エアバス, エアライン, 機体, 空港, 解説・コラム — 2017年7月20日 15:50 JST

なぜA380は羽田に就航できないのか 特集・訪日4000万人達成を考える

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 1月から6月までの2017年上期累計の訪日客数が、前年同期比17.4%増の1375万7300人になったと日本政府観光局(JNTO)が7月19日に発表した。2016年の年間訪日客数は、JNTOが統計を取り始めた1964年以降過去最高となる前年比21.8%増の2403万9000人だったが、このままの伸び率でいけば、これを上回ることになりそうだ。

 過去5年間を振り返ると、2012年が前年比34.6%増の836万8000人、2013年は初の1000万人超えとなる同24.0%増の1036万4000人、2014年が同29.4%増の1341万4000人、2015年が同47.1%増の1973万7000人で、1970年以来45年ぶりに訪日客数と出国日本人数が逆転した。そして昨年は2403万人と、政府がかつて目標として掲げていた2020年に年間2000万人という数字を、大幅に前倒しして達成することになった。

羽田空港に着陸するエアバスのA380試験機。航空会社のA380は就航できるのだろうか=10年10月15日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

—記事の概要—
羽田で打てる手
伸び率鈍化はあるか
地方では訪日支援空港
ヒースローは就航
課題は滑走路

羽田で打てる手

羽田空港に初飛来したA380=10年10月15日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 そして現在、政府は目標値を大幅に上積みし、年間4000万人達成を掲げる。ビザの発給緩和や地方空港の着陸料引き下げなど、積極的な施策が採られている。

 しかし、日本最大の国内線ハブ空港である羽田をみると、まだまだ積み増しの余地がある。2019年をめどに国際線発着枠の増枠が見込まれているが、総2階建ての超大型機、エアバスA380型機の乗り入れなど、いくつかの手がある。

 2020年までに年間訪日客数4000万人を確実に達成する上では、小型機が中心となる地方空港だけではなく、羽田や成田といった基幹空港に対する施策も打ち出したほうが、その後の5000万人、6000万人といった目標をクリアする上でも、より現実味を増してくるはずだ。

 2010年に開業した羽田の国際線ターミナルを見ると、107番スポット(駐機場)にはA380のアッパーデッキ(2階)用PBB(搭乗橋)が設置済みで、113番も需要に応じて改修できるようになっている。一方、A380の全幅は79.8メートルと、航空各社が長距離国際線の主力としているボーイング777-300ER型機と比べて15メートル長く、誘導路が限られるなど、さまざまな制約があり、事実上就航できない状態が続いている。

 A380の羽田乗り入れを解禁することは、既存のインフラを活用しながら、1便あたりの乗客数を増やすことにつながる。羽田へ乗り入れる航空会社を中では、シンガポール航空(SIA/SQ)やタイ国際航空(THA/TG)、エールフランス航空(AFR/AF)、ルフトハンザ ドイツ航空(DLH/LH)、ブリティッシュ・エアウェイズ(BAW/BA)、カンタス航空(QFA/QF)、エミレーツ航空(UAE/EK)などが運航していることから、アジアだけではなく欧州や豪州からの訪日客増加も期待できる。

伸び率鈍化はあるか

14年に訪日旅客数が1300万人を突破。その後も順調に伸びている=14年12月22日 PHOTO: Yusuke KOHASE/Aviation Wire

 JNTOの分析によると、ここ数年の訪日外国人増加は、クルーズ船の寄港数増加や国際線の路線増、ビザの緩和などが要因として挙げられている。東南アジアを中心としたビザの緩和が2013年に実施された。

 現在、政府は2020年に年間4000万人の訪日客を呼び込む目標を掲げており、仮に伸び率20%が続けば、今年は2883万人、2018年は3460万人となり、2019年には4152万人と目標を前倒しで達成できる。

 しかし、世界各地で起きるテロや中国経済の減速など、不安要素もある。今年は20%増だったとして、2018年以降は平均15%の伸び率に落ちたとすると、4000万人に達するのは2020年で4385万人だ。

地方では訪日支援空港

訪日客数年間4000万人達成に向け羽田空港の強化も不可欠だ=17年1月1日 PHOTO: Tatsuyuki TAYAMA/Aviation Wire

 航空行政も、4000万人達成に向けた施策が採られている。例えば、国土交通省航空局(JCAB)は7月4日、全国27空港を「訪日誘客支援空港」に認定したと発表。着陸料などを割り引くことで国際線の就航を促し、訪日客の取り込みを図るものだ。

 2016年は羽田、成田、新千歳、関西、中部、福岡、那覇の7空港を除いた地方空港から、訪日客の5%にあたる109万人が出入国した。46万人だった2012年と比較すると、およそ2.4倍に増加したが、2015年は108万人(前年比0.7%増)で、伸び率が鈍化している。

 一方、国交省の資料などによると、羽田は9割以上、成田は8割以上の発着枠が使われており、特に羽田は2019年と目途とする発着枠増枠までは、大幅な増便が厳しい状況だ。

 地方空港だけではなく、幹線が就航する基幹空港も、2020年までに同時強化していくべきだろう。例えば、福岡空港では第2滑走路の建設計画が進んでいるが、供用開始は東京オリンピック後の2025年3月末。滑走路工事や発着枠増枠のような施策だけではなく、既存のインフラを活用しやすい策も打つべきではないだろうか。

 特に羽田のキャパシティー増加は、豊富な国内線への接続需要取り込みが期待でき、地方への訪日客送り込みにつなげられる。

ヒースローは就航

ヒースロー空港に乗り入れるエティハド航空のA380=16年7月16日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 では、本当にA380は羽田へ就航できるのだろうか。航空会社のA380はまだ乗り入れていないが、羽田の国際線ターミナルがオープンする前の2010年10月に、エアバスの試験機が飛来したことがある。前述したPBBをはじめとする、駐機施設のチェックのためだ。この際は離着陸ともにC滑走路(RWY34R)を使用した。

 羽田へA380を就航させる議論が起こると、必ず出るのがA380による後方乱気流のため、後続機との間隔を開けなければならないことだ。国連の専門機関であるICAO(国際民間航空機関)の取り決めでは、777のような大型機の場合は後続機との間隔を3海里(約5.6キロ)以上取るよう求めており、A380は2倍の6海里となっている。

 仮に12海里の間に、3機の777が4海里ずつ間隔を開けて飛んでいたとして、1機をA380に置き換えても777とA380の間を3海里、A380と777の間を6海里開ければ、3機を飛ばすことができる。A380が2機、間に777が1機入っても、A380の後ろを6海里、777の後ろを3海里開ければ、同じく3機を飛ばす運用が可能だ。

 これを座席数に換算すると、777を300席、A380を500席とすれば、777が3機で900席であるのに対し、1機をA380にすると22%増の1100席、2機をA380にすれば44%増の1300席になる。日本に就航している海外の航空会社で、A380を運航しているのはごくわずかだ。同一時間帯に到着が重なったとしても、3機以上列を連ねてくることは考えにくい。

 羽田と同様、混雑している空港を見ると、ロンドンのヒースロー国際空港は2008年にICAOの規定のままA380が就航して以来、利用者数が伸びている。ブルームバーグの報道によると、2014年はA380による運航便の増加により、利用者数が前年比で230万人増えたという。

課題は滑走路

羽田のC滑走路を離陸するルフトハンザの747-8。離陸にC滑走路を使う欧米路線であればA380就航も現実味を増す=14年10月27日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 一方、羽田の場合は滑走路により運用制限がある点が、A380の就航を難しくしている。後方乱気流の問題をクリアしたとしても、特に沖合にあるD滑走路は構造上、最大400トンまでという総重量制限がある。

 海外の航空会社幹部は、「乗客が乗っていなければD滑走路から離陸できるが、通常の運航では難しい」と説明する。

 また、騒音対策の関係で、夜間にC滑走路を利用できるのは1日8便以内に制限されている。しかし、C滑走路を使う昼間の便であれば、現在の運用条件内でのA380就航も、不可能ではない。

 このため、離陸にC滑走路を使う欧米方面の便であれば、A380は後方乱気流の問題と、使用する誘導路の運用をクリアすれば就航への道は開けそうだ。一方、風向きによりD滑走路から離陸するアジアやオセアニア方面は、課題が残ると言えるだろう。

パリ航空ショーで飛行展示を披露するエアバスのA380試験機。今後の受注増は厳しいが運航中のA380で訪日客数を増やすのは有効な施策になり得るだろう=17年6月22日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 ボーイングやエアバスの今後20年の新造機需要予測を見る限り、A380のような超大型機が大幅に増える可能性は低い。

 ボーイングは6月に発表した予測で、超大型機は777の後継機777Xなどの双発機へシフトし、貨物機が中心になると見ている。エアバスも6月発表の予測で、超大型機の需要を昨年の1480機から1184機に下方修正した。

 日系航空会社を見ても、A380を3機導入する全日本空輸(ANA/NH)は、全機を成田-ホノルル線に投入し、羽田へは乗り入れない。777の後継機としてA350を導入する日本航空(JAL/JL、9201)は、A380の導入を考えておらず、ANAの3機以上に増えることはなさそうだ。

 一方、羽田へ乗り入れる航空会社の中で、エールフランスやルフトハンザは過去に成田へA380を飛ばしていた。A380の羽田乗り入れが解禁となれば、長距離路線を運航する欧州の航空会社は、機材の選択肢に柔軟性を持たせることができる。

 今以上に運航機数が大きく増える見通しが乏しい超大型機。しかし、すでに運航している航空会社は海外に存在する。A380の羽田解禁は、年間訪日客の4000万人達成に向け、滑走路整備などと比べて比較的手が掛からない割に、訪日増加を底支えしうる施策と言えるだろう。

関連リンク
日本政府観光局
観光庁

訪日客数
17年上期の訪日客、17.4%増1375万人 20市場で過去最高(17年7月20日)
16年訪日客、2403万人で歴代最高 日本人客2年連続上回る(17年1月17日)

ボーイングとエアバスの需要予測
ボーイング、36年までの新造機需要4万1030機 中大型機は減少傾向(017年6月27日)
エアバス、36年までに3万4900機需要予測 単通路機が大型化、超大型機は需要減(17年6月13日)

超大型機は冬の時代
エアバス、A380減産へ 18年から月産1機、損益分岐点は到達(16年7月14日)
ボーイング、747-8製造中止検討 苦境のジャンボ、貨物低迷響く(16年7月29日)

A380関連
エアバス、A380plus開発調査 大型ウイングレット装着、燃費4%減(17年6月20日)
エアバス、A380に新客室オプション 階段変更で575席(17年4月5日)
エミレーツ航空、成田へA380復活 3年9カ月ぶり(17年3月26日)

国内大手2社の大型機戦略
JAL、大型機はA350のみ 植木社長「効率落ちる」(17年7月12日)
ANAのA380、デザインは「空飛ぶウミガメ」 成田-ホノルル19年就航(17年3月6日)

【お詫びと訂正】
記事初出時、訪日客数のカウントについて「2014年には観光庁が訪日客数の統計方法を見直し、従来は人数に含めていなかった外国人乗務員も、訪日客数に加えている」と記載しましたが、正しくは見直しを議論したものの、外国人乗務員を加算する案は採用に至っておりませんでした。このため当該カ所を削除致しました。お詫び致します。観光庁によると、2016年に訪日した年間外国人乗務員数は約200万人でした。(17年7月28日 17:08 JST)

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