官公庁, 空港 — 2015年9月15日 06:55 JST

広島空港、ILSの新アンテナ公開 5カ月ぶり復旧へ

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 広島空港を運営する国土交通省大阪航空局広島空港事務所は9月14日、仮復旧していたILS(計器着陸装置)が19日に完全復旧するのを前に、新たに設置したローカライザー・アンテナを報道関係者に公開した。

アンテナを越えて着陸する羽田発のNH679便=9月14日 PHOTO: Yusuke KOHASE/Aviation Wire

 新設したアンテナは24本で、高さ6.4メートル、幅40メートルのユニット。破損前と同じ大きさのものを設置した。仮アンテナは9月下旬から撤去を開始する予定。広島空港事務所の漆島重人空港長によると、仮アンテナの設置と撤去、新しいアンテナ機材の設置など、費用は合計で1億5240万円かかるという。

 漆島空港長は、航空機が広島に向かう際の出発空港では「広島空港の天候を調査している」「福岡空港にダイバート(目的地変更)する可能性がある」などアナウンスで、不便をかけたと話した。「利用客には迷惑をかけた。これからは安心感を持って利用してもらいたい」と、完全復旧に向けて意気込みを語った。

 9月19日午前7時30分から、5カ月ぶりに完全復旧する見込み。事故発生前と同じ「カテゴリーIIIB(CAT IIIB)」での運用を開始する。CAT IIIBでの再開により、着陸時にパイロットが滑走路中心線灯などを視認できる最大距離「RVR(滑走路視距離)」を100メートル以上に緩和する。

 アンテナは8月下旬に設置。8月27日と28日に飛行検査を実施した。問題がなかったため、29日からは新しいアンテナでの運用を開始したが、カテゴリーは着陸時にパイロットが滑走路中心線灯などを視認できるRVRが550メートル以上の「カテゴリーI(CAT I)」に据え置いた。

 9月15日からはRVRが200メートル以上の「カテゴリーIIIA(CAT IIIA)」に切り替える。新しいアンテナの運用評価時間は500時間で、問題がなければ19日からCAT IIIBに戻す。

 広島空港では4月14日、韓国のアシアナ航空(AAR/OZ)が滑走路逸脱事故を起こし、2日後の16日まで滑走路が閉鎖されていた。事故の影響で、1本ある3000メートル級滑走路の西側(RWY10)に設置されているILSが使用できなくなった。

 4月17日に暫定再開したものの、ILSが使用できなくなったため、悪天候時に欠航が生じるなどの影響が出ていた。事故機は4月25日に撤去。気象条件が緩和された。撤去後からILSの仮復旧までは、RVRが1600メートル以上で運用していた。その後、5月5日に仮復旧し、CAT Iで暫定運用していた。

 事故は4月14日午後8時すぎ、アシアナ航空のソウル発広島行きOZ162便(エアバスA320型機、登録番号HL7762)が起こした。乗客73人と乗員8人の計81人は、全員が非常脱出用スライドで機外へ脱出。乗客25人と客室乗務員2人の計27人が軽傷を負った。運輸安全委員会(JTSB)の調査によると、機体は主翼と主脚、エンジン、水平尾翼、胴体後部下側などに損傷が生じた。

 事故機はILSのローカライザー・アンテナに衝突。同機の右エンジンにはアンテナのものとみられるオレンジ色の塗料が付着していた。

 現在の広島空港は1993年、これまでの広島空港(現・広島ヘリポート)から移転して供用を開始。オープン当初はCAT Iで運用していたが、2008年にCAT IIIA、2009年にCAT IIIBに、段階的に引き上げた。広島空港は山間部の高台にあり、霧の発生や急な天候の悪化など、気象条件により運用が左右される。

 アンテナ仮設後の5月6日から、新しいアンテナでの飛行試験直前の8月26日までの間に、広島空港では3255便が離発着した。台風などでの欠航は59便で、このうち14便は、CAT IIIAを導入していれば欠航せずに済んだという。

 国内の空港でCAT IIIBを導入しているのは、広島のほか新千歳、青森、成田、中部(セントレア)、熊本、釧路の7空港。このほか、羽田ではCAT IIIBの評価を実施している。

 ILSは滑走路に進入中の航空機に対し電波を発射し、視界不良の場合でも滑走路に誘導できるシステム。ローカライザーは水平方向を示し、垂直方向はグライドスロープが示す。これらが交わる点を目指すと、航空機は着陸の進入角度である3度を保ったまま着陸できる。

新たに設置したローカライザー・アンテナ(左)と仮設アンテナ(右)=9月14日 PHOTO: Yusuke KOHASE/Aviation Wire

新たに設置したアンテナ=9月14日 PHOTO: Yusuke KOHASE/Aviation Wire

仮設置したアンテナ=9月14日 PHOTO: Yusuke KOHASE/Aviation Wire

ローカライザーは制限区域内に設置=9月14日 PHOTO: Yusuke KOHASE/Aviation Wire

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