エアライン, 企業, 官公庁, 空港 — 2019年7月28日 21:40 JST

発達障がいの子供にもサッカー観戦を ANAなど3社、川崎でJリーグ戦

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 発達障がいのある子供たちにサッカーを楽しんでもらおうと、JTBと全日本空輸(ANA/NH)、富士通(6702)の3社は7月27日、川崎フロンターレ対大分トリニータ戦の観戦交流イベントを神奈川県川崎市の等々力陸上競技場で開催した。

 障がいの有無や年齢などにかかわらず、誰もが旅を楽しめる「ユニバーサルツーリズム」の取り組みとして27日から28日までの2日間の日程で実現したもの。28日は川崎フロンターレ麻生グランドでサッカー教室が開かれた。

等々力競技場のスタンドに横断幕を掲げ観戦に訪れた子供たちを歓迎する川崎フロンターレのサポーター=19年7月27日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 発達障がいなどで感覚が過敏な子供には、大勢の人が観戦し、大きな音が出るサッカー場への外出が難しいことから、試合会場となる等々力競技場の一室に、国内初の「センサリールーム」を設置。照明が暗い室内に観戦用のイスを並べたほか、部屋の一角に「スヌーズレン機器」と呼ばれる障がいを持つ人も受け入れやすい視覚や聴覚、 触覚、嗅覚などの感覚刺激を与える機器を設け、気分を落ち着かせられるようにした。また、屋外で観戦したい子供たちは、センサリールームに隣接する観客席で選手を応援できるようにした。

 また、センサリールームやミックスゾーンなどに「アバター」を用意。大分の学校とテレビ電話で結び、大分トリニータの選手がアバターのモニター越しに子供たちに話しかける姿もみられた。ANAはアバターを遠隔地でテストする場として、大分県を選定している。

等々力競技場に用意されたセンサリールーム=19年7月27日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

センサリールーム内に設置されたスヌーズレン機器=19年7月27日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

ミックスゾーンに設置されたANAのアバター=19年7月27日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

—記事の概要—
サポーターが横断幕で歓迎
「理解深まれば世の中良くなる」

サポーターが横断幕で歓迎

 今回のイベントには、川崎市と大分県大分市に住む発達障がいのある子供たちと家族60人が参加。川崎市の子供たちと家族は、市が用意した福祉バスで会場入りした。

 大分市の3家族8人は、ANAの大分発NH796便(エアバスA321型機、登録記号JA112A)で羽田空港へ到着後、バスで宿泊先のホテルを経由し、等々力競技場に着いた。3家族とも飛行機での旅や競技場でのサッカー観戦は初めて。試合前には、川崎市と大分市の子供たちが両チームの選手とハイタッチし、地元サポーターも大きな横断幕を掲げて歓迎した。

羽田に到着した大分の子供たち=19年7月27日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 ANAのオペレーションサポートセンター品質企画部の堯天(ぎょうてん)麻衣子さんによると、今回のイベントは、発達障がいをテーマに川崎市で2017年12月に開催された「心のバリアフリー・シンポジウム」(主催:JTB)の参加企業だったJTBとANA、富士通の3社が連携した取り組みだという。政府の「ユニバーサルデザイン2020行動計画」で掲げている「心のバリアフリー」を推進する取り組みのひとつで、公益社団法人日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)や川崎フロンターレの協力を得て実現した。

 堯天さんは普段、空港などのユニバーサルデザインに携わっている。「国が認定している『共生社会ホストタウン』14都市の中に、川崎市と大分市が入っていました。3社が得意分野を生かす取り組みで、夏休みであれば子供たちも参加しやすいので、両チームが対戦する日を選びました」と、経緯を話す。

 今回のイベントに携わったボランティアのうち、ANAグループの社員は約50人。大半は東京周辺に住む社員だったが、関西在住の客室乗務員も参加したという。

「理解深まれば世の中良くなる」

 大分の3家族は、大分空港に集合。ターミナル会社が有料待合室を提供し、九州地区のボランティアがNH796便の出発までを担当した。機内にはボランティアの社員1人が付き添ったほか、発達障がいの知識を持つ客室乗務員が乗務し、移動をサポートした。羽田では地上係員のほか、パイロットや客室乗務員、横断幕を手にした社員が3家族を出迎えた。

羽田に到着した大分の子供たちを出迎えるANAグループ社員=19年7月27日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 「客室乗務員は通常編成の人数で応対できないと意味がないので、乗務する人数は普段と同じなのですが、発達障がいについて勉強している人を選び、往復とも一緒のメンバーで乗務するよう、担当部署が調整してくれました」と、必要な時に必要なサービスを提供することに徹したという。

 一方で、往復とも同じクルーにするだけではなく、イレギュラー運航の発生にも備えた。「客室乗務員は前日に大分入りし、乗務できないことがないようにしました」と、念には念を入れた。

 「川崎と大分の対戦カードで日程は決めたものの、天気が心配でした。台風の影響で飛行機が揺れるのではと思ったのですが、あまり揺れなかったようです」と安堵(あんど)する堯天さん。3家族とも飛行機での旅や競技場でのサッカー観戦は初めてなので、移動でストレスがかかることは避けたかったという。

等々力競技場で開かれた観戦交流イベントに携わるANAの堯天さん=19年7月27日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 今回の経験を基に、堯天さんは秋にも同様のイベントを実現させたいという。「ユニバーサルデザインは、担当ではない部署の社員には伝わりにくい面があるのも事実。発達障がいの勉強をするだけではなく、実際に応対する中で理解が深まり、普段のサービスに生かせるようになると思います」と、知識と経験を社内で蓄積することが重要だと話す。

 「恥ずかしながら、私自身もユニバーサルデザインを担当するまで、発達障がいについて十分な知識があるとは言えませんでした。でも、社会の理解が深まれば、子供たちは出掛けられます。スポーツと結びつけたのも、観戦しに来た人に知ってもらうことが大事だからで、選手がTwitterなどで発信してくれました」と、サッカーを通じて障がいに対する理解を広めたいという思いがあった。

 「当たり前のように障がいを理解する視点があれば、世の中が良くなると思います」と力説する堯天さん。イベント後は機内で子供たちに付き添った社員などにも話を聞き、次につなげていきたいという。

 27日の試合は、3-1で川崎が勝利。両チームとも後半に得点したが、現在3位の川崎が5位の大分をホームで下した。

*写真は29枚。

羽田に着陸する大分発NH796便(右上)=19年7月27日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

羽田の駐機場へ向かう大分発NH796便=19年7月27日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

羽田に到着する大分発NH796便=19年7月27日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

羽田に到着した大分の子供たちにスタジアムの座席番号などを手渡すスタッフ=19年7月27日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

羽田に到着しバス乗り場へ向かうた大分の子供たち=19年7月27日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

大分の子供たちを乗せ羽田を出発するバス=19年7月27日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

大分の子供たちを乗せて羽田を出発するバスを見送るANAグループ社員=19年7月27日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

等々力競技場に用意されたセンサリールーム=19年7月27日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

センサリールームから屋外の観戦席に移動可能=19年7月27日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

等々力競技場にバスで到着した大分の子供たち=19年7月27日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

等々力競技場にバスで到着した大分の子供たち=19年7月27日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

等々力競技場にバスで到着した大分の子供たちを出迎える大分トリニータのマスコットのニータン=19年7月27日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

等々力競技場にバスで到着した大分の子供たち=19年7月27日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

センサリールームに到着した家族連れの受付をするANAグループ社員=19年7月27日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

ミックスゾーンに設置されたANAのアバター=19年7月27日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

ミックスゾーンに設置されたANAのアバター=19年7月27日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

観戦に訪れた子供たちを歓迎する川崎フロンターレのサポーター=19年7月27日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

観戦に訪れた子供たちを歓迎する大分トリニータのサポーター=19年7月27日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

大分トリニータの出場を歓迎する等々力競技場の大型モニター=19年7月27日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

大分トリニータのスターティングメンバーを表示する等々力競技場の大型モニター=19年7月27日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

試合開始前に等々力競技場で練習する大分トリニータの選手たち=19年7月27日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

センサリールームのアバターで大分の子供たちと会話するANAのパイロットや客室乗務員ら=19年7月27日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

関連リンク
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