機体, 解説・コラム — 2018年10月25日 23:50 JST

効率化進むヘリの最終組立ライン 特集・エアバスヘリの今と未来

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 人や物の移動手段として、“空飛ぶクルマ”の実現に向けた取り組みが、経済産業省や国土交通省など官民一体となって進められている。ドローンを活用した宅配など、さまざまな研究が行われているが、実用的な乗り物としてもっとも“空飛ぶクルマ”の概念に近いもののひとつがヘリコプターだろう。

 これまではヘリポートを垂直離着陸するのがヘリのイメージだったが、10月に基本設計の審査を終えたエアバス・ヘリコプターズの高速実証機「Racer(Rapid And Cost-Efficient Rotorcraft:レーサー)」は、従来のヘリと比べて50%高速な機体を目指している。

 Racerのような機体が実用化されると、患者の緊急搬送や救難救助といった、垂直離着陸と高速巡航の両立が求められる分野で活用できる航空機が増える。

H125とH130の最終組立が行われているエアバスヘリの小型ヘリのライン=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 こうした次世代のヘリ開発が進む中、現在使われているヘリは、どのような工場で生産されているのだろうか。南仏マリニャンヌのマルセイユ国際空港に隣接するエアバス・ヘリコプターズの最終組立工場を訪ねた。

—記事の概要—
ペーパレス化進む小型ヘリの組立ライン
静粛性高まるH160

ペーパレス化進む小型ヘリの組立ライン

 エアバス・ヘリコプターズは、エアバス・グループの再編に伴い、2014年1月にユーロコプターから改称した。さらにさかのぼると、1992年に仏アエロスパシアルと独MBB(メッサーシュミット・ベルコウ・ブローム)が合併して誕生したのがユーロコプターだった。このため、現在国土交通省航空局(JCAB)に登録されているヘリの中には、これらの時代に取得した型式名がみられる。

H125とH130の最終組立が行われているエアバスヘリの小型ヘリのライン=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

南仏マリニャンヌのマルセイユ空港(手前)に隣接するエアバスヘリの最終組立工場=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 エアバスヘリの現在のラインナップは、同社が「シングル」と分類する小型単発のH125やH130、小型双発「ライトツイン」のH135、EC145、H145、中型双発「ツインミディアム」のAS365N3+、H155、H160、H175、大型双発「ミディアム/ヘビー」のH215、H225などがある。国内では自衛隊や海上保安庁、警察、消防、自治体の防災、救急搬送といった分野で活躍しており、海保はH225を4月に追加発注している。

 8600人以上が働くマリニャンヌの工場には、小型ヘリや大型ヘリの最終組立ラインがあるほか、最新鋭機H160のラインもある。各ラインに見ていくと、組み立てるヘリに合わせた特徴がみられた。

 小型ヘリのラインでは、H125とH130の最終組立が行われていた。H125は、パイロット1人と乗客最大6人乗りで、各国の救急医療サービス(EMS)や警察などをはじめ4500機近くが運用されており、最大7人乗りのH130は670機以上が運用中だ。

H130(手前)とH125の最終組立が行われているエアバスヘリの小型ヘリのライン=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 H125やH130は、3列ある同じラインで組み立てが行われており、9つある「ステーション」と呼ばれる作業場所をひとつずつ進んでいくと、組み立てや検査を終えていき、すべての窓やドアを閉めて雨に降られる状況などをテストしていく。

 このラインでは、書類のデジタル化が2年前から進められ、作業者はタブレット端末を紙の書類代わりに使用していた。ペーパレス化により、技術情報や部品の状況などが素早く反映されるようになっている。そして、ラインごとに緑とオレンジ、赤のランプがあり、異常なく作業が行われているかが一目でわかるようになっていた。

H225の最終組立が行われているエアバスヘリの大型ヘリのライン=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 H225など大型ヘリの最終組立ラインは、同じ工場内の別の敷地にあった。「スーパーピューマ」の愛称を持つH215やH225は、軍用ヘリとしての採用も多い。日本では、H225を陸上自衛隊や海上保安庁、東京消防庁などが採用している。パイロット2人と乗客19人だが、軍用のH225は28人が乗れる。

 大型ヘリのラインは、ステーションが1から3までとH、4があり、Hは問題があった場所に対処する専用のステーションだった。小型ヘリのラインが9つのステーションを流れ作業で完成させていくのに対して、大型ヘリは軍用のものが多いこともあってか、1機ずつ異なる仕様に合わせて作業しやすくしている印象を受けた。

静粛性高まるH160

 そして、2019年にも型式証明を取得する見通しの最新鋭双発ヘリ、H160の最終組立ラインを訪れた。

 H160は、2015年5月に初飛行。従来機より静粛性が50%向上し、15%改善した燃費など、経済性の高さが特徴だ。

H160の最終組立が行われているエアバスヘリの最新鋭のライン=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 新開発の「Blue Edgeブレード」や、新世代のターボシャフトエンジン、パイロットの負担を軽減するヘリ用アビオニクス「ヘリオニクス」、デジタルフライトマニュアルなどを採用した。操縦席は視界が広く、前方や側面だけでなく、下方も確認しやすくしている。ランディングギアも、従来の機械式から電動化されるなど、随所に新機軸を盛り込んでいる。

 最終組立ラインも工夫がみられ、5つあるステーションで8日ずつ作業し、40日で完成する。このラインにはエアコンがあり、タブレット端末やビデオを活用するなど、作業性向上が図られている。

 H160は、旅客輸送や石油・ガス事業など人員輸送が主な用途で、EMS任務にも対応していく。フルデジタル化された設計から、生産までの工程を見直すことで、機体受領24週間(6カ月)前まで用途に応じた機体仕様が選択できるようにした。

 客室は快適性を追求。この特徴を生かし、ビジネスジェットのような豪華仕様にしたオーダーメイドヘリ「ACH160」(エアバス・コーポレート・ヘリコプターの略)も製造される。エアバスヘリは2015年10月に、H145のVIP仕様として「メルセデス・ベンツ・スタイル」を発表しており、さらに発展させたものがACH160となる。

 H160のような次世代ヘリの実用化が近づく中、エアバスヘリが注力しているのが、“空飛ぶクルマ”のような次世代航空機や無人機だ。後編では、これらを取り上げる。

(つづく)

H160の最終組立が行われているエアバスヘリの最新鋭のライン=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

H160の最終組立が行われているエアバスヘリの最新鋭のライン=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

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Airbus Helicopters
エアバス・ヘリコプターズ・ジャパン

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