エンブラエルは、次世代ターボプロップ(プロペラ)機の開発を中止した。同社が念頭に置く条件を満たすエンジンがないためで、民間機は世界一のシェアを誇るリージョナルジェットに当面注力する。

エンブラエルが検討したターボプロップ機のイメージイラスト。エンジンは胴体後部として客室の静粛性をアピールしていた(同社提供)
2021年に明らかにした次世代ターボプロップ機構想は、空港でのPBB(搭乗橋)の使用や騒音低減、振動低減、乗客の個人スペース拡大、機内持ち込み手荷物の収納スペース拡大、上質なギャレー(厨房設備)とラバトリー(化粧室)の設置など、乗客にジェット機と同様の搭乗体験を提供できる機体を目指すとし、就航は2027年ごろを計画していた。
今年4月に、Aviation Wireの単独インタビューに応じたエンブラエル民間航空機部門のアルジャン・マイヤー社長兼CEO(最高経営責任者)は、「現在は棚上げしている」と明言。「プラットフォームに適したエンジンがなかった」と述べ、電動や水素など次世代の再生可能エネルギー推進技術を用いた新しい航空機コンセプト「エネルギア・ファミリー(Energia Family)」として、技術検証を進めていると説明した(関連記事)。
現地時間11月4日に開いた2025年第3四半期決算の説明会で、エンブラエルのフランシスコ・ゴメス・ネトCEOは「開発は中止となった」と述べた。

エンブラエルが当初公表していたターボプロップ機のイメージイラスト(同社提供)
ターボプロップ機の新規開発は、50-70席クラスの機体を唯一製造する仏エアバスと伊レオナルドの合弁会社ATRも、2024年11月に「ATR42-600S」の開発を中止すると発表。ATR42-600型機の改良型で、短い滑走路で離着陸できるSTOL(短距離離着陸)型だが、サプライチェーンのひっ迫が続いていることに加え、航空需要の成長が見込まれる東南アジアの場合、滑走路延長や新空港建設で、STOL機を必要とする対象空港が大幅に減少しており、この傾向は他の主要な対象市場にも当てはまるとしている。
ATRが現在製造するメーカー標準座席数が1クラス48席のATR42-600と、同72席のATR72-600は、いずれもプラット・アンド・ホイットニー・カナダ製エンジンPW127シリーズを採用している。
英ロールス・ロイスのリサーチ&テクノロジー部門ディレクター、アラン・ニュービー氏は、ターボプロップ・エンジン市場について「いま飛んでいるエンジンは古いものばかりなので、圧縮比やタービン温度などに(技術的な)伸びしろはあると思うが、マーケット性のほうが足かせになっていると思う」と、エンジンメーカーとしては、市場規模が見込めないとの見方を示している。
こうした状況から、エンブラエルもターボプロップ機開発にリソースを割くよりは、圧倒的なシェアを誇るリージョナルジェットに注力しつつ、電動や水素といった新たなエネルギー源の航空機開発に注力する。
関連リンク
Embraer
再エネ機に注力
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ターボプロップ機開発に関する発言
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・エンブラエル、次世代ターボプロップ計画「エンジンの解決策見つかっていない」(23年5月26日)
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・エンブラエルのターボプロップ機案、胴体後方エンジンで静粛性売りに(21年8月20日)
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RR
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