小型ジェット機カテゴリーの世界最多納入を5年連続で記録した小型ビジネスジェット機「HondaJet(ホンダジェット)」。本田技研工業(7267)の米国子会社ホンダ エアクラフト カンパニー(HACI)が開発し、日本では国土交通省航空局(JCAB)の型式証明を4年前の2018年12月7日に取得して発売され、約2週間後の20日には日本登録機として初めて顧客へ引き渡した。今年11月時点で、日本国籍で登録されているホンダジェットは10機を数える。

ホンダジェット操縦記から5年ぶりに記事を書いてみました=Photo: T.Yamada
発売当初はプライベート機としての購入・利用が多かったホンダジェットだが、現在では事業を目的とした利用も目立つようになってきた。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的な影響や原油の高騰など、航空業界を取り巻く環境は目まぐるしく変わっている。本紙でビジネスジェットについて執筆するのは、5年前のホンダジェットを操縦したリポート(関連記事1)以来となるが、同機を含む日本のビジネスジェット業界は今、どうなっているのだろうか。
—記事の概要—
・なぜサイテーションは人気なのか
・ビジネスジェットで地域活性化
・AUTO LANDは日本未承認
・人材育成が急務
なぜサイテーションは人気なのか
ホンダは今年4月に、ホンダジェットを活用したモビリティサービスの概念実証を始めた。一般的に、モビリティサービスといえば自動車などを使い、移動・運搬をスムーズに行うためのカーシェアリングなどのサービスを指す。このサービスでは、ホンダジェットによる空の移動に加えて地上の移動と、空港から最終目的地までのすべての移動でホンダの本業である自動車を活用できるモビリティサービスになるという。

フジビジネスジェットのセスナ サイテーションCJ2+。日本で人気のビジネスジェットのひとつ=22年9月 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
この取り組みのような一般向けの航空機チャーターサービスは、これまでも国内で活用が検討されていた。しかし、特にホンダジェットなどのジェット機は「型式限定」という飛行機ごとの個別資格がパイロットと整備士に必要となり、人員養成や航空運送事業をはじめとする許認可など、コスト高になってしまう。
この型式限定で有利なのは、ホンダジェットのライバル機である米セスナ・エアクラフト・カンパニーのサイテーション・シリーズだ。国内でも長年運航されていることもあって資格を持つパイロットも多く、国内外での教育体制も充実している。
さらに航空運送事業に使用される航空機は運航上、その航空機が持つ性能より制限して使用することが義務付けられている。これは航続距離が弱点といえるホンダジェットの場合、さらに短くなってしまうことを意味する。ホンダジェットは高いポテンシャルと人気を誇るが、実用面でサイテーションが今も根強い支持を集めている要因の一つといえる。
ビジネスジェットで地域活性化
また、ビジネスジェットなどの航空機チャーターサービスをプライベート利用する場合、日本特有の事情ではあるが、お盆やお正月といった長期休暇など、利用者が乗りたい時期が重なるケースが予想される。こうした事情を踏まえると、日本で航空機チャーターサービスの利用を今後促進していく上で課題となるのは、欧米並みにビジネス目的でサービスを利用しやすくできるかだ。

ホンダジェットをどう活用するか=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
ビジネス目的でビジネスジェットを利用する場合、今すぐ飛びたい、今すぐ現場に向かいたい、打ち合わせ後すぐに東京へ戻りたい、といったリクエストに応える必要がある。
しかし、今の日本ではジェット機を購入し、パイロットを手配したとしても、国内のほとんどの空港が24時間運用ではないため、このリクエストに対応できない場合がある。一方、ビジネスジェットが普及している米国では、大半の空港が24時間運用だ。自家用車のような柔軟な運用が、ジェット機でもできてしまう。
日本国内で24時間利用が可能な空港は、新千歳・羽田・中部・関西・北九州・那覇の6空港であり、これらの空港間であれば「いつでも移動したい」というリクエストには応えられる。しかし、これらの空港間をフライトするのであれば、すでにエアラインの定期便が充実している。
ビジネスジェットが利便性を発揮するのは、便数が限られている地方から地方への移動とされており、地方空港のあり方も今後の課題になるだろう。ビジネスジェットの利用が増えれば、定期便では拾いきれなかった地方都市間の旅客需要を取り込める可能性がある。
AUTO LANDは日本未承認
ホンダジェットの事業を軌道に乗せたHACIは、米ネバダ州で2021年10月に開催された世界最大のビジネスジェット航空ショー「NBAA 2021」で、「HondaJet 2600 Concept」を参考展示した(関連記事2)。

コンセプト機「HondaJet 2600 Concept」(ホンダ提供)
客室は搭乗口付近に1席と向かい合わせの4席が2セットで計9席設けられ、最大航続距離が2625海里(約4826km)で、現行のホンダジェットよりも1サイズ上の「ライトジェット機」のカテゴリーとしては、世界で初めて米大陸横断が可能になるという。
そして、今年10月に米フロリダ州オーランドで開催された「NBAA 2022」では、ホンダジェットの最新型「HondaJet Elite II(ホンダジェット・エリートII)」を発表。燃料タンクの拡張と最大離陸重量を増加することで、従来のホンダジェット・エリートから204km延長した航続距離1547海里(約2865km)を実現した(関連記事3)。
新たな安全技術として、パイロットとしては待ちに待ったオートスロットル機能が搭載される。オートスロットル機能があることで、着陸間際まで自動操縦にすることができるのでパイロットの負担が軽減され、混雑空港での運航時など、ほかの航空機などの航空交通にも意識が行き届くようになり、安全性のさらなる向上が期待される。
さらに緊急着陸装置機能も搭載予定だ。これはパイパー・エアクラフトのM600や、シーラス・エアクラフトのVision SF50などに搭載されている「AUTO LAND」と類似した機能のようだ。
AUTO LAND機能とは、パイロットが操縦不能になった場合、乗客が「AUTO LANDボタン」を押せばGPSで自機の位置を認識し、最寄りの計器進入可能な空港に自動で着陸する機能だ。米国などではAUTO LAND機能は承認されているが日本では未承認のため、この機能を搭載する機体が国内導入されても使用できない状況だ。

ホンダジェット・エリートIIのコックピット(HACIのウェブサイトから)

ホンダジェット・エリートII(HACIのウェブサイトから)
人材育成が急務
高性能で高機能が盛りだくさんのさまざまな航空機がデビューし、各エアラインも乗客数が回復しつつある。そうなると頭を悩ませるのが、こうしたハイテク機を扱えるパイロットや整備士の確保だ。
日本では優秀な人材がエアラインから埋まっていく傾向にある。小型ジェット機を扱えるスキルを持った人材は極めて少ない。
エアライン業界の景気が回復すれば、優秀な人材が不足する状況はますます厳しくなるだろう。国内でエアライン以外も含めた航空輸送網を維持していく上で、高いスキルを持つ人材育成が急務といえるだろう。
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