エアライン, 企業 — 2024年5月9日 13:16 JST

ANA、グラハン車両で軽油代替燃料「RD」実証 廃食油原料、“すす”出さない

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 全日本空輸(ANA/NH)は5月9日、グランドハンドリング(グラハン、地上支援)業務に使用するGSE(航空機地上支援車両)の動力源に、廃食油などを原料とする次世代型バイオ燃料「リニューアブルディーゼル(RD)」を導入する実証を羽田空港で始めた。2025年3月ごろまで実証を進め、現在の軽油(ディーゼル)の代替としてCO2(二酸化炭素)削減の有効性を探る。ANAによると、GSEにRDを活用するのは国内初だという。

伊丹から到着したANAのNH20便から貨物を取り下ろすRDを給油したハイリフトローダー=24年5月9日 PHOTO: Yusuke KOHASE/Aviation Wire

—記事の概要—
既存設備活用できる「ドロップイン燃料」
大型GSEに有効

既存設備活用できる「ドロップイン燃料」

ANAが実証実験で使用するRD(左)と従来の軽油=24年5月9日 PHOTO: Yusuke KOHASE/Aviation Wire

 RDは廃食油や食料と競合しない「非可食油」を原料として製造される次世代型バイオ燃料。石油由来の軽油と性状は同等だが、GHG(温室効果ガス)排出量を約90%削減できる。既存の車両や給油設備をそのまま活用できる「ドロップイン燃料」で、すすを排出しない特長があり、電動化の困難な大型トラックなど軽油を燃料とする車両の代替燃料として期待される。また代替航空燃料「SAF(サフ、持続可能な航空燃料)」の製造工程で一定数量製造される連産品であることから、SAFのサプライチェーン強化にもつながる。

 ANAは2023年9月に、東京都の「バイオ燃料活用における事業化促進支援事業」に採択されており、今回の利用実証はその一環で進める。RDはフィンランドのネステ社が製造し、都の同事業に共同で採択された伊藤忠エネクス(8133)が調達。実証期間中に200キロリットルのRDを導入する。

 導入するGSEは、貨物室に貨物を搭載する「ハイリフトローダー」、出発機をプッシュバックする「トーイングカー」(けん引車)、連絡バスで乗降するオープンスポットで使用する「パッセンジャーステップ車」(タラップ車)の3車種で、計26台で実証する。このうちハイリフトローダーとトーイングカーは10台ずつ、パッセンジャーステップ車は6台で、実証の進み具合により他種類の車両にも拡大を予定する。

 ANAグループが保有するGSEは全国で約1万4000台で、このうち羽田空港では約2800台を導入。大部分が軽油を燃料とする。

大型GSEに有効

RDの実証を説明するANAの乾マネジャー=24年5月9日 PHOTO: Yusuke KOHASE/Aviation Wire

 実証初日となった9日は、羽田空港へ定刻午前11時15分に到着する伊丹発NH20便と、羽田を正午に出発する札幌(新千歳)行きNH63便などに使用。ハイリフトローダーにRDを給油し、到着便からの貨物取り下ろしや出発便への貨物積み込みに活用した。

 RDの実証を担当するANA経営戦略室 企画部 GXチームの乾元英(いぬい・もとふさ)マネジャーによると、GSEのうち大型車両がRDに向いているという。一方、小型で出力の小さいものは電気自動車(EV)が有効だが、国内メーカーがEVをほぼ製造しておらず、選択肢が少ないなどの難点もある。乾マネジャーは「すべてのGSEをEVへ置き換えるのは困難」と説明し、「RDは力が必要な大型GSEに有効だ」とした。

 ANAは今回の利用実証を通じ、RDの安定供給や利用上・制度上の課題を検証。空港の脱炭素化の選択肢として、本格導入に向けた準備を進めていく。

ハイリフトローダーにRDを給油するANAグループのグラハンスタッフ=24年5月9日 PHOTO: Yusuke KOHASE/Aviation Wire

ハイリフトローダーにRDを給油するANAグループのグラハンスタッフ=24年5月9日 PHOTO: Yusuke KOHASE/Aviation Wire

RDを給油したハイリフトローダーを操作するANAグループのグラハンスタッフ=24年5月9日 PHOTO: Yusuke KOHASE/Aviation Wire

伊丹から到着したANAのNH20便から貨物を取り下ろすRDを給油したハイリフトローダー=24年5月9日 PHOTO: Yusuke KOHASE/Aviation Wire

羽田を出発するANAの札幌行きNH63便へ貨物を積み込むRDを給油したハイリフトローダー=24年5月9日 PHOTO: Yusuke KOHASE/Aviation Wire

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