エアライン, 解説・コラム — 2012年12月6日 22:00 JST

ANAとマンダリンが贈る色鮮やかなブランチ 欧米線ビジネス機内食担当シェフに聞く

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 全日本空輸(ANA、9202)は12月から国際線欧米路線のビジネスクラスの機内食で、東京・日本橋のホテル「マンダリン オリエンタル 東京」のフランス料理レストラン「シグネチャー」とのコラボレーションメニューの提供を開始した。ANAとマンダリンのコラボは2009年に国際線ファーストクラスでスタートして以来、3度目となる。

 今回のメニューは機内で2食目の食事となる、到着前のアラカルトの一つとして用意。ANAの機内食を手掛けるANAケータリングサービス(ANAC)の商品開発室でメニュー開発を統括する吉倉福三担当部長とパンやデザート類を担当する成田工場洋食調理部の香取伸亮担当部長に、2食目として提供するコラボメニューへのこだわりを伺った。

マンダリンとのコラボメニューを担当した吉倉さん(右)と香取さん=12年11月 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

色鮮やかなブランチ

 シグネチャーは『ミシュランガイド東京・横浜・湘南 2012』で1つ星を5年連続獲得。日本のモダンフレンチを代表する南仏出身のオリヴィエ・ロドリゲズ料理長の監修で、メインディッシュ「シリアルとパルメザンチーズのガトー仕立て スモークサーモンとアンディーブ」、前菜「ジュニパーベリーが香るビーフコンソメに京人参のクリーム 赤ワインのエッセンス」などを提供する。

メインの「シリアルとパルメザンチーズのガトー仕立て スモークサーモンとアンディーブ」(中央)、前菜の「ジュニパーベリーが香るビーフコンソメに京人参のクリーム 赤ワインのエッセンス」(右下)=12年11月 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 「機内は薄暗いので、目に入ってくる色などを気にしておられました」。吉倉さんによると、ロドリゲズ料理長のメニューは味や食感に加えて、色彩にも気を配ったものだったという。また、2食目の機内食は、乗客によっては眠りから覚めて最初の食事となるため、「朝食と昼食を兼ねたブランチ的なもの」(吉倉さん)になったそうだ。食器の並べ方も、食べやすいビーフコンソメから手に取りやすいよう、通常は横に並べるメインの皿を縦にするなど、ロドリゲズ料理長は工夫を凝らした。

 機内食は食器や食材の制約が多いほか、機内での盛りつけも手間がかかるものは難しい。また、レストランと異なり、食器にフタをする必要があるため、高さにも気を配らなければならない。7月末に打ち合わせをした時点でメニューのデザインは完成しており、ロドリゲズ料理長のレシピを基に、吉倉さんと香取さんが機内食として提供できるよう工夫を重ねていった。

2食目初の機内盛りつけ

 今回のメニューの特徴として、2食目の機内食としては初めて客室乗務員が機内で盛りつけを行う。欧米路線のビジネスクラスは約60席。2食目はマンダリンとのコラボメニューのほかに和食もあり、乗客により提供するメニューも時間も異なる。一方で、ギャレー(厨房設備)での盛りつけは、1人から1.5人程度のマンパワーでこなさなければならない。

 メインとなる「シリアルとパルメザンチーズのガトー」を機内で温めた後、客室乗務員がスモークサーモンを盛りつける。メニューの開発段階では客室乗務員も成田工場を訪れ、吉倉さんが盛りつけ方を説明した。

 作りたてにするひと手間をかける初の試みは、客室乗務員の理解と協力なしには実現出来なかったという。「この手順なら出来ますよね、これで初めてマンダリンのメニューになるんです」(吉倉さん)と説得。「狭いギャレーで長時間仕事をしているので、負担はかけたくない。3カ月間だけなので、なんとかやって欲しいとお願いしました」。

 一方、シリアルを作る吉倉さんも苦労した。餅米や黒豆などの雑穀とセモリナ粉とともに作るが、固まるのが早いため、気泡が入らないよう重しを載せてプレスして作るようにした。また、パルメザンチーズは乳脂肪分が高く、一度冷やして温めると分離してしまうため、牛乳と生クリームをブレンドして乳脂肪分を抑えた。

 アペタイザー(前菜)の冷製ビーフコンソメも、「平らにするのが大変でした」と吉倉さんは振り返る。レシピのままではコンソメがでこぼこしてしまい、ロドリゲズ料理長がイメージするフラットな仕上がりとは異なってしまう。試行錯誤した結果、ベジタブルゼラチンを使って固まるまでの時間を早め、イメージ通りに仕上がるようにした。

愛媛産ブラッドオレンジのマーマレード

 デザート「マンダリンオレンジとざくろのムース」とパン、ジャムを担当したのは香取さん。「ムースの上に載せるミカンは(ロドリゲズ料理長の案では)高さがあって、立体的でした。しかし、機内食ではフタをしなければならないため、高さを低くしました」。全体のデザインもより手の込んだものだったが、1日約500個を作るのは困難なものだったため、機内食向けにアレンジしたという。

パンは全粒粉のものと渦を巻いたブリオッシュの2種類。ジャムは黒こしょうを効かせたブラッドオレンジのマーマレード=12年11月 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 デザートはマンダリン側のレシピを基に作ったが、パンとジャムはロドリゲズ料理長からANACに一任された。09年にファーストクラスをロドリゲズ料理長が担当した際、成田工場で焼いたパンを食べており、信頼を得ていたという。「パンは(乗客から)大好評なんです。まずパンがおいしいと言われるんですよ」と料理を担当する吉倉さんは苦笑する。

 そのパンは全粒粉のものと渦を巻いたブリオッシュの2種類が添えられる。当初、デニッシュの生地でというマンダリン側からのリクエストがあったが、「ブリオッシュの方が2食目に合うのと、ちぎっても崩れないので機内では食べやすいかなと思いました」と香取さん。

 パンとともに用意したのは、愛媛産のブラッドオレンジを使ったマーマレード。スパイスの効いた刺激的な味を求められ、香取さんがコショウを使って編み出し、ロドリゲズ料理長からOKが出た。色彩面でも、ブラッドオレンジにラズベリーのピューレを少し足し、赤い色を強く仕上げた。ANAの機内食で、ジャムをメニューに載せるのは初めてだという。

寝起きでも食べやすく、しっかりした味

 メニューを説明していただいた後、記者は試食の機会に恵まれた。「コンソメから食べてみてください」と吉倉さんから勧められ、ビーフコンソメとオレンジ色の京人参のクリームから口に運んでみた。適度な食感と重すぎない味が、寝起きの食事として最初に口にするには適した一品だと感じた。

 一方、スモークサーモンとシリアルは、パルメザンチーズのソースとの組み合わせで、しっかりした味と食感。パルメザンチーズが濃厚すぎないため、地上と比べて乾燥した機内でも食べやすいだろう。ブラッドオレンジのマーマレードも、果実の味の後からスパイスが効いてくるといった味わいで、市中で手にするジャムにありがちな甘ったるさとは異なる、“大人の味”とでも言えば良いだろうか。

 最後に吉倉さんと香取さんに乗客へのメッセージを伺った。「コンソメの濃厚さと京人参のクリーミーな味、シリアルのもちっとした食感と、感激していただけるメニューだと思います」と吉倉さん。香取さんはマーマレードについて、「ひと味変わったジャムなので、好き嫌いがあるかもしれませんが、ぜひ食べていただきたいです」と語った。

 今回のメニューの提供期間は12月から2013年2月までで、対象は日本発北米・欧州路線のビジネスクラスで、成田発がシアトル、サンフランシスコ、ロサンゼルス、シカゴ、ニューヨーク、ワシントンD.C.、サンノゼ、ロンドン、パリ、フランクフルト、ミュンヘン。羽田発はフランクフルト。

メニュー
アペタイザー
・ジュニパーベリーが香るビーフコンソメに京人参のクリーム 赤ワインのエッセンス

メインディッシュ
・シリアルとパルメザンチーズのガトー仕立て スモークサーモンとアンディーブ

デザート
・マンダリンオレンジとざくろのムース

ジャム
・黒こしょうを効かせたブラッドオレンジのマーマレード

ブレッド
・蒜山ジャージーバターとともに

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