エアライン, 官公庁, 解説・コラム, 需要, 需要予測 — 2025年12月10日 10:55 JST

日本の国内線「航空会社多すぎない」IATA事務総長、成長鈍化も「重要な市場」

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 IATA(国際航空運送協会)のウィリー・ウォルシュ事務総長は、日本の国内線市場について、新幹線との競争が厳しい一方で「航空会社が多すぎるとは考えていない」との認識を示した。成長率は主要国の大型国内市場と比べて高くないものの、世界全体の中では依然として重要な市場だと位置づけた。

ジュネーブで日本の国内線市場についてAviation Wireの取材に応じるIATAのウォルシュ事務総長=25年12月9日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

—記事の概要—
日本の国内線「重要な市場」
ダイヤ調整も議論

日本の国内線「重要な市場」

 スイスのジュネーブにあるIATA本部で現地時間12月9日に、Aviation Wireの取材に応じたウォルシュ事務総長は「日本に航空会社が多すぎるとは考えていない。それが本質的な問題とは思わない」との考えを示した。

国内線の事業環境はコロナにより悪化=20年4月8日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 日本の国内線が世界市場に占める比率について、2000年ごろは約1.6%だったものが、今年は約1.1%になったと説明。その上で「日本の国内線市場は成長のペースこそインドや中国と比べると成熟しているが、規模の面では依然として大きい。世界市場に占める割合は下がっているが、それでも日本の国内線は重要な市場だ」と市場規模の大きさに言及しつつ、今後の成長率は「かなり緩やかなものになるだろう」と語った。

 日本の国内線は、新幹線との競争が激しいことで知られる。ウォルシュ事務総長は、新幹線について「ネットワークが非常に優れている」と評価し、航空会社にとって強力な代替手段になっており、「日本特有の要素」だと指摘。一方で、強い競争環境にありながらも、日本の航空各社は国内線ネットワークを維持し、需要に応じて運航を続けているとした。

 ウォルシュ事務総長は「国内線ネットワークは、日本の航空会社だけでなく、日本へ乗り入れる海外の航空会社にとっても重要だ」と、主要空港と地方空港を結ぶ路線ネットワークが、国際線から国内各地への乗り継ぎ需要を支えていることに言及。国内線のネットワークが、日本の航空市場全体の競争力を下支えしているとの考えを示した。

ダイヤ調整も議論

 国土交通省航空局(JCAB)は、コロナ後の生活環境の変化や円安影響を受け、国内線の事業環境が急激に悪化していることから、「国内航空のあり方に関する有識者会議」を立ち上げ、5月に初会合を開催。12月4日には3回目の会合が開かれ、公正取引委員会と、空港がある都道府県などで構成する全地航(全国地域航空システム推進協議会)からヒアリングした。

国交省で開かれた「国内航空のあり方に関する有識者会議」の第3回会合=25年12月5日 Yusuke KOHASE/Aviation Wire

 現在はピーク時に異なる航空会社が同じ時間帯に運航しているケースが目立つが、ダイヤ調整による等間隔化などが議論されている。一方で、航空各社が収益性や利用者のニーズを長年追求してきた結果が現在の発着時間帯でもあるため、等間隔にすることが利用者の利便性や航空会社の収益改善にはつながらないとの懸念がある。

 日本の航空会社のうち、航空局が「特定既存航空会社(旧称・新規航空会社)」と分類している、1990年代の規制緩和で参入したスカイマーク(SKY/BC、9204)、エア・ドゥ(ADO/HD)、ソラシドエア(SNJ/6J)、スターフライヤー(SFJ/7G、9206)の4社は、スカイマーク以外の3社が全日本空輸(ANA/NH)とコードシェアを実施。経営参画や管理職の受け皿にもなっている。一方、ANAと3社間の委託コストが、3社の経営に大きな影響を与えているとの声がこれらの航空会社から聞かれる。

  ◇

 IATAは、世界の主要航空会社などが加盟する業界団体で、80年前の1945年設立。航空輸送の安全や運航ルール、環境目標の策定など、航空分野の制度作りを主導している。日本航空(JAL/JL、9201)の「JL」や全日本空輸(ANA/NH)の「NH」といった「2レターコード」はIATAが定めている。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の対策が世界各国で見直しが進んだ2022年には、日本政府の入国制限緩和が主要国と比べて出遅れていたことから、「ほとんど効果がない割に膨大なコストがかかる」(ウォルシュ氏)と批判。その後の緩和につながった。

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