ボーイングは、2024年1月に起きた737-9(737 MAX 9)のドアプラグ脱落事故を受け、航空機の製造工程や安全・品質管理の改善を進めている。事故後のボーイングは何をどう変えたのか。ボーイングが進める安全性と品質の強化とは──。米ワシントン州のレントン工場で、737プログラムの責任者を取材した。

ボーイングのレントン工場で最終組立が進む737 MAX=26年9月15日 PHOTO: Yusuke KOHASE/Aviation Wire
—記事の概要—
・737-10「飛行試験順調」
・後工程への作業持ち越し抑制
・生産状況は6つのKPIで監視
・胴体全数検査で欠陥率数十%減
737-10「飛行試験順調」
737 MAXは、737NG(次世代型737)の後継となる小型単通路機で、2011年8月に開発が始まった。標準型は737-800の後継となる737-8(メーカー標準座席数1クラス189席)で、2016年1月に初飛行した。もっとも胴体が短いのが737-700の後継機737-7(737 MAX 7、同172席)で、737 MAX 8の座席数をLCC向けに増やした737-8-200(737 MAX 200、同210席)、737NGで最大サイズだった737-900/-900ERの後継機737-9(737 MAX 9、同220席)、胴体長がもっとも長い737-10(737 MAX 10、同230席)をそろえる。ボーイングによると、今年7月時点で世界100社超から累計7000機超を受注している。
このうち、製造国が機体の安全性を証明する「型式証明」は、今年8月に737-7がFAA(米連邦航空局)から修正型式証明を取得したことで、残りは737-10のみとなった。ボーイング民間航空機部門のバイスプレジデント兼ゼネラルマネージャーで、737プログラムのレントン工場サイトリーダーを務めるケイティ・リングゴールド氏は、「飛行試験は順調」と説明し、年内には取得できる見通しを示した。
737 MAXは200万点を超える部品で構成される。シアトル近郊のレントン工場とエバレット工場の2拠点で最終組立が進み、レントン工場は「西」「中央」「東」の3ラインで月産47機体制を目指している。エバレットでは今年7月に「北(ノース)ライン」1ラインを正式稼働させ、737 MAXの生産ラインを計4本に増やした。ノースラインは、将来のさらなる増産に対応する。

ボーイングのレントン工場で最終組立が進む737 MAX=26年9月15日 PHOTO: Yusuke KOHASE/Aviation Wire
後工程への作業持ち越し抑制

737 MAXの概要を説明するボーイングのリングゴールド氏=26年9月15日 PHOTO: Yusuke KOHASE/Aviation Wire
737プログラムの責任者を務めるリングゴールド氏は、製造工程の改善策として「Move Ready(移動準備)基準」を挙げた。機体を工場内の次の作業位置へ移す前に、その工程で必要な作業の完了状況や安全上のリスクを確認・管理するもので、未完了の作業を後工程へ持ち越す「トラベルワーク」を抑える。例外的に未完了作業を残したまま移動する場合には、安全上のリスク評価と軽減策を必要とする。ボーイングによると、737プログラムでは2024年3月と比べ、機体が最終組立工場からロールアウトする際に残る未完了作業が50%減少したという。
リングゴールド氏によると、工場全体では毎日32機分について、工程を進めるための判断を行っている。AI(人工知能)などのデジタル技術を使ってデータを活用する一方、最終的な判断には安全、品質、技術などの担当者が関与する、と説明した。
生産状況は6つのKPIで監視

737 MAXの安全・品質強化を説明するボーイングのシルバ氏=26年9月15日 PHOTO: Yusuke KOHASE/Aviation Wire
ボーイング民間航空機部門のバイスプレジデントで、規制コンプライアンスと中核品質を担当するヘクター・シルバ氏によると、事故後は製造現場の作業を一時停止し、約7万人の従業員が参加する意見収集を実施。3万件以上のフィードバックを得たという。FAAから90日以内に策定するよう求められた安全・品質改善計画を2024年5月30日(現地時間)に提出。従業員研修への投資、計画や工程の簡素化、欠陥の排除、安全・品質文化の改善という4分野を柱に、製造体制の見直しを進めている。
生産状況の監視には6つの重要業績評価指標(KPI)を使用する。従業員の習熟度、不適合品流出通知(NoE)に伴う手直し工数、ボーイングの製造部門や社外サプライヤーからの部品供給不足に加え、最終組立工程での機体1機当たりの総手直し工数、最終組立工場からのロールアウト時点で残るトラベルワーク、引き渡し前の最終検査で確認される機体1機当たりの品質不適合件数を監視する。指標ごとに是正措置や安全リスク監視の基準を設け、生産状況を継続的に把握する。
シルバ氏は、FAAとともに各指標を監視していると説明。ボーイングでは、生産レートの引き上げを判断する際にも活用しているという。また、737で導入した工程移動時の危険評価や安全リスク評価は、767、777、787の製造工場にも展開したという。
胴体全数検査で欠陥率数十%減
製造現場の作業指示も見直している。シルバ氏によると、1万1000件以上の作業指示書を簡素化したほか、2025年には5000件の取り付け計画書も簡素化した。機体の重要構造やシステムに関する監査、製造図面へのアクセス改善も進めている。部品供給網では、サプライヤーの監督や出荷前の承認を強化。スピリット・エアロシステムズがボーイングに買収される前、同社が米カンザス州ウィチタで製造していた737の胴体について、ボーイングが出荷前に全数検査し、必要な修正を終えるまで出荷できない仕組みを導入した。部品や工具、異物(FOD)の管理方法も改善している。
シルバ氏によると、全数検査による欠陥率は数十%減少。パーツの不具合の割合は確実に下がっており、品質が向上・改善している、と説明した。
このほか、従業員から品質や安全上の懸念を集める仕組みも設けている。シルバ氏によると、「Speak Up」と呼ぶ報告制度では、経営トップまで懸念事項を伝えることができるという。四半期ごとには従業員が作業を中断し、安全・品質について話し合う時間も設けるなど、安全・品質管理への意識改革が進んでいる。
(後編へ続く)

ウィチタから到着した737 MAXの胴体=26年9月15日 PHOTO: Yusuke KOHASE/Aviation Wire

737 MAXの最終組立を進めるボーイングのレントン工場=26年9月16日 PHOTO: Yusuke KOHASE/Aviation Wire
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