エアライン, 解説・コラム — 2021年2月7日 20:50 JST

「求められているのは機内と同じもの」特集・9万食売ったANA機内食通販の舞台裏

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 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で国際線の大量運休が続く中、航空会社は少しでも収益を生もうとさまざまな取り組みを進めている。全日本空輸(ANA/NH)は、国際線機内食の通販を2020年12月にスタート。最初は賞味期限切れが迫った機内食のフードロス対策も兼ねていたが、回を重ねるごとに完売するまでの時間が短くなっている。1月までに約7500セット、9万食を売り上げており、ヒット商品と言っても過言ではないだろう。

ANAの機内食通販に携わるANAケータリングサービス外販事業部の中村さん(左)と米田さん(右)、中央は客室サービス部の三浦さん=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 売上だけではなく、職場にも変化をもたらした。ANAグループで機内食を手掛けるANAケータリングサービス(ANAC)の米田(こめだ)崇彦・外販事業部企画営業課マネージャーは、「会社の雰囲気が明るくなりました」と話す。

 ANACは成田と羽田、川崎の3工場があるが、現在は成田工場から通販の機内食を出荷しており、普段の機内食作りが大幅に減ってしまった今、いかに円滑に出荷する体制を整えていくかに取り組んでいるという。

—記事の概要—
求められているのは機内と同じもの
宅配向け梱包も研究

求められているのは機内と同じもの

 3日に販売したのは、国際線エコノミークラス機内食の洋食や和食のセット第2弾で、初回販売は1月26日。洋食が「ビーフハンバーグステーキ デミグラスソース」「赤ワインで煮込んだハッシュドビーフ」「シーフードのトマト煮 バジル風味」の3種類セット。和食は「牛すき焼き丼」「鶏唐揚げと彩り野菜弁当」「白身魚照焼き」のセットだった。いずれも実際に国際線で提供しているものだ。

ANAの国際線エコノミークラス機内食の洋食セット第2弾。(手前から時計回りに)「ビーフハンバーグステーキ デミグラスソース」「赤ワインで煮込んだハッシュドビーフ」「シーフードのトマト煮 バジル風味」=21年2月1日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 人気の高いハンバーグは、ANAの機内食のスタンダードとすべく、総料理長の清水誠シェフも力を入れたそうだ。和食では「すき焼きは味が濃くなりがちなので、だしにこだわって作っています。あとは和食はどうしても見た目が茶色っぽくなってしまうので、ブロッコリーを入れたり、白身魚ではご飯にふりかけをかけています」(米田さん)と、色合いにもこだわる。

 1セットは3種類4食ずつ計12食入りで、価格は1セット9000円(税・送料込み)。ちょっと多い気もするが、「社内向けに販売した際は、24食入りなどもやってみました。もう少し少ない量も検討しているのですが、まずは安定供給できる体制作りです」とANACの中村昌広・外販事業部企画営業課長は話す。

 今回販売したのは、和洋2種類合わせて1500セット。機内食通販の第1弾となった12月は売り切るまでに数日かかっていたが、1月は同数を売り切るまで50分程度と大幅に時間が縮まり、今回は約30分で完売した。そこで、週に1回は販売できる体制を目指しており、3日の次は10日に洋食を販売することにした。

 しかし、ANACでも機内食がここまで売れるとは想像していなかった。「業務用のものをそのまま売っていいものなのか? という声もありましたが、お客さまが求めているのは機内と同じもの。旅の空気感と言ったらいいのでしょうか」と中村さん。販売前にSNSなどをリサーチしていたところ、機内食風の料理を作って楽しんでいる人たちを見かけ、本物で行くべきという方針が固まったそうだ。

 「今まで食べたことがないから食べてみたい、という方もいらっしゃいますね」(中村さん)と、今回の通販で機内食に興味を持った人からの注文もあるそうだ。

 無論、購入する側としては家庭で扱いやすくして欲しいというニーズもあるはず。しかし、例え不便さがあったとしても、こうした商品を買いたい利用者が求めているのは、本物ズバリという商品ではないか。「私たちも、そこは間違えないようにしていきたいです」(中村さん)と、機内食の作り手だから提供できるものを目指す。

 「家庭の冷凍庫に入るものなのかも、自宅に持ち帰って検証しました。冷蔵庫の急速冷凍室に入ります」(米田さん)と、外販を全く想定していなかっただけに、気になる部分は多々あったという。

ANAが3日から販売再開する国際線エコノミークラス機内食の和食セット。(手前から時計回りに)「牛すき焼き丼」「白身魚照焼き」「鶏唐揚げと彩り野菜弁当」=21年2月1日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

宅配向け梱包も研究

 ANACでは新型コロナの影響が大きくなってきた3月には、何かできないかと社内で検討が始まった。中村さんと米田さんによると、機内食の通販は比較的早い段階からアイデアとして出ていたという。

ANACが通販で扱っている食器類のうち売れ筋というビジネスクラスのパン皿=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 まず、5月の終わりにグループ会社向けに機内食を販売して課題を抽出。10月30日に正式に販売することが決まった。「動き始めると早かったです。機内で提供することを前提とした容器なので宅配に耐えるのかや、緩衝材の敷き方なども研究しました。機内と違うのは、フタを透明テープで止めていることですね」(中村さん)と、宅配に適した提供方法を探し求めていった。

 今回販売したものを含め、エコノミークラス用機内食のメインディッシュは、ANACでメニューを開発してから協力会社に製造を委託している。数を毎日大量に用意しなければならないことに加えて、技術的な部分も関係があるようだ。「解凍してもおいしいご飯や、ふわふわな玉子です。そうした技術を持つパートナーさんと一緒に開発しています」と、中村さんは説明する。

ANAケータリングサービスの新ブランド「ANA FINDELISH」のカレーを手にする清水シェフ(中央)とグルメ紀行ボックス(右)やフィナンシェを手にするANAの客室乗務員=19年11月6日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 ANACでは機内食の通販を始める前から、外販ビジネスを強化。2019年に新ブランド「ANA FINDELISH(ANAファインデリッシュ)」を立ち上げた。ビーフとポーク、チキンと3種類そろえたカレーや、就航地の食材を使った名店の味を家庭で楽しめる「グルメ紀行ボックス」、焼き菓子のフィナンシェなどのオリジナル商品を販売している。

 今回の機内食通販は、同社の商品に興味を持ってもらうきっかけにもなっているようだ。機内食つながりで、ファーストクラスやビジネスクラスで使用している食器も販売している。鳴海製陶社と共同開発したもので、「ビジネスクラスのパン皿が人気です」と、ANAC客室サービス部企画開発課の三浦かおりマネージャーは話す。

 機内食だけでなく外販強化を進めていたANAC。今回は本業を生かしながら、外販のノウハウも生かせたようだ。次はどんなメニューが登場するのだろうか。

関連リンク
機内食・ラウンジ提供食(A-style)
ANA FINDELISH(ANA公式ギフトショップ楽天市場店)
全日本空輸

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