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体内アルコール濃度基準、CA・整備士らにも拡大 国交省とりまとめ

 国土交通省航空局(JCAB)は4月9日、パイロットや客室乗務員など、航空従事者の飲酒基準をとりまとめた。これまで規定がなかった飲酒量を明文化するとともに、アルコール検査をパイロットのほか、客室乗務員などにも拡大した。アルコールが検出された場合は、業務停止となる。

—記事の概要—
英国と同等の飲酒基準に
飲酒トラブル5年で52件

英国と同等の飲酒基準に

体内アルコール濃度基準を客室乗務員や整備士らにも拡大=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 パイロットと客室乗務員、整備士、運航管理者(ディスパッチャー)が対象となる。パイロットは日本の航空会社のほか、自家用機と海外航空会社にも適用する。体内アルコール濃度を明確化し、血中濃度は1リットル当たり0.2グラム、呼気濃度は同0.09ミリグラムとし、英国をはじめとした各国の基準に合わせた。

 業務前にストロー式のアルコール検知器で検査し、アルコールが検知された場合には業務禁止とする。また、なりすましやすり抜けなど、検査時の不正防止体制も義務化する。パイロットと客室乗務員は、飛行勤務前8時間以内の飲酒を禁止するとともに、乗務後のアルコール検査を義務化する。

 検査に使用するアルコール検知器は、吹きかけ式とストロー式の2種類があるが、今回の基準では、より精度の高いストロー式を使用する。吹きかけ式検知器は呼気に含まれるアルコールの有無を判別でき、ストロー式はアルコール量を数値化して表示できる。

 JCABは頻発した飲酒トラブルを受け、2018年11月20日に「航空従事者の飲酒基準に関する検討会」を設置。今年1月31日に、パイロットを中心とした飲酒基準を制定した。その後、客室乗務員と整備士らを対象とした飲酒基準も検討を進めていた。

飲酒トラブル5年で52件

 JCABによると、2013年1月から今年3月26日までの5年3カ月間で、飲酒が影響したトラブルは計52件発生したという。最も多いのが22件発生した日本航空(JAL/JL、9201)で、特に2017年以降は、ジェイエア(JAR/XM)と日本エアコミューター(JAC/JC)を含めたJALグループで28件発生している。JALグループでは2016年以降、国内空港を中心に精密なアルコール検知器を導入。JCABは、導入より発生件数が大幅に増加したとみている。

 JALは2016年6月28日に、小松午前7時35分発の羽田行きJL182便が副操縦士(当時、42)の逮捕により欠航となった。元副操縦士は前日の27日に乗務を終え、金沢市内のホテルに宿泊。同じスケジュールの機長とともに市内の飲食店で飲酒後、ホテル前で機長を暴行したことで逮捕された。

 このほか2018年10月28日には、男性副操縦士(当時)からロンドン・ヒースロー空港で乗務前に基準を超えるアルコール値が検出され、英国で身柄を拘束された。この副操縦士は英国で禁錮10カ月の判決が言い渡され、懲戒解雇処分となった。

 JALでは客室乗務員(当時)による乗務中の飲酒が発覚するなど、トラブルがたびたび発生している。

 飲酒トラブルは全日本空輸(ANA/NH)グループでも発生。2018年10月25日にANAウイングス(AKX/EH)で発生したトラブルは、同社の40代男性機長が飲酒により体調不良となり、乗務予定だった5便が遅延。エアージャパン(AJX/NQ)では、40代男性副操縦士から乗務前にアルコール反応が検出され、乗務予定だった今年3月15日の羽田発香港行きNH821便が9分遅延して出発した。

航空会社別の飲酒トラブル発生件数(JCABの資料からAviation Wire作成)

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