エアライン, 解説・コラム — 2019年10月12日 11:34 JST

KLM創立100周年、500キロ以下は高速鉄道と連携 エルバース社長「前に進まないと消える」

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 10月7日で創立100周年を迎えたKLMオランダ航空(KLM/KL)は、500キロ以下の路線は鉄道会社と連携するなど、空の便以外の路線計画の可能性について調査を始めている。バイオ燃料プラントへの投資や、デルフト工科大学と2040年以降の実用化を目指す未来型旅客機「Flying-V(フライングV)」の開発を支援し、持続可能な航空会社を目指す。

 「日本の言葉で『弱肉強食』という言葉があるが、絶え間なく前に進まない限り、業界から消えてしまう」。2002年から2005年まで日本支社長として駐在経験もあるピーター・エルバース社長兼CEO(最高経営責任者)は10日、都内のオランダ大使館で日本語を交えながら、今後の航空会社のあり方にふれた。

来日したKLMオランダ航空のエルバース社長(中央)=19年10月10日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

—記事の概要—
500キロ以下は高速鉄道連携も
V字旅客機は人材確保に好影響

500キロ以下は高速鉄道連携も

 KLMは、利用者とFacebook(フェイスブック)やTwitter(ツイッター)、WhatsApp(ワッツアップ)、中国の微信(ウィーチャット)を使い、デジタルマーケティングを強化。日本では、同じエールフランス-KLMグループ傘下のエールフランス航空(AFR/AF)とともに、LINEを使ったマーケティングを始めている。また、ボーイング787-10型機のビジネスクラスには、日本の航空機内装品大手ジャムコ(7408)のシートが採用されている。

都内のオランダ大使館で開かれたKLMオランダ航空の説明会でエルバース社長が紹介したKLM塗装の高速鉄道やFlying-V(=19年10月10日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

都内で会見するKLMオランダ航空のエルバース社長=19年10月10日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 こうしたサービス強化に加え、KLMが注力しているのが環境サステナビリティ(持続可能性)だ。創立100周年を契機に、KLMは「FLY RESPONSIBLY-責任ある航行」というコミットメントを掲げた。

 その一つが、500キロ以下の路線について、鉄道会社などと連携する計画だ。2020年3月からは、現在週5往復運航しているアムステルダム-ブリュッセル線を1往復減便。アムステルダムのスキポール国際空港の地下へ乗り入れている高速鉄道「タリス」と提携し、KLMの航空券と同じく販売し、長距離路線からスムーズに乗り継げるようにする。

 東京に置き換えると、500キロは岡山までに相当する距離だ。新幹線が発達した日本と比べたエルバース社長は、「欧州ははるかに高速鉄道の発達が遅れている」と述べ、環境負荷を低減する観点で、高速鉄道との共存が燃費の良い航空機への更新とともに、重要なテーマになると語った。一方で、「KLMはオランダ国内線を持っていない」と、運航路線の特性も共存を決断できた理由の一つに挙げた。

 CO2(二酸化炭素)排出量削減に向け、2022年完成に向けオランダ国内で建設が進むバイオ燃料プラントにも投資する。「KLMはバイオ燃料の最大消費航空会社だ」と現状に触れ、欧州の航空会社として唯一、大陸間路線のアムステルダム-ロサンゼルス線にバイオ燃料を使用しており、新プラント完成後は日本路線でも利用することを検討するという。

V字旅客機は人材確保に好影響

 今年6月3日には、ギブソンのエレキギター「フライングV」のような外観の旅客機「Flying-V」をデルフト工科大学と共同開発すると発表。客室や貨物室、燃料タンクはすべて両翼に収まるデザインだが、エアバスA350-900型と同等の座席数314席で、通常の滑走路を使用できるという。実用化は2040年から2050年ごろを目標に据える。

デルフト工科大学と共同開発するFlying-V(KLM提供)

 航空会社による未来の航空機への投資というと、日本航空(JAL/JL、9201)が超音速旅客機を開発中の米Boom Technology(ブーム・テクノロジー、本社デンバー)に1000万ドルを投資している。エルバース社長にKLMの方向性を尋ねると、「スピード追求よりも、環境負荷の軽減を重視している」と語った。

 一方で、航空機製造への参入は否定。「今後も機体を製造する側にはまわらない」と、経済支援にとどまるというエルバース社長。「現在は3メートル四方の大きさの機体だが、Flying-Vに関わることで、経験が蓄積されている」と、機体や運航に関する新たなノウハウを得られるメリットがあるという。

 また、人材確保の点でもFlying-Vは好影響を与えている。「欧州は優秀な人材確保が難しくなっているが、Flying-Vの二次的効果として、注目を集めたことで多くの人がKLMで働きたいと思ってくれている」と、先端技術に挑戦する企業としてアピールできたそうだ。

 騒音やCO2排出量など、航空会社を取り巻く環境が厳しくなる中、設立当時から同じ名称で続く航空会社では世界最古のKLMは、環境問題を重要課題として次の100年に向かう。

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