エアライン, 空港, 解説・コラム — 2022年12月31日 14:00 JST

JAL移住CA「台風が来ると会えない人もいます」特集・世界遺産 奄美群島の魅力(1)

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 「離島が多い奄美群島を一つの機内と捉えて、自分の足で島々を回りながら課題や悩み、やりたいことを聞き取り、自分自身が楽しみながら私にできることを提案していきたいです」。日本航空(JAL/JL、9201)の客室乗務員、持木絹代さんは今年4月にJALが本社で開いた「ふるさとアンバサダー」のオリエンテーションで、意気込みをこう語った。出身は関東だがプライベートで奄美を訪れた際、美しい自然と人々が共生している姿に興味を持った。

JAL鹿児島支店奄美営業所の栄正行所長(左)とJALふるさとアンバサダーの持木絹代さん=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による初期の影響が出ていた2020年8月に、JALは社内公募でふるさとアンバサダー制度を始めた。出身地など全国各地に移住し、地域の魅力を発信する取り組みで、今年4月からは奄美など17地域で21人が活動している。持木さんは4月に着任した8人のうちの1人で、奄美大島を拠点に島々を訪れて住民から話を聞いたり、これまで伝え切れていなかった見どころを発掘している。

 JALの羽田-奄美大島線は12月24日に就航30周年、年明け1月11日には伊丹-奄美大島線が50周年の節目を迎える。伊丹線は1973年当時の東亜国内航空(TDA、JASに改称を経てJALと統合)、羽田線はJAS(日本エアシステム)時代の1992年に開設された路線だ。奄美地方は関西圏との結びつきが強く、伊丹線のほうが歴史が長い。

 コロナに対する心配は人々の中に残っているものの、国内線需要は回復傾向が続いており、奄美も例外ではない。今回の特集では、持木さんと奄美大島出身でJAL鹿児島支店奄美営業所の栄正行所長に、地元と島外の人の目線で奄美の魅力や課題、台風被害を受けやすい地域で航空会社が果たす役割を聞いた。また、奄美大島からわずか20分で着く喜界島へ足を伸ばす。

自然が豊かな奄美大島の崎原ビーチ=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

—記事の概要—
きっかけをもらえた旅
台風が来ると会えない人もいる
(2)山一つ越えると文化違う”多様性”

きっかけをもらえた旅

 奄美は2021年7月にユネスコ(国連教育科学文化機関)の世界自然遺産として、奄美大島と徳之島、沖縄島北部と西表島の4地域で登録された。しかし、国内では旅行の自粛ムード、海外からは今年10月まで続いた入国制限と、待望の世界自然遺産登録を契機とした国内外からの旅行需要を取り込めずにいた。

奄美空港近くのあやまる岬=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 ふるさとアンバサダーとして移住した持木さんの活動をJAL鹿児島支店奄美営業所でサポートしているのが、奄美大島出身の栄所長だ。「奄美大島の島内は、山を一つ越えるだけで文化が違うんです。島内では集落のことを“島”と呼んでいて、空港のある北部と、山の多い南部では全然違う。奄美は多様性がある島で、ここにある良いものを、どう強くするかですね」(栄さん)と、周囲の島々だけではなく奄美大島の島内だけでも地域による特色を楽しめるという。

 奄美空港には羽田から約2時間35分、伊丹から約1時間55分、鹿児島からは約1時間で到着する。2018年7月1日にリニューアルオープンした、離島空港のイメージとは違うターミナルに降り立つ。しかし空港から一歩出れば、車で10分ほどの「あやまる岬」など自然豊かな景色が広がる。

 「ふるさとアンバサダー」として移住した持木さんが、奄美大島を初めて訪れたのは2021年12月。埼玉県出身の持木さんは、海が好きで学生時代から国内外の離島など、あちこちの島を訪れていた。「これまで訪れた島では、海がきれい、また来たい、で終わっていたのですが、奄美はそこで終わらず、住みたいと思いました」という。

羽田から奄美空港に到着したJALの737-800=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 JALに入社前は豪州のシドニーで働いていた経験もある持木さんは、奄美で自然との距離の近さや、移住してきたり、IターンやUターンで住んでいる人の面白さ、優しさに興味を持った。

 「船に乗らずに行けるところにウミガメがいました。奄美では自然を大切にしないといけないな、と感じることが多く、東京に帰ってから洗剤を環境にやさしいものに変えたりと、きっかけをもらえた旅になりました」と、これまでの島巡りよりも、自分の価値観を大きく変えることがあったという。

 東京に戻った持木さんはさっそく「ふるさと納税」の納税先に奄美を選び、年が変わるとアンバサダーに応募した。「コロナで行き来ができなかったこともあって応募しました。1年違ったら応募しなかったかもしれません」と、すぐに奄美を再訪できないことも、移住を決断した理由のひとつだった。

台風が来ると会えない人もいる

 そして今年4月に奄美へ移住。ところが、住む家を探すのが一苦労だった。「島では10年くらい前から言われているそうなのですが、賃貸の家がなかなかないんです。一軒家で7LDK、築50年のような物件はあるのですが、移住したい人でも家が見つからずに諦める人がいるくらいです」と、単身者や夫婦が借りられるアパートやマンションが少ない点は、自治体が移住やIターンなどを促進する際にも当面の課題になりそうだ。

JALふるさとアンバサダーとして奄美に移住した客室乗務員の持木絹代さん=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 離島固有の課題も探るため、今回の取材は9月の台風シーズンに奄美を訪れた。台風がやってくるとフェリーや空の便が欠航となり、物資がしばらく届かなくなる。コンビニに入っても食品が棚にほとんど残っていない状態で、繁華街の飲み屋も鮮魚が入荷しないため営業できないというお店もあった。

 移住した持木さんは「毎日が楽しいです」と笑顔を見せるが、移住の話を知った周囲の人たちからは心配されたという。「台風で物が来なかったり、何か買うにしても東京では家の近所にコンビニがあったのが、車で大きいスーパーまで行かないと買えません。Amazonに頼んでも次の日は届かないので、生活環境のギャップは感じましたね」と率直な感想を話してくれた。

夕暮れの崎原ビーチ=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 しかし、「物がなかなか届かないことをネガティブには捉えていません。そのことで気づけたことがたくさんありました」という。「客観的に奄美のメリットとデメリット、東京のメリットとデメリットを見られていると思います。スーパーに野菜がなければ、道の駅で探せばいいとか」と、奄美で置かれた環境で工夫している。

 持木さんは移住後、まずはスポーツイベントで制服を着て表彰式を手伝うなど島内をまわり、顔見知りを増やしていった。そして、12月からは夜の森をエコツアーガイドと探検するナイトツアーや、サンゴが生息する海でのビーチクリーン体験など、世界自然遺産となった奄美を体験できるツアーをPRしている。

 「何でも手に入るのが当たり前ではなく、台風が来ると会えない人もいます。人に会う大切さを実感し、島での航空会社の役割が本当に大事なんだと思いました」と、新たに加わった島の一員として、航空会社に向けられる島民の期待を肌で感じていた。

つづく

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