エアライン, ボーイング, 機体, 空港, 解説・コラム — 2018年9月30日 13:55 JST

「これだったらいいね」目指す 特集・JALっぽくない社長が考える新LCC

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 「社内の掛け声は、ぶっとんだLCCだ」。日本航空(JAL/JL、9201)が2020年の就航を目指して立ち上げた、中長距離LCCの準備会社「ティー・ビー・エル(TBL)」の西田真吾社長は、新LCC像をこう表現する。

 TBLは成田空港を拠点に、2019年度中に航空運送事業の許可(AOC)を取得し、2020年夏ダイヤに中長距離LCCとして就航を計画している。機材はボーイング787-8型機が当初は2機で、就航から2年以内の黒字化を目指す。この段階での機材数は、6機となる見通し。

 社名は2019年3月ごろ、サービス内容や制服は同年4月ごろにお披露目を計画。これらに先立ち、10月9日にはパイロットの募集要項を発表する予定で、客室乗務員や地上係員も来春から採用を始める計画だ。

2機の787-8で中長距離LCCに参入するJAL=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

—記事の概要—
「これだったらいいね」のシート目指す
スクートは300席台
「JALっぽくない人をトップに」

「これだったらいいね」のシート目指す

JALのエコノミークラスは横1列8席。新LCCでは他社と同じ9席に増やす=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 最初に導入する2機の787-8の調達手段は、「どうやって調達するかは検討中」(西田社長)と、9月26日の会見では言及しなかった。787-8のカタログ価格は、1機2億3900万ドル(約270億円)。実際の販売価格はこれを下回るが、航空会社として小さな投資ではない。

 新LCCの事業費は当初、今年2月発表の中期経営計画で設定した「特別成長投資枠」500億円のうち、100億円から200億円を投じる。準備期間が2年を切っていること、JALの787が2012年に初就航して、今年で6年が経過していることなどを考慮すると、初期導入機を新LCC用に改修するのが、リスクが低い選択といえる。しかし、関係者によると、現状の787の生産状況から、2020年の新造機受領は今からでも間に合う可能性が高いという。

 座席配置は、JALが世界で唯一1列8席としているエコノミークラスを、他社と同じ9席に変更する。「中長距離を飛ぶので、短距離のLCCように詰まった間隔よりは、『これだったらいいね』と言っていただけるものにしたい」と西田社長は話す。「なるべく体にも、気持ち的にも、しんどくないシート。シートピッチも、その辺りを念頭に置いている」と、過度な詰め込みは避けるようだ。

 JALが運航する787-8は、現時点では国際線機材のみ。座席数は、初期に導入した2クラス186席(E01仕様:ビジネス42席、エコノミー144席)、E01のビジネスクラスを12席減らし、エコノミーを増やした2クラス206席(E03仕様:ビジネス30席、エコノミー176席)、長距離路線を主眼にフルフラットシートをビジネスクラスに導入した「スカイスイート787(SS8)」の3クラス161席(E11仕様:ビジネス38席、プレミアムエコノミー35席、エコノミー88席)と、3種類ある。E01とE03が旧タイプのシート、E11が新シートだ。

 そして、2019年3月31日に就航する成田-シアトル線には、E11からプレミアムエコノミーをなくし、2クラス化したものを投入する。この機材でも、エコノミーの1列8席を維持する。

スクートは300席台

スクートの787の機内。1列9席で個人用画面はない=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 JALによると、新LCCで使用する787-8の座席数は、300席前後を想定しているという。

 シンガポール航空(SIA/SQ)系のスクート(TGW/TR)が運航する787-8は、2クラス329席(スクートビズ18席、エコノミー311席、クルーレストあり)や、2クラス335席(スクートビズ21席、エコノミー314席、クルーレストなし)。新LCCが上位クラスを導入する場合、これに近い座席数になりそうだ。

 スクートの場合、スクートビズのシートが1列2-3-2席配列で、ゆりかごのような角度になるリクライニング機能を備える総革張りシートを採用する。エコノミーは、他社と同じ1列3-3-3席となっている。

 エコノミーのシートピッチは平均31インチ(78.7センチ)で、シート幅が18インチ(45.7センチ)。シートピッチは日系大手の国内線機材と同等で、33から34インチ程度ある国際線用機材と比べると狭い。

 こうした先行事例に対し、「アッパークラスを付けている航空会社は、面積を食うものを置いているので、どのシート構成が1便あたりの収入や、面積あたりの収入を最大化するのかを考えたい」(西田社長)と、JALの新LCCが上位クラスを設定する際は、より収益性の高いものを考えるという。

「JALっぽくない人をトップに」

新LCCについて説明するTBLの西田社長(右)とJALの赤坂社長=18年9月26日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 「JALっぽくない人材をトップにしたかった」。JALの赤坂祐二社長は、新LCCの社長像をこう表現する。

 JAL本体は「FSC(フルサービス航空会社)事業が身にしみちゃっている」として、「今回のLCCはチャレンジ。できるだけ新しい発想を持った人と言いながらも、安全運航の知見と理解がある人。下半身はがっしりしていて、頭が柔軟な人だ」(赤坂社長)と、安全とチャレンジングな取り組みを両立できる人を求めた。

 西田社長は1968年2月生まれで、1990年入社。2010年12月から長らくJALのマイレージ部門を統括し、社長就任前はマイレージ事業部長を2015年2月から務めてきた。

 「マイルを手掛けていた時は、いろいろな企業と提携した。JALは航空会社だが、異業種と手を携えてお客様に喜んでもらうことの大切さを感じた」と、西田社長は振り返る。これまで培ってきた、B to Bによる利用者への還元も検討するという。

 世界的に見て、中長距離LCCは現時点では収益性が厳しいとの見方も多い。「より遠くまでLCCで行きたいという、お客様のニーズはある。品質に厳しい日本のマーケットで鍛えてもらい、新しいスタイル確立して、内外のお客様に日本品質で作るとこうなるのかと、驚いてほしい」(西田社長)と意気込む。

 西田社長は最初の路線を明らかにしていないが、ヒントになるのが成田での国内線との接続だ。「成田には1日70便超の国内線があるので、海外から乗り継いでもらえる。インバウンド需要の地方への送客で、地域振興に貢献したい」。

 インバウンド需要の取り込みや、当初2機の787-8で運航することを考えると、バンコクなど東南アジア方面が有力と言えそうだ。

 新しい旅のスタイルを確立したいという西田社長は、どのようなLCCをスタートさせるのだろうか。

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