エアライン, 解説・コラム — 2018年9月3日 12:58 JST

FileMakerで評価基準を明確化 特集・JALパイロット訓練の今 第1回CB-CT編

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 航空需要が世界的に拡大する中、より多くのパイロットが求められている。ボーイングによると、2037年までの20年間で新たに必要とされる民間機パイロットは63万5000人にのぼるという。

 パイロットの争奪戦が世界規模で行われる中、航空会社では人数を確保するだけではなく、新人パイロットの育成や、訓練内容の充実が課題となっている。

FileMakerを活用した訓練体系「CB-CT」を運用するJAL運航訓練審査企画部定期訓練室の荻室長(左)と運航訓練審査企画部訓練品質マネジメント室の京谷調査役機長=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 国内の航空会社が自社養成するパイロット訓練生の訓練内容に目を向けると、「MPL(マルチクルー・パイロット・ライセンス)」と呼ばれる新方式を、日本航空(JAL、9201)が2014年4月に初導入。ICAO(国際民間航空機関)で2006年に規定され、日本では2012年に法制化された制度で、期間を従来より約半年短縮できるだけではなく、2人のパイロットがチームで運航する能力を、訓練の初期段階から身につけられるものだ。

 JALではMPL導入のほか、パイロット有志がデータベースで自分たちの能力を可視化し、技量を向上する訓練体系「JAL CB-CT」を構築。2010年1月に経営破綻した際、資格維持以外の訓練ができなくなったことで、従来から構想を温めてきた新しい訓練体系が導入しやすい環境になり、2012年3月にデータベースの自社開発に成功した。

 今回から数回に分け、米フェニックスやグアムでの実機訓練を含め、JALのパイロット訓練を特集する。第1回は、パイロットの手によるCB-CTのデータベース開発を取り上げる。

—記事の概要—
フライトの評価要素を洗い出す
教える側も平準化
データ量減らしつつ質を担保

フライトの評価要素を洗い出す

JALの7.5世代CB-CTの画面イメージ=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 JALがCB-CTで使っているデータベースソフトは、「FileMaker(ファイルメーカー)」だ。カード型データベースから発展したFileMakerは操作が簡単で、パイロットが自ら改良を進めていくには適したデータベースだ。

 紙ベースで作ったものをデータ化するところから始まり、2012年にデータベースが完成。今年4月には8世代目「CB-CT8」が稼働した。

 CB-CTのデータベースでは、「路線」や「技能」「定期」「養成」といったパイロットの訓練が、計画通りに進んでいるかなどを可視化し、教官がモニターできる。各パイロットの何が強みで、何が弱みなのか、全体的な問題なのか、個別の問題なのか、改善しそうなのか、悪化しそうなのかといったことを、指導する教官が分析するツールとして活用している。

 安全運航を実現していく上で、訓練にデータを活用するのは世界的な流れであったが、訓練を実施しながら訓練体系を抜本的に変えることは難しい。そこでJALは、機長昇格訓練や副操縦士の養成といった、新たな訓練が止まった経営破綻を契機に、CB-CTの導入を進めた。

 ボーイング777型機の機長で、運航訓練審査企画部定期訓練室の室長を務める荻政二さんは、「理論や体系構築に詳しい人、ヒューマンファクターに詳しい人、ITに詳しい人がパイロットの中にいたため、自然発生的に新しい訓練体系を考えようとなりました。3人とも個性豊かなパイロットだったので、私は3人をつなぐ役割でした」と、プロジェクトが始まった当時を振り返る。

 CB-CTでのコンピテンシー(評価要素)は、「ナレッジ(知識)」「スキル(技術)」「アティチュード(姿勢)」の3つに大別。さらにスキルの中で「テクニカル」や「ノンテクニカル」、ノンテクニカルの中でも「ワークロード」や「チームビルディング」などと枝分かれしていく。

 そして、1回のフライトを出発前の「プリフライト」から到着後の「ポストフライト」まで9つに分け、さらにプリフライトであればコックピットでの準備やエンジンスタートなど、各段階ごとに評価項目を細分化した。

 「コックピットに座ってシートベルトを締めるなど、フライトの最初から最後までを3000項目くらい洗い出しました。ただそのタスクができれば良いのではなく、雨が降っている時、交通量が多い時など、どんな環境で、どういう流れで、どのように実現できるかを見る必要があります。そして熟達の観点で、プロとして仕事をどうできて欲しいのかをまとめると、全部で163ページ、全3部の量になりました」(荻さん)と、評価項目をまとめた背景を説明する。

教える側も平準化

CB-CTの導入で評価基準が明確になり、教官のレベルも平準化できた=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 CB-CTの活用で、パイロットたちは現在起きていることを把握し、分析して次年度の訓練に反映できるようになった。訓練でうまくいかなかったタスクは何か、うまくいかなかった要因は何か、どのようにタスクをこなして欲しかったかなどを、分析できるようになった。

 しかし、実際に分析を進めていくと、教官たちが把握したい要素が徐々に変化していったため、データベースも要望に合わせて改良していった。

 「私が機長になった時は、厳しい教官もいれば優しい教官もいて、いろいろな教官を渡り歩いて上達していきました。CB-CTの導入で評価基準が明確になり、教官ごとのデータも出せるので、教える側のレベルを平準化できました」と、荻さんは話す。

 CB-CTを導入当初について、荻さんは「当初はコンピテンシーという言葉さえ社内で知られていない状況でした。今では会話で当たり前の状態になっています」と、変化を語る。

データ量減らしつつ質を担保

グアムで737を使った実機訓練を終え降機するJALの教官と訓練生。破綻後に入社した訓練生は新体系で訓練を受けていく=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 CB-CTはバージョンアップするごとに、利用する評価軸を変えている。「教官が時間を多く割かないといけないので、データを取る量を減らしながらも、質を担保できるものは何かを考えました」(荻さん)と、教官たちが活用し続けることができるシステムに進化させていった。

 今年4月に稼働した現行の第8世代「CB-CT8」を手掛ける、運航訓練審査企画部訓練品質マネジメント室の調査役機長である京谷裕太さんは、「以前はデータベースを全部作り替えていたのですが、バージョン7(第7世代)からは裏側のデータとインターフェースを分離し、インターフェースを変えずに裏側だけ変えることもできるようになりました」と話す。

 CB-CTは、第7世代まで1段階ずつバージョンアップしてきたが、昨年5月にマイナーチェンジ版のバージョン7.5を稼働させた。現場の教官たちはあまり変化させて欲しくないのが本音だといい、バージョン7と同じインターフェースで、裏側だけを変えたものだ。

 「バージョン8はかなり大きな変更で、タスクではなくコンピテンシーを訓練しようと大きく舵を切りました」と京谷さんは説明する。根っこになるコンピテンシーを訓練することで、より深い部分から能力を高めていく狙いがある。

 一方で、教官の負荷を軽減することも重要だ。荻さんは「第8世代で、教官の作業は当初と比べると5分の1くらいになりました」と話す。

 「第8世代からは京谷にバトンタッチしました。若手には社内でCB-CTより小さいプロジェクトをやってもらい、経験を積ませています」と、CB-CTの開発を担う次世代の人材育成にも力を入れている。

 FileMakerを活用することで、訓練で必要となる要素を可視化するとともに、教官のレベルも平準化したJAL。こうした訓練体系の見直しで重視したもう一つの要素が、機長と副操縦士の関係だ。

 従来は機長の立場が絶対的で、副操縦士はこれから機長になる修行中の身、という考え方だったが、CB-CTの導入で副操縦士は独立した立場であることを明確にした。

 次回は、世界で採用が進む新しい訓練・審査制度「EBT(Evidence-based Training:証拠に基づく訓練)」を取り上げる。

(第2回へつづく

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