エアライン, 官公庁 — 2025年8月29日 14:25 JST

国交省、ANAウイングスに厳重注意 湖面近く降下で警報作動などトラブル相次ぐ

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 国土交通省は8月29日、ANAホールディングス(ANAHD、9202)傘下のANAウイングス(AKX/EH)に対し、厳重注意を行った。2024年4月から今年8月までに、同社運航便でトラブルが4件発生したことを受けたもので、9月19日までに再発防止策を文書で提出するよう求めた。

国交省から厳重注意を受けたANAウイングス=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 4件発生したトラブルのうち、航空事故につながりかねない「重大インシデント」は3件で、2024年4月に米子空港沖で、同年6月に和歌山上空で、今年8月に稚内空港着陸時に、それぞれ発生した。今年5月には広島空港で走行不能となるトラブルも発生した。

—記事の概要—
米子:夜の湖面近くまで降下
和歌山上空:気圧低下で警報作動
稚内:作業車両いる滑走路へ着陸
広島:コンクリ台座乗り越え走行不能に

米子:夜の湖面近くまで降下

 米子での重大インシデントは2024年4月7日夜に発生。ANAウイングスが運航する全日本空輸(ANA/NH)の羽田発米子行きNH389便(ボーイング737-800型機、登録記号JA69AN)が着陸のため進入態勢に入っていた際、機体が低高度になりGPWS(対地接近警報装置)が作動し、着陸をやり直した。

 同便は当初、米子空港の海側(RWY25)の直線進入着陸を計画したが、降下が遅れ滑走路への進入角度が合わずに着陸をやり直した。その後は隣接する湖「中海」に突き出した滑走路(RWY07)への着陸に切り替えた。旋回しながら2度目の進入態勢に入った際、降下を早く開始したことで水面近くまで降下し、GPWSが作動したことから、再度着陸をやり直して、米子空港へ午後9時34分に着陸した。

 同便には乗客132人(幼児なし)と乗員6人(パイロット2人、客室乗務員4人)が乗っていたが、ケガ人はなかった。

和歌山上空:気圧低下で警報作動

 和歌山上空での重大インシデントは同年6月22日に発生。ANAウイングスが運航するANAの長崎発中部行きNH372便(737-800、JA88AN)が午前10時30分ごろ、和歌山県みなべ町上空を飛行中に客室の気圧が低下するトラブルが発生し、警報が作動した。乗客98人(幼児なし)と乗員6人(パイロット2人、客室乗務員4人)の計104人のうち、乗客7人と客室乗務員4人の計11人が耳の違和感や倦怠(けんたい)感を訴えた。

 同便は長崎空港を出発後、高度3万1000フィート(約9400メートル)上空を巡航中、与圧システムの不具合を示す注意灯が数回点灯したため、降下を始めた。その後消灯したが、2万7000フィート付近を降下中に再度点灯し、午前10時30分ごろに2万5000フィート付近で気圧低下を示す警報が作動。客室内の酸素マスクを手動で展開し、管制官に緊急事態を宣言したが、1万フィートまで降下した時点で客室の気圧が安定したため、宣言を取り下げて中部へ通常通り着陸した。

稚内:作業車両いる滑走路へ着陸

 稚内空港での重大インシデントは今年8月20日に発生。ANAウイングスが運航するANAの札幌(新千歳)発稚内行きNH4841便(デ・ハビランド・カナダDash 8-400〈旧ボンバルディアQ400〉型機、JA854A)が午前11時18分ごろ、鳥防除作業車両が使用中の滑走路へ着陸した。

 着陸時は稚内空港周辺に積乱雲が発生し、雷に関する情報もあったことから、同便は経路を変更。パイロットは経路変更に伴う機器の操作などをしながら、滑走路上に障害物がないことを確認して着陸した。一方、東京管制から稚内の航空管制運航情報官に周波数の切り替えと、情報官から着陸前に滑走路情報を取得することの2点を失念した。

 同便には乗客70人と乗員4人(パイロット2人、客室乗務員2人)が乗っていたが、ケガ人はなかった。一方、当該機から飛行記録の確認に必要な機器を取り下ろす作業が生じた影響で、3便が欠航。約170人に影響が出た。

広島:コンクリ台座乗り越え走行不能に

 広島空港でのトラブルは今年5月22日に発生。ANAウイングスが運航するANAの札幌発広島行きNH1272便(737-800、JA84AN)が午後9時すぎ、着陸後、スポット(駐機場)近くの工事区域手前に設置されたコンクリート製台座を乗り越え、走行不能になった。

 広島空港では誘導路の工事が進み、迂回ルートが設定されていた。当該機は広島空港着陸後、ターミナルへの移動中に迂回ルートを通らずに直進。主脚タイヤが台座を乗り越え停止した。今回のトラブルにより当該機は主脚タイヤを損傷した。

 同便には乗客126人(幼児なし)と乗員6人(パイロット2人、客室乗務員4人)が搭乗。このうち乗客2人が軽傷を負った。

  ◇

 国交省航空局安全部の石井靖男部長は、ANAウイングスに対し「安全管理システムが現場を含めた社内全体に対して有効に機能しているとは言えず、航空輸送の安全への社会的な信頼にも大きく影響を及ぼしかねない」とし、再発防止策を9月19日までに報告することを求めた。

 ANAウイングスは2024年度に起きた事案を受け、「技量・能力の向上と確認」「意識改革とコミュニケーションの強化」「組織運営体制の見直し」などを進めたものの、今年度に入り、トラブルが相次いだ。同社は今回の厳重注意を受け「経営トップ自らが先頭に立ち、全社員が一丸となって再発防止策に徹底的に取り組むことで、ANAウイングスへの信頼回復に努める」とコメントした。

関連リンク
国土交通省
ANAウイングス

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