エアライン, ボーイング, 機体, 解説・コラム — 2021年4月10日 20:10 JST

9年で退役、もう一つの“ANAビジネスジェット”737-700ER

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 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で、日本の大手2社が感染拡大前から立ち上げていたビジネスジェット事業が堅調に規模を拡大している。このうち、ANAホールディングス(9202)傘下でビジネスジェットの手配を手掛けるANAビジネスジェットは4月9日、報道関係者向けに事業説明会を開いた。これまでの時間価値の向上に加えて、感染防止対策や定期便での移動が難しい海外赴任などのニーズが見込めることから、設立5年目の2022年度に目標の年商10億円を達成できる見通しだという。

16年に退役したANAビジネスジェット=10年12月 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 ANAビジネスジェットは2018年7月2日設立。持ち株比率はANAHDが51%、双日が49%で、自社では機体を保有せずチャーターの手配事業を手掛けている。

 しかし、日本語表記だと同じ表記になる機体が2016年3月まで飛んでいた。ほぼ全席をビジネスクラスにしたボーイング737-700ER型機「ANA BusinessJet(ANAビジネスジェット)」で、成田-ムンバイ線などに投入されていた2機しかなかった機体だ。2007年3月の就航から9年で退役と、20年は飛ぶ旅客機の中では短命だった。退役翌年の2017年には、2機とも解体され現存しない。

—記事の概要—
全席ビジネスクラス仕様も
窓付きトイレも
12時間以上飛べるビジネスジェットも

全席ビジネスクラス仕様も

 ANAは2006年12月25日に、737-700ERを導入すると発表。世界初導入で、2007年3月25日に新設した中部-広州線に初号機(登録記号JA10AN)を投入した。製造は2007年1月5日、デリバリーは2月14日で、就航時の座席数は2クラス48席(ビジネス24席、エコノミー24席)だった。そして、同年9月1日に成田-ムンバイ線開設時に就航した2号機(JA13AN)は、世界でも珍しい全席ビジネスクラス(38席)となり、8月16日にデリバリーされた。

全38席がビジネスクラスのANAビジネスジェット2号機JA13AN=16年3月 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 2機とも機体全体に「ANA BusinessJet」と大きく描いた特別塗装だったが、2014年に通常塗装へ変更。初号機は7月12日、2号機は一足早く5月19日に変わり、そのまま退役を迎えた。最後まで運航していたのは成田-ムンバイ線(NH829/830便)で、成田発・ムンバイ発とも初号機による2016年3月26日出発便が最終となり、翌27日の成田帰着で2機とも退役となった。

 退役時の座席数は、初号機が2クラス44席(ビジネス24席、エコノミー20席)、2号機が1クラス38席(ビジネス38席)。ANAが国際線で運航している通常の737-700は2クラス120席(ビジネス8席、エコノミー112席)で、およそ40席のANAビジネスジェットは、約3分の1の座席数だった。

窓付きトイレも

 737-700ERは、貨物室内に燃料タンクを増設して航続距離を延長。燃料搭載量が通常の737-700は26キロリットルであるのに対して、約1.5倍の40キロリットルを積める。航続距離も737-700の4900キロに対し、737-700ERは初号機が約2倍の9700キロ、2号機が1万キロとなっていた。一方、エンジンは737-700と同じCFMインターナショナル製CFM56-7B24だった。

機体前方左側に設けられた化粧室には窓がある。ビジネスジェットの名にふさわしい豪華装備だ=16年3月24日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 離陸直後は燃料を満載しており、重い飛行機で高度を上げていかなければならない。ムンバイでは出発後に軍事空域をぬって飛ぶ区間もある。さらに、無線の電波状況が芳しくないところもあり、積乱雲を避けるのも一苦労だったという。操縦していたパイロットによると、エンジンが通常の737-700と同じため高度がなかなか上がらず、現地での無線交信には神経を使ったそうだ。

 また、737-700ERには燃料を空中で投棄する「フューエルダンプ」機能がない。離陸時にトラブルが起きれば、燃料が満タンの状態で対処を迫られる。着陸重量を超過した状態で着陸する「オーバーウェイトランディング」も、燃料を空中投棄できる機体よりも確率が高くなるといった違いがあった。

 737は当初から長距離を飛ぶことを想定していないため、冬場は成田空港からムンバイへ向かう途中、偏西風の影響で燃料を給油する「テクニカルランディング」を実施していた。就航当初は長崎空港で行われていたが、フライト時に障害となる物件がなくなったことで、設備が充実している福岡空港を使用するようになった。

 客室はフルフラットシートではないものの、ゆったりとした座席が並び、ほかの737とは印象がかなり違った。前方のラバトリー(化粧室)には窓があり、スペースもゆとりのあるものだった。

12時間以上飛べるビジネスジェットも

 2機の737-700ERは「ANAビジネスジェット」の愛称通り、出張需要を想定した機体だった。特にムンバイ線のように市場開拓型で当初から多くの需要は見込めないものの、出張利用が一定数見込める路線を念頭に置いていた。

ボンバルディアの最新ビジネスジェット機グローバル7500の寝室=21年4月9日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 2018年設立のANAビジネスジェットは、4-5席クラスの小型機としてホンダジェット、8-10席の中型機としてセスナのサイテーション・ソブリン、13席程度の大型機はガルフストリームG650やボンバルディア・グローバル6000などをそろえる。

 9日に公開されたボンバルディアの最新鋭機グローバル7500は、従来機では3つだった客室のゾーンが4つに増え、ベッドルームを2部屋にもできるようになった。航続距離も長くなり、片道14時間程度のフライトもこなせる。

 737-700ERの退役から5年が過ぎた2021年。新型コロナの影響により、ビジネスジェットが以前よりもビジネスツールとして活用されてほしいものだ。

737-700ER退役時の運航スケジュール
NH829 成田(10:05)→ムンバイ(19:45)
NH830 ムンバイ(20:55)→成田(翌日08:40)

関連リンク
ANAビジネスジェット
全日本空輸

特集・さよならANAビジネスジェット
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後編 窓付きトイレの贅沢仕様737-700ER(16年4月8日)

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