エアライン, 官公庁 — 2022年7月19日 22:50 JST

ピーチはなぜ空港のない京丹後市と連携するのか 特集・中山市長に聞くふるさと納税と観光振興

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 空港のない京都・京丹後市がピーチ・アビエーション(APJ/MM)と連携──。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で落ち込んだ観光需要が国内線から戻る中、関西空港を最大の拠点とするピーチは、京都府の北部に位置する京丹後市との連携をスタートした。

*市とピーチ、WILLERが連携。記事はこちら

日本の原風景とも言える景色が広がる京丹後市=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 日本海に面した京丹後市は、夏の海水浴や冬のカニを軸とした「二季型」の観光地で、京阪神地域から訪れる人が多い。しかし、隣接する宮津市の「天橋立(あまのはしだて)」と兵庫県豊岡市にある城崎(きのさき)温泉の間にあることから、双方への通過点となってしまうなどの課題がある。東京を起点とした場合は、東海道新幹線と在来線などを乗り継いで片道6時間弱かかることから、市によると「東京からもっとも遠い地域」という見方もあるという。

 一方で「京野菜」の産地であるなど食材が豊富で、絹織物の「丹後ちりめん」などの名産品もある。また、100歳以上のお年寄りが全国平均の3倍以上暮らす「長寿のまち」であるなど、一度訪れてもらえば観光客にリピートしてもらえる可能性がある。日本の原風景とも言える景色は、時代劇などのロケでも人気だという。

 しかし、なぜピーチは空港がない京丹後市と組んだのだろうか。5月にはピーチの社員が中山泰市長を表敬訪問し、新しい旅を通じた地方創生プロジェクトを始めた。大阪・関西万博が開かれる2025年を見据え、市はバスなど二次交通事業者との連携を7月下旬に発表し、国内外関空まではピーチ、空港からは京丹後市へはバスで送客する仕組み作りを目指す。中山市長に提携の狙いを聞いた。

—記事の概要—
長寿の秘訣は食生活?
ふるさと納税で観光産業も強化

長寿の秘訣は食生活?

 京丹後市を訪れた経営企画室の小笹俊太郎ブランドマネージャーら5人のピーチ社員は、市内に住むお年寄りから話を聞いたり、地域の魅力と課題をテーマにしたワークショップを実施し、新しい旅作りのヒントを探した。

京丹後市の中山市長(左)を表敬訪問するピーチの社員=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 地元の人たちに人気の鮮魚店、橘商店では、刺身やフライなどを購入して新鮮な魚を味わった。また、ネギ畑を訪れて、京野菜をテーマとした発信の可能性も探った。長寿の秘訣(ひけつ)は、こうした豊かな食生活が影響しているのでは、との仮説も立てている。

 ピーチで行き先を選べない「旅くじ」を企画した小笹ブランドマネージャーは、中山市長に、「まだアイデアのタマゴの状態だが、非常にユニークなものも出てきたので、夏ぐらいまでに何かできればとがんばりたい」とあいさつした。

 100歳以上のお年寄りが2021年9月1日時点で122人おり、全国平均と比べて約3.3倍の長寿のまちである京丹後市。自然が豊かで「京野菜」の産地であるなど、農水産物に恵まれているといった資源には恵まれており、市の調査でも一度訪れた人の満足度は料理などを中心に高く評価されているものの、認知度は2017年3月の調査で29%と、天橋立の83%などと比べて低いのが現状だ。

 また、関西圏からの観光客が多く、より広い地域からの呼び込みを模索しており、国内外から送客が見込めるピーチとの連携も、こうした取り組みの一つだ。二次交通事業者との連携は、空港のない京丹後市へ送客するためには不可欠なものと言える。

京丹後の地元でも人気の橘商店=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

京丹後の地元でも人気の橘商店=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

京丹後市でネギ畑を見学するピーチの小笹さんら=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

ふるさと納税で観光産業も強化

 地元出身の中山市長は、「観光需要が京阪神中心であり、これを全国や世界に広げていきたい時に、ピーチさんのお力をいただけるというのは、我々にとって願ってもないこと。期待もしていきたいし、一緒になって連携できれば」と話す。

京丹後市の中山市長=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 一方で、京丹後市は観光とは別に市独自の財源として、ふるさと納税にも注目。ピーチの地元、大阪府の泉佐野市はふるさと納税で“とんがった取り組み”を実現させ、税収を大きく増やした。

 中山市長は、京丹後市のふるさと納税による2018年度の寄付受入額約2億7000万円を、2023年度までに10倍の30億円に増やす「ふるさと納税10倍プロジェクト」を公約に掲げている。泉佐野市からは職員の出向も受け入れて、観光とふるさと納税の両輪で地域活性化を目指している。今年度の場合、前年度の10億円を2倍に増やす計画だ。

 ふるさと納税による税収拡大を目指す背景を、中山市長は「自治体にとっては財源革命でもあるんじゃないかと思う」と指摘する。「今までは税収を伸ばすといっても、短期的にはなかなか成果は得がたかった。国や都道府県からの助成を伸ばすとしても、数百万円や数千万円のレベルで、しかも事業単位になってしまうと財政力の強化はすぐには難しい。どうしても歳出の削減をどうするかが、これまでのやり方だった。ふるさと納税は、頑張れば自主財源として億単位、10億単位で伸長が図れる」と、地方都市の財政基盤強化の難しさを語る。

日本の原風景とも言える景色が広がる京丹後市=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

京丹後市内にある豪商稲葉本家=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

京丹後市内の豪商稲葉本家にある案内=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 泉佐野市が注目された返礼品も、「地域の産業力強化につながっていく。京丹後市は観光立市でなので、旅行商品を返礼サービスに結びつけてやっていくこともできる。大切なのはシティープロモーションはもちろんだが、寄付者との内外の交流関係人口づくりだと思う」と、返礼品に特産品を取り上げるだけでなく、旅行商品も加えることで、寄付する人と住民の交流を拡大することが重要だという。

 また、教育に力を入れることで、IターンやUターンを促進し、定住人口の増加も狙う。

 航空会社が空港のない自治体と連携するという、一見すると将来像が見えにくい取り組みだが、国内外から関空までの送客をピーチが担い、バス事業者で京丹後市までを結べるようになれば、空港のないほかの地域も新しい交通機関の連携が期待できそうだ。

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