企業, 空港 — 2021年8月3日 13:58 JST

羽田空港の搭乗橋、放射冷却素材でひんやり 日本空港ビルがラディクール販売

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 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策と並び、航空業界で大きなテーマとなっているのが、CO2(二酸化炭素)排出量実質ゼロ実現だ。政府も2050年のカーボンニュートラル社会の実現に向けたグリーン成長戦略を打ち出している。

ラディクールを施工した第2ターミナル57番搭乗口の搭乗橋(日本空港ビル提供)

 温暖化対策の一環として、羽田空港のターミナルなどを運営する日本空港ビルデング(9706)では、放射冷却の原理を応用した放射冷却素材「Radi-Cool(ラディクール)」の取り扱いを2020年からスタート。エアコンの設置が難しい場所の室温を下げたり、エアコンの効きをよくして電気代を抑えられるとして、空港内で実証実験後に販売代理店として他空港や病院などに販売している。

 プロジェクトは2020年6月に始まり、8月を中心に実証実験を実施。夏場に熱がこもるPBB(搭乗橋)や駐車場の連絡通路、警備員が常駐するガードマンボックスなどで検証したところ、室温が約5度から10度ほど下がった。空ビルの担当者によると、施工前と比べて涼しさを体感でき、視察に訪れた人も反応も良かったという。

 ラディクールはラディクール ジャパン社(東京・中央区)が開発。太陽光を反射し、自然現象の熱放射を用いて室内の熱も放射することで、エネルギーを使わずに室温を下げられる。製品は反射型と透明型のフィルム2種類と、塗料タイプの3種類あり、羽田では主にフィルムタイプを検証した。

 PBBは第1ターミナル8番搭乗口と、第2ターミナル57番搭乗口のものに施行。57番は2本のPBBがあり、このうち機体前方左側2番目の「L2」ドアに付けるPBBにフィルムを貼り、最前方「L1」ドア用PBBには施工せずに温度を比較した。2本ともエアコンは設置されていない。

 L2用PBBは屋根や側面、ガラス合わせて350平方メートルに反射型フィルムを貼り、ガラス部分のみ透明型を使用。2020年8月に外気温34.2度の環境で、表面温度は未施工のL1用PBBが36.3度、施工したL2用が26.6度と、9.7度の温度差があったという。室内温度はL1が39.6度、L2が34.6度で温度差は5.0度だった。

ラディクールを施工した第2ターミナルとP4駐車場を結ぶ連絡橋(日本空港ビル提供)

ラディクールの塗料タイプを施工した羽田空港のガードマンボックス(日本空港ビル提供)

 羽田空港内のP4駐車場では、第2ターミナルと結ぶ連絡橋に施工。表面温度は8.3度低い29.2度、室温は4.5度低い34.6度だったという。ガードマンボックスは、反射型フィルムタイプで室温が9.9度下がって34.6度、塗装タイプでは9度下がったという。また、空港内で航空機を牽引するトーイングカー(牽引車)や乗員を送迎するマイクロバスなど、航空会社が使用する車両でも検証している。

 空ビルが試算した予測値によると、エアコンを設置しているP4連絡橋では施工前と比べ、エアコンの消費電力量を年間796.4kwh削減できそうだという。東京電力のCO2排出係数では、年間351.2キログラムのCO2削減量にあたるとしている。

 導入効果が確認できたことから、羽田以外では山形空港が2020年12月に初導入。固定橋やPBBに導入し、2カ月後に同じく山形県内の庄内空港にも導入された。関心を持っている空港も複数あり、学校や病院などからも引き合いがあるという。

 空ビルの2021年3月期通期連結決算は、純損益が365億7800万円の赤字(20年3月期は50億1200万円の黒字)と、コロナ影響により空港運営会社も厳しい経営状況が続く。ESG(環境・社会・企業統治)経営が求められる中、同社は省エネ対策や温室効果ガス排出対策の一環として、ラディクールの販売を進めていく。

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