エアライン, 解説・コラム — 2019年8月21日 23:40 JST

ナパ閉鎖を経てフェニックスで訓練再開 特集・JALパイロット自社養成再開から5年(1)

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 日本航空(JAL/JL、9201)のエアバスA350-900型機が、9月1日から羽田-福岡線に就航する。旧日本エアシステム(JAS)が統合前に導入したA300を除くと、JALがエアバス機を導入するのは初めてだ。現在は就航に向け、パイロットが訓練飛行を続けている。

 機材が新しくなるだけではなく、JALは2010年1月の経営破綻や、2013年10月のA350導入決定を機に、パイロットの訓練方法を大きく変えた。訓練の初期段階から機長と副操縦士の2人乗務(マルチクルー)を前提とした「MPL(マルチクルー・パイロット・ライセンス)」を、2014年4月から導入。2017年2月には、MPLで合格した最初の副操縦士が巣立っている。チームで運航する能力を訓練の初期段階から身につけられ、期間も従来より約半年短縮できるなど、航空会社のパイロット養成に特化したものだ。

 JALのパイロット自社養成は破綻による中断を経て、今から5年前の2014年8月21日に、現在の訓練施設がある米フェニックスで再開後初の授業が開かれた。

JALのフェニックス訓練室で教官を務める本郷さん(中央)。一緒に写る訓練生たちは無事にフェニックスでの訓練を終えて帰国している=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 当紙では、JALのパイロット訓練生がフェニックスや実機訓練の地であるグアムで訓練を重ねる姿を取材。2010年12月から今年3月まで運航本部長を務め、新たな訓練の導入を主導した進俊則氏には、パイロット訓練改革の裏側や今後の課題を聞いた(関連記事)。

 今回からは、フェニックスやグアムでの訓練の様子を取り上げる。第1回目は、フェニックスでのプロペラ機による初期段階の訓練。晴れ渡る空の下、訓練生が汗を流しながらフライトの準備を進めていた。(肩書きは取材当時)

—記事の概要—
ナパの訓練機は航大へ
訓練再開から5年
「一番無駄がなく、近道」

ナパの訓練機は航大へ

 JALがパイロット訓練の拠点を置いているアリゾナ州フェニックスは、全米5番目の都市。日本からの直行便はないが、初めて訪れると空港の大きさに驚くほど。夏場は最高気温が40度を超え、常に水分補給が必要な環境だが、一方で快晴日数は年間300日以上と、パイロット訓練には適した天候だ。日本の快晴日数は全国平均で年間28日程度であることと比べると、10倍の差がある。

航大仙台分校の訓練機は東日本大震災で津波の被害を受けた=11年5月 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 かつてJALは、カリフォルニア州ナパに自社養成パイロットの訓練所を持っていた。JALの自社養成パイロットにとって、聖地のような存在だ。1971年11月1日に開所し、経営破綻後の2010年8月12日に最後の訓練を終えるまで、人身事故は39年間にわたりゼロだった。乗客乗員520人が亡くなった日本航空123便墜落事故の発生日と最終訓練日が重なったことから、米国人教官やスタッフを含め、訓練所全員で黙祷を捧げた。

 ナパで使用していた訓練機のうち4機はその後、仙台空港にある航空大学校へ移管された。2011年3月11日に起きた東日本大震災で、航大の訓練機が津波にのまれ、すべて失われたためだ。補助燃料タンクを付け、ナパからホノルルまで8時間ノンストップで飛行するなど、長時間のフライトを重ねて仙台へ向かった。

 JALにとって、ナパの閉所は自社養成パイロットの訓練が止まったことを意味する。2010年1月19日の経営破綻により、パイロットの訓練は乗務に必要な資格を維持するものを除き、すべて止まってしまう。同年6月27日(米国は26日)、当時運航本部長だった植木義晴会長が、東京・天王洲の本社で訓練生に訓練中断を言い渡し、ナパの訓練生にも副本部長によって同時に伝えられた。

 2010年8月から9月にかけ、ナパの訓練生や教官は次々と帰国。訓練生たちは飛行機の操縦とは直接関係ない職種の地上勤務へ移ることになった。

訓練再開から5年

 しかし、破綻から再生する以上、パイロット自社養成の再開は不可欠。ナパでの最終訓練から4年がすぎた2014年8月21日に、現在の訓練施設であるフェニックス訓練室で最初の授業が開かれた。

フェニックスで本郷さんとともに機体を点検する訓練生たち=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 JALがフェニックスでこだわっているのは、現役の機長や副操縦士が教官として訓練生を指導する点だ。カナダのシミュレーターメーカーCAEのグループ会社と提携し、JALの機長10人と副操縦士2人、事務スタッフ2人の14人が、80人の訓練生をCAEの教官とともに育てている。

 現在、JALの自社養成パイロットは訓練生として入社後、最初は空港や予約センターに勤務し、乗客と接しながら航空会社の基礎を学ぶ。その後、東京で座学を3カ月受け、フェニックス入り。プロペラ機の訓練をファルコンフィールド空港で8カ月、ジェット機の訓練をメサ・ゲートウェイ空港で6カ月行い、日本へ帰国する。そして、東京でボーイング737型機のシミュレーター訓練、グアムで737の実機訓練を受け、6カ月の路線訓練をパスすると、晴れて副操縦士として乗務できるようになる。

フェニックスで訓練生を指導する現役機長の本郷さん=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 訓練生が初めて飛行機を飛ばすフェニックス訓練室で、飛行訓練を担当する教官の本郷猛さんは、ボーイング767型機の現役機長。ナパの閉所が決まった際にも、現地で訓練に携わっていた。「まさか自分がフェニックスへ来ることになるとは思いませんでした」という本郷さんは、2015年12月に着任し、後進の指導にあたっている。

 航空会社の第一線で飛ぶベテラン機長が、新人をマンツーマンで


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