時間記録型への変更は記録保全の負担軽減につながるとした。
また、ANAウイングスは翌4月8日に航空局へ報告したが、重大インシデントとして扱われることになったのは発生から12日後の4月19日だった。このため、JTSBによるパイロットへの口述聴取が遅れた。JTSBは航空局に対し、より信頼性の高い口述に基づいて客観的な調査を行うため、できるだけ早く事故や重大インシデントを認定することが重要だと指摘した。
ANAウイングスは発生後、当該機長と副操縦士を乗務から外して不足点を分析したほか、GPWS作動時の対応に関する知識教育やシミュレーター訓練、独自の規程解釈や安易な規程逸脱を防ぐ確認体制の構築などを実施。疲労や体調不良を早期に申告するための周知なども進めた。
「重大インシデント」は、航空局が「航空事故」につながりかねないトラブルだと認定したもの。航空事故は、航空法第76条に定められている「航空機の墜落、衝突又は火災」「航空機による人の死傷又は物件の損壊」「航空機内にある者の死亡(自然死等を除く)又は行方不明」「航行中の航空機の損傷」を指し、骨折などのけが人が出た際も認定される。
関連リンク
運輸安全委員会
重大インシデント認定
・ANA、米子着陸時に対地接近警報作動 国交省が重大インシデント認定(24年4月19日)
厳重注意と再発防止策
・ANAウイングス、パイロットの役割分担見直し 厳重注意受け再発防止策(25年9月19日)
・国交省、ANAウイングスに厳重注意 湖面近く降下で警報作動などトラブル相次ぐ(25年8月29日)
