エアライン, 解説・コラム — 2023年5月7日 20:15 JST

「メカニズムは壊れるもの」故障対策も万全!JAL整備士お手製の足踏み式消毒噴霧器

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 感染症法上の「2類相当」と分類されている新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が、5月8日から季節性インフルエンザ並みの「5類」へ移行する。これに伴い、空港に設置されているカウンターの飛散防止フィルムや消毒液なども、8日から順次撤去する方針を示している空港運営会社もあり、航空業界も徐々にコロナ前の日常に戻りつつある。

足踏み式消毒噴霧器を設計製作したJALエンジニアリングの森恒弘さん=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 新型コロナが感染拡大した3年前は、航空会社では整備士たちが端材などを活用してフェイスシールドやカウンターのアクリルパネルを作り、自前で感染防止対策を講じてきた。成田空港にある日本航空(JAL/JL、9201)の格納庫にも、手作りの足踏み式消毒噴霧器があちこちに置かれていた。

 製作したのは、JALグループの整備を担うJALエンジニアリング(JALEC)のベテラン整備士、森恒弘さん(67)だ。家具作りが趣味で、孫の勉強机も製作したという森さんに足踏み式の噴霧器を作った経緯を聞いた。

—記事の概要—
触らずに消毒できる足踏み式
メカニズムは壊れるもの
半年に一度はグリス塗布

触らずに消毒できる足踏み式

 新型コロナの感染が拡大し始めた2020年2月。森さんの職場である成田の格納庫にも、至る所に消毒スプレーが置かれていた。ところがバッグや弁当などを持っていたりと、手が塞がっている同僚の姿を見た森さんは、足で踏んで消毒液が噴き出す仕組みになっていれば衛生的ではないかと考えた。

手作りの足踏み式消毒噴霧器の構造を説明するJALエンジニアリングの森恒弘さん=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

成田空港のJAL格納庫に設置された森さん手作りの足踏み式消毒噴霧器=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 「当時は未知のウイルスでしたからね。誰が触ったかわからないとなると、他人が触ったものにはなるべく触りたくないですよね。弁当を持っていたとしたらまわりに置くところもないですし」と、フライトも徐々に少なくなったことから、足踏み式噴霧器の仕組みを考えたり、適した部品選びを余裕がある時間に進め、メモ用紙に書いて残していったという。

 2カ月ほどたった2020年4月。整備部門もテレワークをやるようにと、会社から連絡があった。「若い人は試験勉強とかありますが、私は“卒業”してますからね」と笑う森さんは、すでに基本的な仕組みがまとまっていたことから、休日やテレワークを活用して試行錯誤し、壊れにくく、整備しやすい構造にまとめていった。

メカニズムは壊れるもの

 森さんは足踏み式噴霧器を消毒液のボトルをセットする上部と、ペダルを踏む下部の2つに分けて設計した。ペダルを踏んだ際の踏み心地や、足に跳ね返らないよう安全性に配慮し、上下はケーブルでつなげた。上下に分けたのは「メカニズムは壊れるもの」だからだという。

消毒液をマジックテープで固定する足踏み式消毒噴霧器の上部部分=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

消毒液をセットする足踏み式消毒噴霧器の上部部分。ペダルとはケーブルでつながっており故障時は手押し式として使えるようにした=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 「ケーブルだと、足踏みで動かなくなっても手押し式にもなります」と、ペダルを踏む部分が壊れたりケーブルに不具合が出ても、消毒液のボトルを手で押せば動くようにした。足踏み噴霧器としては故障しても、消毒液を置くスタンドとしては機能する、ということだ。家具作りが趣味の森さんの自宅には材料がある程度あったことから、足りないものはホームセンターで調達して1号機の製作に取りかかった。

 足踏み式噴霧器が完成したのは、3年前のゴールデンウイーク明け。会社に1号機を見せたところ好評だったことから、特許に抵触していないかを調べた上で使い始めた。格納庫に7台、総務部門の入口に1台を置き、女性が多い総務向けは高さを5センチほど低くしたという。

半年に一度はグリス塗布

 市販の噴霧器の中には、センサーが反応して噴霧するタイプもあるが、森さんの噴霧器は電気が不要でどこでも使える。木製としたのも「1年もしないうちにコロナが収束して、噴霧器も撤去されるのでは、と思っていました」と感じていた一方で、木製でもしっかりしたものを作れば長持ちするのでは、との思いもあった。

足踏み式消毒噴霧器を設計製作したJALエンジニアリングの森恒弘さん=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 「自分が提供した限りは、自分で持ち帰ってメインテナンスします」という森さんは、6カ月に一度、可動部分にグリスを入れて快適な作動状態を維持している。

 現在は定年再雇用で働く森さんは、最長で68歳まで今の職場で働くことができる。「それまでにはいらなくなって欲しいですね」という言葉の通り、足踏み式噴霧器はまもなく整備士たちの感染防止という大役を終えようとしている。

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