ANAホールディングス(ANAHD、9202)傘下の全日本空輸(ANA/NH)が9月29日に示した上級会員向けカード「ANAスーパーフライヤーズカード(SFC)」の再設計では、ANAカードと「ANA Pay」の年間利用額300万円を基準に「SFC PLUS」と「SFC LITE」に分ける基本設計が維持された。4月案で一律利用不可としていたLITEの国内線「ANA LOUNGE(ANAラウンジ)」は、混雑時を除いて利用できるよう改めたものの、スターアライアンスのステータスをLITEでは「ゴールド」から「シルバー」へ下げる方針は変わらなかった。

SFC制度を見直したANA=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
ANAは、6月の株主総会前日に4月案の見直しを表明して以降、年間200万円を基準にした場合なども含めて再検討した。それでもなぜ300万円を残したのか。XなどSNSで利用者の関心や不満として目立ったのは、ANAラウンジを使えるかどうかだけではなく、SFCの大きな価値の一つである「スターアライアンス・ゴールド」を維持できるかという点だった。スタアラゴールドはなぜ外れるのか。そして、今回を制度再設計の「第一歩」とするANAのSFCは、今後使いやすくなるのか、それとも条件がさらに厳しくなるのか。29日の「記者レク」(記者向けの説明会)でANAが示した考え方を整理する。
—記事の概要—
・200万円試算も300万円維持
・なぜ外れた?スタアラゴールド
・LITEは混雑時不可
・「乗る人」と「払う人」のズレ
・カード利用促進は進むか
・“永遠”のステータス
・次は改善か、厳格化か
・退会者は特例再入会、27年度に羽田ラウンジ拡張
200万円試算も300万円維持
新制度は2028年4月1日に始まる。年間利用額300万円以上をSFC PLUS、300万円未満をSFC LITEとし、2028年度の区分は2026年12月16日から2027年12月15日までの利用額で判定する。
ANAは6月の見直し表明後、300万円の基準そのものも再検討した。200万円に下げた場合や、搭乗実績を示すプレミアムポイントとの併用、新規入会条件の変更など、複数の案を改めて検証したという。
それでも300万円を維持した理由について、ANAはラウンジの混雑を緩和しながら、LITE会員にもできるだけ利用機会を残すためだと説明する。基準を200万円に下げればPLUS会員が増え、その分だけラウンジが混雑し、LITE会員に残せる利用枠が減るという考え方だ。
ANAの試算では、300万円を基準にするとPLUSがSFC会員全体の約4割、LITEが約6割になる。LITEに区分される層のうち約35%はANA便の利用がなく、ANAはラウンジを利用するとみられるLITE会員について、SFC会員全体の25%程度との試算も示した。ANAは「使うカード」ではなく、「持つカード」となっている状況と認識しており、これを打破したい、というのが本音のようだった。
なぜ外れた?スタアラゴールド
SFCは、ANAマイレージクラブ(AMC)のプレミアムメンバーのうち、「ダイヤモンド」か「プラチナ」を獲得した会員が申し込めるカード。一定の搭乗実績を積んで上位資格を獲得した後、SFCを保有することで各種サービスを継続して利用できる仕組みとなっており、スタアラゴールドもその大きな価値の一つになっている。
利用者側からみた今回の見直しで、影響が大きいのがスタアラゴールドの扱いだ。SFC LITEはスターアライアンスのステータスがゴールドからシルバーへ下がる。
ANAの説明は、ラウンジ利用との関係を理由にしている。スターアライアンスではゴールド資格と加盟航空会社のラウンジ利用特典が一体となっており、LITEにはラウンジ利用の制限が残る以上、ゴールドのままにはできず、シルバーに変更する必要があるという。
ANAは、スタアラゴールドを外すこと自体が制度改定の目的ではないと説明する。一方で、SFC PLUSとLITEを分ける300万円基準を維持したことで、LITEになる会員はANAの説明でも全体の約6割に上る見込みで、その層はスタアラゴールドを失うことになる。
ANAグループ運航便では、LITEでも優先チェックインや専用保安検査場、優先搭乗、手荷物の優先受け取り、国内線座席指定の優先など、主なサービスは従来通り利用できる。国内線ANAラウンジも混雑時を除いて使えるほか、国際線ではANAが運営する羽田、成田、ホノルルのANAラウンジを利用できる。国内線のANAラウンジ以外では、関西、名古屋、熊本、宮崎の共用ラウンジと、成田空港の「ANA ARRIVAL LOUNGE」も引き続き利用できる。
一方、スターアライアンス加盟他社を利用する場合は話が異なる。シルバーでは、ゴールドで利用できる加盟社ラウンジに加え、優先搭乗や手荷物の優先扱いなど、ゴールドにひも付くサービスの一部を受けられなくなる。ANA便を利用する範囲では多くのサービスが残るものの、他社便も含めてスターアライアンスのネットワークを利用してきた会員にとっては、使い勝手が低下する。
LITEは混雑時不可
4月案から最も大きく変わったのは、SFC LITEのANAラウンジ利用だ。4月時点では一律利用不可としていたが、再設計では、入室後に確実かつスムーズに着席できる状況であれば国内線ANAラウンジを利用できるようにした。混雑時は入室できない。
将来は事前予約制を導入し、あらかじめ利用枠を確保できる仕組みも設ける。制度開始に先立ち、羽田空港第2ターミナルの国内線ラウンジは2027年度早々にも拡張に着手し、年度内の供用開始を予定する。
しかし、どの程度の混雑でLITE会員の入室を止めるのかといった具体的な運用基準は現時点では示されていない。LITEでも「使える」ことにはなったものの、実際の使い勝手がどこまで確保されるかは、今後の運用次第となる。
「乗る人」と「払う人」のズレ
300万円というカード利用額を基準にすることで、別の問題も生じる。出張で頻繁にANA便を利用していても、航空券を会社が購入する場合、本人のANAカード利用額には反映されない。つまり、「乗る人」と「払う人」が一致しない法人需要では、多頻度利用者でも300万円基準を満たしにくいケースがある。この点を聞いてみた。
ANAも、出張客は会社のカードで決済するケースが多いとの指摘について「おっしゃる通り」とし、この問題を「非常に悩ましい」と認めた。その上で、出張の多い利用者は単年度の搭乗実績を積み上げ、プラチナなどのプレミアムメンバーになる傾向が強いとの見方を示した。
一方で、ANA自身も国内線のビジネス需要がコロナ前の水準に戻っていないことを課題としてきた。法人決済では本人のカード利用額を積み上げにくい利用者について、多頻度利用なら搭乗実績でプレミアムメンバーになれると整理する見方は、いささか楽観的にも映る。「乗る人」と「払う人」が一致しない利用者を、新制度でどう位置づけていくかは課題として残る。
カード利用促進は進むか
300万円という水準を維持した直接の理由として、ANAはラウンジ混雑の緩和とLITE会員の利用機会確保を挙げる。一方、SFC制度を見直す背景には、カードを日常的に使ってもらい、会員サービスを持続させるという別の課題もある。
ANAによると、SFC会員の約4割はSFCカードの年間利用額が100万円未満で、約3割は50万円未満。会員数が増える一方、1人当たりのカード利用額は縮小傾向にあり、SFCが「使うカード」から「持つカード」に変わりつつあるという。
ANAは、SFCを日常のメインカードとして使ってもらいたい考えを示している。記者説明会では、カード利用額が増えれば、提携クレジットカード会社とのレベニューシェアを通じ、ANA側の収益増にもつながることを認めた。
SFC PLUSには、新たに5000マイルのボーナスを設ける。PLUS向けの追加サービスも今後検討するという。
利用者側には、300万円という決済額は問題ではなく、ANAカードでの決済に抵抗感を示す人が多い。そうした、他のカードに魅力を感じている人を、どれだけ取り込めるかが課題と言えるだろう。
“永遠”のステータス
SFCをめぐっては、長年の会員との信頼関係も課題になっている。ANAは2002年以降、プラチナ以上の会員にSFC入会を案内する際、「永遠のステータス」といった表現を用いてきたことを認めた。今回の制度変更に対しては、「永遠とはサービス内容も含めて永遠だったのではないか」「なぜ今さら変えるのか」といった厳しい声が寄せられたという。
ANAは、サービス内容自体は状況に応じて変更する可能性があるとしてきた一方、長年「永遠」と案内してきたことで利用者との認識に差が生じたと説明した。
会員年数によって扱いを分けることは、「別の反発を招く可能性がある」として、採用していない。
次は改善か、厳格化か
ANAは今回の再設計について、SFC制度の「完成形ではない」と説明し、今後もANAマイレージクラブと一体で制度を更新するとしている。
しかし、4月に300万円基準を発表して以降、XなどSNSでは、今回は300万円でも将来は500万円などに引き上げられるのではないか、といった懸念もみられた。6月に見直しを表明した後も、制度を再び変更すること自体への不信感が寄せられたとANA側は認めている。
ANAが今回を「第一歩」と位置づける中、利用者は今後サービスが良くなると受け止めてよいのか、それともさらに厳しくなることを警戒すべきなのかとの質問も出た。
ANA側は「戦々恐々としていただく必要はない」と回答。基本的にはサービスを改善し、利用者への還元を強めていく考えを示した。一方で、ラウンジのように物理的な制約があるサービスについては、社会環境や経営環境の変化に応じて今後も見直す可能性があるとした。
つまり、ANAは将来の制度変更そのものを否定してはいないが、現時点では条件をさらに厳しくすることではなく、サービス強化を目指すとの説明だ。300万円という基準が将来も変わらないとの保証を示したわけではない。
退会者は特例再入会、27年度に羽田ラウンジ拡張
今回の再設計に合わせ、ANAは4月23日の制度改定発表を理由にSFCを退会した会員を対象に、特例で再入会申請を受け付けている。対象は4月23日から9月29日までに退会した会員で、申請期限は2027年3月31日。専用のウェブフォームから申請し、再入会には提携クレジットカード会社の審査がある。
羽田空港では2027年度中に国内線ラウンジを拡充する。SFC LITE向けの事前予約制導入に向けたシステム改修も進め、新制度開始に向け、物理的な収容力の拡大と利用者管理の仕組みづくりを進める。
新制度の初年度となる2028年度のPLUSとLITEの区分は、2026年12月16日から2027年12月15日までの利用額で決まる。制度そのものの開始は2028年4月1日となる。
4月案から変わったのは、LITEにもANAラウンジの利用機会を残したことだ。一方、300万円基準と、LITEがスタアラゴールドを失う基本設計は残った。ANAはこれをラウンジ混雑の緩和と制度の持続性を両立するための再設計と説明するが、利用者にとっては、今後この「第一歩」がサービス強化につながるのか、それとも新たな条件変更につながるのかも、引き続き大きな関心事となる。
関連リンク
全日本空輸
SFC改定
・ANA SFC見直し、LITEもラウンジ一部利用可 300万円基準維持(26年9月29日)
・ANA、SFC退会者の特例再入会 27年3月末まで(26年9月29日)
・ANA、羽田国内線ラウンジを27年度拡充(26年9月29日)
・ANA、上級会員「SFC」ラウンジ利用不可も 年300万円で区分(26年4月23日)
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(1)プレミアムクラスが「ファーストクラス」表記に
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(3)SFC改定「300万円の壁」だけでない反発理由
