エアライン, 解説・コラム — 2022年12月13日 14:55 JST

「この値段だったら」のお客様増える 特集・ZIPAIR西田社長に聞く中長距離LCCの勝ちどころ(1)

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 日本航空(JAL/JL、9201)が100%出資する中長距離LCCのZIPAIR(ジップエア、TZP/ZG)が、成田-サンノゼ線を12月12日に開設した。シリコンバレーを拠点とする企業の集積地で、旅行需要に加えて留学生の渡航や、アジアと北米間の里帰り需要も見込んでいる。

「この値段だったら」と考える利用者が増えると話すZIPAIRの西田社長。休憩スペースにダーツもあるオフィスはアットホームな雰囲気だった=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 世界初の太平洋横断路線となった成田-ロサンゼルス線に続く米国本土2路線目。ボーイング787-8型機(2クラス290席)で、当初は週3往復、1月からは週5往復に増便する。成田発初便の乗客は87人だったが、サンノゼ発は282人と搭乗率97%になった。米国ではすでにクリスマス休暇に入っている人もおり、成田を経由してアジアに里帰りする人も多いようだ。成田発の乗客も、外国人客の姿が目立った。

 ZIPAIRが就航したのは、2020年6月3日。1路線目の成田-バンコク(スワンナプーム)線は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で旅客便は運航できず、787に貨物だけ積む貨物専用便としてスタートした。

 一方、このところの燃油サーチャージ高騰により、ZIPAIRのようにサーチャージを徴収していないLCCによる旅に注目が集まっている。10月の水際対策緩和以降、国際線の需要が回復する中、ZIPAIRの西田真吾社長に現在の旅客動向や中長距離LCCとしての今後を聞いた。

 インタビューの場となった成田空港内にあるオフィスの休憩スペースにはダーツもあり、西田社長が差し入れしているお菓子も置かれて、アットホームな雰囲気が広がっていた。

—記事の概要—
アジアはすぐ満席
太平洋を越える意義
(2)貨物だけで初便就航「考えたこともなかった」
(終)「エアラインの常識は世間の非常識」

アジアはすぐ満席

── 10月11日に日本の水際対策が緩和され、国際線需要が回復傾向だ。

西田社長:ゴールデンウイークくらいから日本のお客様が海外へ行く動きがちょっとずつ始まり、夏休みにブーストがかかり、10月11日の日本のボーダーオープンを迎えた。これでやっと、条件はまだあるが人の動きが戻ってきた感じがする。

 10月からは予約の入り方がインバウンドのお客様のほうが圧倒的に多い。日本は注目のコンテンツなのだと実感した。特に東南アジアからのお客様は多く、待っててくださったんだなと思う。

成田空港でZIPAIRのサンノゼ行き初便ZG30便搭乗前に記念撮影する乗客。外国人客が目立った=22年12月12日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

── 直近の利用状況はどうか。

西田社長:アジアから日本、北米で見た場合、アジア路線はすぐ満席になってしまい、乗り継ぎの人が乗れない便もある。

 しかし、ありがたいのは日本の休みの期間や祝日とずれることだ。アメリカの感謝祭など、ピークがずれるのがありがたい。(日本発と現地発が)両方ともまんべんなく予約が入る状況を作れるようになってきた。

 油が高いなどの課題はあるが、需要だけで言うとだいぶ戻ってきた。

 ただ、(乗り継ぎ客を取りきれていない)今の状況が良いとは思っていない。マーケットの環境が変わったら対応できるようにしておきたい。

── 年末年始の需要動向は。

西田社長:往復で一番良いのはバンコク。生活需要が根強く、日本に住んでいる人の往来がある。(他路線も含めて)年末年始は売り物がほとんど残っていない。

── 海外と2拠点居住している利用者もいるが。

ZIPAIRのビジネスクラスにあたる上級クラス「ZIP Full-Flat」=22年9月9日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

西田社長:家が両方にある人だと、スーツケースも持っていない。リュックとトートバッグだけで乗るような人もいる。オンラインで仕事ができる人だと、大事な用事がある時だけ日本に来る、というような生活もできると思う。

── 距離によってはフルサービス航空会社である必要はない、と感じている人もいる。

西田社長:マーケットがそういう風になっていく。バンコクのように6、7時間だったら「これで十分」とか、西海岸の10時間は「この値段ならこれでいいよ」というお客様が増えてくると思う。

 年末年始はどこの航空会社も運賃が上がるので、「この値段だったら」という効果は倍増していると思う。

太平洋を越える意義

── 2021年12月に初の米本土路線となるロサンゼルスへ就航。LCCとして世界初の太平洋横断路線になった。

成田空港でロサンゼルス行き初便ZG24便を見送るサンタクロースに扮したZIPAIRの西田社長と社員=21年12月25日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

西田社長:北米西海岸と日本、アジアを結ぶのが、我々がLCCをやる意義だと思って突っ込んでいったが、やって良かった。

 我々がよそと違うのは、日本の東側に太平洋があるので、今の飛行機では中型機や大型機でないと越えられない。787は本当にいい飛行機だ。

── そのロサンゼルス就航1年前の2020年12月にホノルル線を開設。円安などがハワイ観光に影響しているが、ホノルル線の現状は。

ホノルルで出発を待つZIPAIRの787-8=22年7月2日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

西田社長:ETOPSを取得して、初めての路線がホノルル線だった。

 ハワイに就航している航空会社は、意外とマーケットが戻ってこないと、どこも感じているのではないか。ホテルが高いとか、レンタカーが高いとか、いろいろあると思う。お客様の数だけで言えば、他社さんより良いとは思うが、ホノルルマラソンの時期でも、そこまでではないな、と感じた。

 (日本からハワイへの乗客が乗っていても)ハワイから日本へ向かうマーケットはそこまで大きくない。一方で、東南アジア路線は日本人旅客が少ないと、その分インバウンドで埋まってしまう状態だ。

つづく

関連リンク
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(2)貨物だけで初便就航「考えたこともなかった」
(終)「エアラインの常識は世間の非常識」

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ZIPAIR搭乗記・サーチャージなしで経費削減
前編 片道3万円でバンコクへ
後編 バンコクまでネット無料
番外編 フルフラットシートで片道10万円

機内の動画(YouTube Aviation Wireチャンネル
ZIPAIR 787-8 JA822J機内公開 フルフラットシートも

写真特集・ZIPAIR 787-8の機内
(1)フルフラット上級席ZIP Full-Flatは長時間も快適
(2)個人用モニターなし、タブレット置きと電源完備のレカロ製普通席
(3)LCC初のウォシュレット付きトイレ

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