7月の3連休が終わり、夏の最繁忙期が近づいてきた。日本の航空会社の国際線需要は、コロナの影響で大きく落ち込んだが、旺盛なインバウンド(訪日)需要や、アジアと北米を結ぶ3国間流動が旺盛なことで盛り返し、2024年の年末年始からは出遅れていた日本発の海外旅行も再始動しつつある。

羽田空港の客室モックアップで訓練を受けるJALマニラ基地客室乗務員1期生のジャスさん(中央)ら=25年4月21日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
日本航空(JAL/JL、9201)はこうした中、コロナで中断していたあるプロジェクトを再始動させた。フィリピンのマニラで客室乗務員を現地採用する「マニラ客室乗員室」の立ち上げで、客室乗務員の海外基地としては6カ所目となり「マニラ基地」とも呼ばれている。2018年度から立ち上げ準備を進めていたものの、コロナで中断。2024年度から1期生の採用活動が再開され、今年1月24日にマニラで入社式が開かれて20人が入社し、5月下旬から順次乗務に就いており、まもなく1年でもっとも混雑する時期を迎える。
マニラ客室乗員室の江島明代室長は当初から立ち上げに携わっていたが、コロナ期間中はシンガポールへ異動。ほかの業務を進めつつも、いつでもマニラ基地の立ち上げに戻れるよう準備を進めていた。
「最初は日本語のレベルが心配でした」と打ち明ける江島室長。「日本で勉強することも多いので、寝不足で体を壊すのではとか、いろんな心配があったんです」と振り替える。日本での訓練最終日となった4月30日、1期生たちは1月の取材で初めて出会ったころとは打って変わり、明らかに「JALの客室乗務員」の顔つきになっていた。

羽田空港の客室モックアップでの訓練を終え閉校式を迎えたインストラクター手作りの「お守り」を手にするJALマニラ基地客室乗務員1期生たちと江島明代室長(左)、インストラクターの中原美穂さん(右)=25年4月30日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
—記事の概要—
・明るく前向き「本人訓練生にも良い刺激」
・「仲間との絆が家族のよう」
・フィリピンと日本の文化を融合したサービスを
・1期生の仕上がり「6人のおかげ」
明るく前向き「本人訓練生にも良い刺激」
JALの国際線でもっとも利用者数が多いのは北米だ。コロナ後は日本で北米路線とアジア路線を乗り継ぐ需要が伸びており、鳥取三津子社長は「フィリピンはこれから需要がある路線」と位置づけている。客室乗務員出身の鳥取社長は、マニラ基地の1期生に対しては「5年越しぐらいで実現したので、日本航空の客室乗務員として、元気に働いてくれるのを楽しみにしています」と後輩たちに期待を寄せた。

羽田空港の客室モックアップで訓練を受けるJALマニラ基地客室乗務員1期生たち=25年4月21日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
今年1月に入社した1期生たちは、マニラで基礎知識を学んだ後、羽田空港にあるJALの訓練施設で実務訓練を受けた。乗務で必要になる日本語や、接客、安全、身だしなみなど多岐にわたる内容だが、1期生たちは訓練の間もお互いに気づいた点を指摘しあい、明るい雰囲気でありながらも常に真剣なまなざしで挑んでいた。

JAL客室教育訓練部サービス訓練グループの中原美穂さん(右)とマニラ基地1期生たち=25年4月30日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
羽田での訓練を担当した客室教育訓練部サービス訓練グループの中原美穂さんは、「明るく前向きで、仲間と協力し学ぶ姿勢が強いですね。苦労を抱えても人前では明るくする訓練生が多いです」と話す。
一方で、日本人よりも感情の起伏が大きいものの、全体的にはポジティブに受け取っていたという。「日本社会や文化を積極的に吸収しようという意識が高く、日本人訓練生にも良い刺激を与えてくれました。将来のJALにとって、大きな財産になる人材です」と、1期生たちはこれからのJALに何が必要かを気づかせてくれたという。
「仲間との絆が家族のよう」
4月21日。1月の入社式から約3カ月がすぎ、1期生たちは羽田空港の新整備場地区にある施設で訓練を受けていた。この日はフライトを想定し、乗客の搭乗準備から着陸まで、一連の流れを確認する訓練だった。

羽田空港の客室モックアップで訓練を受けるJALマニラ基地客室乗務員1期生のオーウェンさん(左)とジャスさん=25年4月21日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
インストラクターたちが最初に1期生たちの知識を確認して訓練がスタート。客室乗務員が機内に入って最初に行うセキュリティチェック、1期生の中で乗客役と客室乗務員役に分かれての搭乗から離陸、ミールサービス(機内食の提供)、機内販売、降機と、場面ごとに訓練が進められていった。
1期生のジャスさんは「日本に初めて滞在し、文化や規律に驚きと感動を覚えました」と話す。「訓練は大変ですが、仲間との絆が家族のようです。日本の温かさと歓迎を感じ、自分もそうなりたいと思いました」と述べ、「謙虚さと周囲を大切にする客室乗務員を目指します」と目標を語ってくれた。

羽田空港の客室モックアップで訓練を受けるJALマニラ基地客室乗務員1期生たち=25年4月21日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

羽田空港の客室モックアップで訓練を受けるJALマニラ基地客室乗務員1期生たち=25年4月21日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

羽田空港の客室モックアップで訓練を受けるJALマニラ基地客室乗務員1期生たち=25年4月21日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
ジャスさんは1月の入社式で感想を尋ねた女性訓練生だ。2019年度にマニラ基地が開設された際、内定を得た40人の1人だったが、採用中断となったことから他社へ就職し、JALが2024年9月から採用を再開した際、当時乗務していた航空会社を退職して入社した。
男性の訓練生オーウェンさんは、率先して仲間に声を掛け、機内サービスの訓練では自分以外の番でもメモを取り続け、気づいた点を共有していた。ジャスさんも「訓練生同士で励まし合うことが成長につながっていると感じます」と、家族と離れる日本での訓練では、いっそう同期の存在は大きいようだった。
フィリピンと日本の文化を融合したサービスを
4月30日。東京での訓練は3月17日に始まり、この日に羽田の訓練施設で開かれた「閉校式」ですべてのスケジュールを終えた。インストラクターたちからは、1期生に手作りの「お守り」がプレゼントされ、乗務の安全を願った。

羽田空港の客室モックアップで訓練を受けるJALマニラ基地客室乗務員1期生のオーウェンさん(中央)ら=25年4月21日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
JALが海外で客室乗務員を現地採用しているのは、バンコク、シンガポール、上海、香港、台北、マニラ、ロンドン、フランクフルトの8カ所。欧州の2カ所は羽田の部署が管轄しているが、残り6カ所は各地に基地を置いており、バンコクが最大規模で、マニラは6カ所目となった。
マニラから訓練生を受け入れるにあたり、フィリピンの人たちが家族で過ごすことを重視することから、東京での訓練期間をなるべく短縮し、慣れない生活環境でホームシックにかかりにくくするなど、JALでは地域性を踏まえたスケジュールを練った。

羽田空港の客室モックアップで訓練を受けるJALマニラ基地客室乗務員1期生たち=25年4月21日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

羽田空港の客室モックアップで訓練を受けるJALマニラ基地客室乗務員1期生たち=25年4月21日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

羽田空港の客室モックアップで訓練を受けるJALマニラ基地客室乗務員1期生たち=25年4月21日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
閉校式を終えたジャスさんは「情報量の多さは大変ですが、すべてを吸収して最高のJALの客室乗務員を目指します」と、5月から実際に乗務して訓練を受ける「OJT」に緊張していると話しながらも、笑顔を見せた。
「マニラ基地の1期生として、次世代の模範になりたい」というジャスさん。「フィリピンと日本の文化を融合したサービスを提供したいです。JALの客室乗務員であることに誇りを持っています」と、1月に入社式で出会った時に感じた「明るいフィリピンの女性」という印象に、JALの客室乗務員らしさが加わっていた。
1期生の仕上がり「6人のおかげ」
コロナ前からマニラ基地の準備を進めてきた江島室長は「マニラから送り出した時は日本語のレベルが心配でしたが、みんなで助け合い、フィリピンの人の明るさというか、明るく元気に訓練を過ごせたと感じ、安心しました」と安堵していた。

マニラ市内で開かれた客室乗務員1期生の入社式で新入社員の襟に社章を付けるJALマニラ客室乗員室の江島明代室長(右)=25年1月24日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
東京での訓練後は「社会人としての自覚と責任感が養われたと思いました」と話す江島室長。1月の入社式後に行われた最初の講義では、JALが2010年の破綻後に制定した「JALフィロソフィ」や、安全に対する考え方などを、自ら講師として1期生たちに伝えた。

入社式後にマニラ基地1期生に講義する江島室長=25年1月24日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
1期生の東京での訓練の仕上がりは「90点くらいかな」という江島室長は、残り10点はOJTを通じて高めていきたいと話していた。「日本人のようになって欲しいとは思いませんが、“日本人の心”をちょっと注入できたのでは」と、東京で訓練する意義を成長した1期生の姿から感じ取っていた。
コロナによる中断を挟んで迎えた1期生の訓練修了。当初採用した訓練生のうち、ジャスさんら6人が改めて入社してくれたことは「6人は私たちが背負ってきたこともわかってくれていて、新たに入った訓練生と一緒に育ってくれたことは宝だと思います。1期生の仕上がりは、6人のおかげでもありますね」と、コロナ前からのマニラ基地に対する思いを理解してくれる6人の存在は大きかったという。
◇ ◇ ◇
マニラ基地の1期生はマニラ路線のほか、英語圏の乗客が多い路線に乗務。すでに2期生の採用も決まっており、JALの国際線の乗客が日本人主体だった時代から変わった今、新しい接客のあり方を示す存在に育っていくだろう。
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