エアライン, 解説・コラム — 2015年7月17日 12:30 JST

パイロットの能力「男女差ない」 特集・日本初のJAL女性機長が歩む道(前編)

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 航空会社といえば、女性の活躍が目立つ業種だ。客室乗務員や空港旅客係員といった、利用者と直接接するスタッフは、圧倒的に女性が多い。特に国内の航空会社では、この傾向が顕著だ。

 一方、飛行機の運航に携わる職種の中でも、パイロットや整備士に目を向けると、男性が大半を占める。例えば、日本国内の航空会社で働くパイロットは約5000人いるが、女性は1%の約50人だ。そのうち、機長は5人にとどまる。女性の整備士もまだまだ少ない。

 女性機長5人のうちの1人、日本航空(JAL/JL、9201)の藤明里(あり)機長は、2010年7月に国内の航空会社では初めて機長に昇格した。現在はボーイング737-800型機に男性パイロットと同じシフトで乗務し、国内線や国際線を飛ばしている。

パリ航空ショーで開かれたIAWAのレセプションで講演するJALの藤機長=6月18日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 藤さんは1999年5月、JALグループのジャルエクスプレス(JEX、現在はJALに統合)に入社。訓練を経て、2000年4月から副操縦士として10年間乗務し、日本初の女性機長になった。毎年3月3日のひな祭りに、運航業務のほとんどを女性スタッフが行う、JALの「ひなまつりフライト」にも、機長として参加している。

 日本の女性パイロットのパイオニアである藤さんは、6月のパリ航空ショーで開かれたIAWA(国際航空女性協会)のレセプションに招待された。世界各国の航空業界で働く女性を前に、日本のパイロット事情を自身の経験談を交えて紹介した。また、仏トゥールーズにあるエアバスでは、同社の女性フライト・テスト・エンジニア、サンドラ・ブール=シェファーさんと意見交換した。

—記事の概要—
女性もできると知られていない
ラダーペダルに届かない?
能力に男女差なし
自分に割ける時間の違い

 日本初の女性機長として、フロントランナーの藤さんが歩んできた道のりは、どのようなものだったのだろうか。(後編はこちら

女性もできると知られていない

パリ航空ショーで開かれたIAWAのレセプションで懇談する藤機長=6月18日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 「女性の社会進出は進んできていますが、パイロットという職業への進出がスローペースなのは、女性にもできるものだと、あまり知られていないからだと思います」。藤さんはレセプションのスピーチの中で、こう分析した。

 日本発の女性機長として、とかくメディアに取り上げられることが多いが、藤さん自身は人前で話をするのは得意ではないという。しかし、取材を受けて行くにつれて、パイロットは女性もできる仕事だと理解してもらうためには、良い機会だと思うようになったそうだ。

 幼少のころ、飛行機に乗った景色が記憶に残っていた藤さんは、高校で進路を選択する際にパイロットを目指そうとする。しかし、国の航空大学校を受験しようにも、受験時の身長制限に8センチ足りずに受けられなかった。

ひなまつりフライトでブリーフィングする藤機長(左から3人目)=3月3日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 このころはまだ航空会社に女性パイロットが一人もおらず、航空会社に自社養成パイロットとして入社するのも、門前払いになる時代だった。男女雇用機会均等法が施行されたのは1986年。今から30年ほど前は、職業を選択する以前の段階から、男女差が残っていた。

 日本のパイロット育成制度では難しいと感じた藤さんは、米国へライセンスを取りに行く。そこで飛ぶ楽しさを知った藤さんは帰国後、会社員として働きながら日本のライセンスを取得した。そして、JEXのパイロット募集に応募し、必死の思いで受けた入社試験をパスした。

 民間機のライセンスを持っていれば誰でも応募できたが、自社養成でもなければ航空大学校卒でもない。藤さんは「かなり珍しい動物のようにみられた」と話し、副操縦士になると、自分の中では男女差がないと考えていても、世の中は良くも悪くも男女差があることを実感する。

 「機長になる気はあるのか」。藤さんは社内試験で、試験官からこう言われたという。副操縦士になった後は機長を目指すのが当たり前、そう考えていた藤さんは「変なことを聞くチェッカー(試験官)だな」と思いながら、「イエス」と応じた。

 なぜ試験官がこのようなことを聞いたか。その理由を後日知ることになる。試験官は、女性は結婚して子供ができたら辞めてしまう、機長を目指すのを諦める、そう不安に感じていたからだ。

ラダーペダルに届かない?

ひなまつりフライトでブリーフィングする藤機長(右)=3月3日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 副操縦士になってからも、女性ならではの苦労が続く。「男性社会の職場であることは覚悟していましたが、男性と同じミスをしても、大きく言われたりもしました」。

 こう話す藤さんは、「君か、ラダーペダルに足が届かない副操縦士は」「パイロットもやったし、結婚したのだから、仕事辞めたら?」と、初対面の機長から心ない言葉を掛けられることすらあったという。もちろん、この時に藤さんは副操縦士として乗務しており、ラダーペダルに足が届かなかったわけではない。

 男女共に同じミスをしても、女性が目立ってしまうと感じた藤さんは、はじめのうちは不公平な扱いに不満を抱いたという。しかし、自分のミスも素直に認めず、直すことができないことが悪循環につながっていることに気づく。

 自分が変わったことで、周囲も変化した。機長昇格訓練に入ると、同僚たちや会社も応援してくれた。日本初の女性機長誕生までには、多くのハードルがあった。「素直に一生懸命、前に進めば結果がついてくることを知りました。嫌いなことや辛いことから逃げなければ道は開けます」と振り返った。

能力に男女差なし

ひなまつりフライトの出発をコックピットで待つ藤機長=3月3日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 しかし、いわれのない言葉や、ミスを素直に受け入れるだけでは続かない。ストレスのコントールの重要性を語った。

 「過度なストレスは、仕事面でパフォーマンスが落ちますし、プライベートでも何も楽しめない、ただつらいだけの毎日になります」と話す藤さんは、同業である夫の支えが大きかったと打ち明けた。

 「私の愚痴を聞き、間違っていればやさしく指摘し、正しければ励ましてくれました。私のストレス解消法は、夫や友人に嫌なことを話して、見方がいることを確認して安心することでした」と述べ、自分に合ったストレス解消法を知ることが大事だとした。

 そして、機長昇格後、男性と女性どちらの副操縦士とも乗務して感じたことは、能力に男女差はないこと。そして、権利と責任もまた男女同じだということだった。

 藤さんは女性である利点を「雰囲気を作りやすいことでしょうか。地上旅客係員や客室乗務員、パイロットと、あらゆる場面での会話は男性よりも女性の方が、比較的スムーズに行えると感じています」と話した。機長として話しやすい雰囲気を作り出すことで、多くの情報が得られ、チーム全員でより良い仕事ができると考えているという。

 そして、男女ともに仕事でベストを尽くすには、周囲の協力や理解が大切だと話す。女性の場合は産休が入る場合があり、今の時代は男女とも育休を取得する可能性がある。しかし、女性の場合、もし仕事が片手間になれば男性から「女性の仕事はこの程度か」と思われてしまうことがあるという。

 この時に、女性側は子育てと両立しているから、仕事の出来が少し悪くても仕方ないと考えてしまい、男性も女性は子育てで大変だから仕方ないと考えてしまうことを、藤さんは、“負の連鎖”に陥ることだと懸念する。そして、何も言われなければ、女性もそのまま仕事をしてしまう。自らの副操縦士時代の経験を振り返りながら、藤さんはこのように語った。

 「自分は大丈夫なのか。何か大切なことに気づいていないのではないか」と、今も自問自答しているという。

自分に割ける時間の違い

パリ航空ショーで開かれたIAWAのレセプションの壇上で講演する藤機長=6月18日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 では、女性にパイロットという仕事は向いていないのだろうか。「男女問わず、そして私のように小さな人でもパイロットにはなれます」と藤さんは明言する。

 今年ブリティッシュ・エアウェイズ(BAW/BA)がまとめた調査を基に、藤さんは日本のみならず、世界的にみても航空会社のパイロットという仕事が女性でもできると認知されていないと語った。日本では2013年、女性パイロット訓練生のドラマが放映され、少しではあるが航空会社のパイロット訓練生を志望する女性が増えたと、事例を話した。

 航空業界で、女性が次にすべきことを「与えられた仕事は、責任を持って遂行すること」というのが藤さんの持論だ。同じミスをすれば女性のほうが大きく取り上げられ、女性は結婚や出産で時間をとられがちだ。そこで、会社側はよりリスクが低い男性を選ぶ。

 藤さんは家族が出来た時に、割ける時間の違いが大きいという。男女の能力は同じでも、自分に割ける時間は違うということだ。だからこそ、会社や夫の協力があった上で、女性自身の努力があれば、男女同じ条件下で女性も能力が発揮できると、藤さんは考えている。

 「女性が働くことで、社会に利益をもたらすと思わせられれば、みんなの意識も変わります。時間も努力も必要ですが、変えることは出来ると信じています」。講演をこう結んだ。

 後編では、エアバスの女性フライト・テスト・エンジニア、サンドラ・ブール=シェファーさんとの意見交換や、A380のフライトシミュレーターを体験した感想などを取り上げる。(後編はこちら

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