エアライン, 解説・コラム — 2021年8月2日 14:00 JST

「”評価”という言葉はなるべく使わない」特集・JALパイロット訓練、自家製データベース活用

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 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で、国際線を中心に大量運休が生じた2020年。航空各社も軒並み過去最大の赤字を記録し、感染者数の増加傾向が続く今年も、依然として厳しい状況が続いている。コロナ前は世界的に人手不足が問題となっていたパイロットも、海外では解雇する航空会社が出たほどだ。

 厳しい経営状況は、日本航空(JAL/JL、9201)も例外ではない。2021年3月期通期連結決算(IFRS)は、最終損益が2866億9300万円の赤字(20年3月期は480億5700万円の黒字)となり、9年前の再上場以来初めて通期最終赤字となった。国際線の旅客便が大量運休したものの、約7000人いる客室乗務員の一時帰休は実施せず、乗務のない日は教育や訓練に充てた。

JAL CB-CTに携わる荻政二機長(右)と京谷裕太機長=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 パイロットも同様で、技量向上や教育と並行して、世界で採用が進む訓練・審査制度「EBT(Evidence-based Training:証拠に基づく訓練)」の理解を深めることなどにも時間を費やした。EBTは世界中の航空会社による実際の運航や訓練などで得られたデータを「証拠(Evidence)」と位置づけ、航空機の自動化などによるヒューマンエラーをはじめ、現在の機材や運航環境に合った訓練や審査を行うもの。JALではEBTを2017年度から導入している。EBTの概念を各パイロットに深く理解してもらい、訓練の質を高める狙いがある。

 さらにその前の2012年から、JALは訓練を見直していく中でパイロットが自ら開発したデータベース「JAL CB-CT」の運用をスタート。客室乗務員の訓練にも、今春から応用を始めている。CB-CTのデータベース開発者として3代目の京谷裕太機長と、2代目開発者で運航訓練審査企画部定期訓練室の室長を務めるボーイング777型機の荻政二機長に、パイロット訓練の現状と将来像を聞いた。(肩書きは取材当時)

—記事の概要—
破綻で激変したパイロット訓練
教官の主観ではなく事実に基づく指摘
FileMakerだから毎年変えられた
社内開発を続ける意義
CA訓練にも展開
「評価」をなるべく使わない

破綻で激変したパイロット訓練

 JALがパイロットの訓練を大きく変えたきっかけは、2010年1月の経営破綻だった。資格維持以外はパイロットの訓練ができなくなり、新人養成は全面停止。これを逆手に取り、日常の訓練を行いながらでは難しい訓練内容の全面見直しに着手した。その一貫で、「Competency Based Check and Training(コンピテンシーに基づいた評価と訓練)」を実施するシステム「JAL CB-CT」を構築。米クラリスのデータベースプラットフォーム「FileMaker(ファイルメーカー)」を使い、2012年にパイロット自らシステムを構築した。

JALのパイロット訓練について説明する荻機長(右)と京谷機長=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 知識や技術といったコンピテンシー(評価要素)に基づいて訓練を構築することで、パイロットの能力や訓練の進捗を可視化。強みと弱みの把握や、パイロット個人と組織全体のどちらに起因する問題なのかといった分析に役立てている。評価基準を明確にすることで、訓練を受ける側だけでなく、教官のレベルを平準化して教える側の質の向上にもつなげている。

 まもなく稼働から10年を迎えるJAL CB-CT。現在開発を担当している運航訓練審査企画部訓練品質マネジメント室の調査役機長である京谷さんは、「2019年度からは、パイロットの能力向上訓練などに使用する定期訓練審査用の『CBCT Recurrent』と、副操縦士が機長に昇格時など乗員養成に使う『CBCT Upgrade』の2つに分かれました」と説明する。これまでは一つのデータベースで運用していたものが、ニーズに合わせて分離したという。CB-CT導入によるパイロットの意識、訓練に求められる要素、目指す内容の変化に合わせて、CB-CT自体も進化しているのだ。

 これまでにグループ航空会社のパイロット訓練にCBCT Recurrentを展開済みだが、4月からは客室乗務員にもCB-CTが導入され、コンピテンシーに基づく訓練がパイロット以外の職種にも広がっていく。

教官の主観ではなく事実に基づく指摘

 JAL CB-CTでは、訓練や審査を受けたパイロットに対し、教官が「あなたの能力はまだ低い」などと主観的に説明するのではなく、「こういうことが起きていた」といった客観的な表現で指摘していく。そして、課題となる事象がなぜ起きたのか、どういった能力があれば対処できるかなどを分析し、技量向上につなげる。

教官はCB-CTを構築したノートパソコンをシミュレーターに持ち込む=13年6月 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 訓練内容の可視化だけではなく、パイロットがトラブルに遭遇した際、より実践的な対応力をつけることもCB-CT導入の重要な役割だ。

 従来の訓練は、故障が多かった初期のジェット機の事故原因に基づくもののため、故障が起きにくくなった今の航空機では、ヒューマンエラーなど機械的な故障とは別の要因に対処する能力を向上するためには、訓練


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