ボーイング「797」が、再び注目を集めている。トランプ米大統領の中国訪問に、同社のケリー・オルトバーグ会長兼CEO(最高経営責任者)が同行し、FAA(米連邦航空局)も737 MAXの月産引き上げを認めるなど、ボーイングは危機対応から、次の成長を見据える段階へ移りつつある。7月にはロンドン近郊でファンボロー航空ショーが開かれる。

17年のパリ航空ショーでボーイングが示した機体ラインナップ。横軸が年、縦軸が座席数を示しており、2025年の250席クラスの位置にメディアが「797」と呼ぶ機体が描かれていた=17年6月 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
1957年に初飛行した707以降、ボーイングのジェット旅客機は代々「7×7」を名乗っており、787に続く機番として、次の機体は「797」になるのではないかと見られてきた。797は正式な機種名ではなく、小型機737 MAXと中型機787の間に位置する市場「MOM(ミドル・オブ・ザ・マーケット)」をターゲットにした新中型機「NMA(New Midsize Airplane)」の通称だ。
当紙では、2016年から797やNMA、MOMと当時呼ばれていた名称で、この機体の進捗を継続的に扱ってきた。この記事では便宜上、コロナ前にNMAと呼ばれていた構想に基づく次世代機を797と呼ぶ。
—記事の概要—
・737と787の隙間
・A321が取り込む更新需要
・航空ショーで動きあるか
737と787の隙間
コロナ前の計画では、797の機体サイズは通路が2本ある中型機767と同程度。主なターゲットは、北米の航空会社が多数運航している単通路の中型機757だった。2019年のパリ航空ショーでボーイングのケビン・マカリスター民間航空機部門社長兼CEO(最高経営責任者、肩書きは当時)は「双通路機の快適性と、単通路機の経済性を併せ持つだろう」と表現していた。

開発が進む737-10。26年内の型式証明取得を目指す=22年7月 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
797は、737 MAXファミリーで胴体長がもっとも長い737-10(737 MAX 10、最大1クラス230席、2クラス204席)より座席数が多く、787ほど運航コストがかからないものだった。2019年時点では220席から270席程度を想定しており、757よりも座席数が20%多く、航続距離は25%長い機体を念頭に置いていた。
737 MAXと787の間に位置するボーイング機と言えば、日本では1981年に初飛行した767がなじみ深い。日本の重工各社が「YX(次期民間輸送機)」として開発と製造に参画した中型機で、米国のほか日本とイタリアが約15%ずつ製造を分担している。

デルタ航空の757。米系が重用する一方、日系の採用はなかった=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

仙台空港に駐機中のANAの767(右)と出発するJALの767。国際線や国内幹線、地方路線と幅広く使われている=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
ボーイングは2024年10月に、民間向け767で最後まで残っていた中型貨物機767-300Fの製造を2027年で終えると発表した。767は旅客機としての後継需要を787に引き継いだが、貨物機の767-300Fも終息へ向かう。このため、737 MAXで最大の737-10と、787でもっとも小さい787-8(最大1クラス381席、2クラス242席)の間には隙間が残る。
もっとも、メーカー標準の座席数だけでは差が小さく見える。2025年12月に来日したボーイング民間航空機部門マーケティング担当バイスプレジデント(副社長)のダレン・ハルスト氏は「737-10と787-8では100席くらい差があり、航続距離も異なる」と指摘している。これまではこのレンジに210-290席クラスの767があり、単通路機のニーズには200-250席クラスの757が応えていたが、日本では短時間で折り返すターンアラウンドや顧客満足度の面で、双通路機を重視する見方が強かった。
A321が取り込む更新需要
ボーイングで757にもっとも近い存在が、2017年6月のパリ航空ショーでローンチした737-10だ。しかし、2020年に就航する予定だったものの、墜落事故や品質問題の影響で開発が遅れ、今年後半の型式証明取得を目指している。

JALが国内線に投入するA321neoのイメージ(同社提供)

パリ航空ショーで飛行展示を披露するA321XLRの飛行試験機=23年6月 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
一方、エアバスで同程度の座席数となるA321neo(最大1クラス244席、2クラス180-220席)は、757の置き換え需要を取り込んでいる。2018年1月に初飛行したA321LRは、航続距離をA321neoの3500海里(約6500キロ)から約15%延ばし、4000海里(約7400キロ)を実現した。
2022年6月には、単通路機では世界最長となる航続距離4700海里(約8704キロ)のA321XLRが初飛行している。航続距離を延ばしたA321XLRは、単通路機ながら大西洋横断や長距離薄需要路線を担える機体になった。エアバスによると、A321XLRは東京を起点とした場合、シドニーやデリーなどへ直行便を運航できるという。
そして、日本航空(JAL/JL、9201)は767-300ERの国内線仕様機(3クラス252席、2クラス261席)の後継機として、A321neoを選定。2028年から導入を始める。250席級で運航コストを抑えられる中型双通路機という選択肢がない中、人口減少など国内線全体の市場規模が縮小することも踏まえ、機材を小型化して路線網の維持を図る。A321neoは757だけでなく、路線によっては767の置き換え需要も担うようになってきている。
航空ショーで動きあるか
ボーイングは2024年に、最大労組IAM(国際機械技術者協会)との労使合意で、次世代機をシアトル近郊のワシントン州ピュージェット・サウンド地域で製造する方針を盛り込んだ。具体的な機種には触れていないが、ボーイングが新型機を視野に入れていることを示す動きと言える。当時は737 MAXの増産にも慎重な見方が残っていたが、その後はFAAが月産引き上げを認めるなど、足元の環境は変わりつつある。

787-10試験機のコックピット。797はパイロットのライセンス共通化も課題になるだろう=17年6月 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

737-10飛行試験機のコックピット=23年6月 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
しかし、ボーイング側は新型機の時期について慎重な姿勢を示している。前出のハルスト氏は2025年12月に来日した際、737-7や737-10、777Xの型式証明取得に注力していると説明。次世代機の開発は「現時点で時期尚早」との見方を示した。逆説的に見ると、これらの課題が解決すれば、ボーイングが次に取りかかるべきテーマの一つが797だろう。
一方で、737 MAXは既存機の発展型であり、抜本的な新型機ではない。ボーイングは本来、新型エンジンの開発と歩調を合わせて新しい単通路機を検討していたが、A320neoファミリーのヒットに対抗するため、737 MAXで応じることになった。2度の墜落事故や787の品質問題、777Xの開発遅延も重なり、この数年は既存プログラムの正常化を優先せざるを得なかった。
797と呼ばれたNMAが、コロナ前の構想そのままに復活するとは限らない。だが、737 MAXと787の間をどう埋めるのか、A321neoファミリーに奪われつつある市場をどう取り戻すのかは、ボーイングにとって避けられない課題だ。7月のファンボロー航空ショーで、次の一手をどのように示すのかが注目される。
関連リンク
Boeing [1]
ボーイング・ジャパン [2]
JALの767国内線仕様後継はA321neo
・JAL、A321neo初導入 赤坂社長「人口減少は止めようがない」特集・767国内線後継をなぜ小型化するのか [3](24年3月21日)
797
・日本は冷ややか?「797」ことNMAはどうなるのか 特集・737MAXと787隙間埋める次世代機の未来 [4](24年9月13日)
・777X、26年後半に型式証明取得へ 新型機NMAは「時期尚早」=ボーイング幹部 [5](25年12月11日)
・737-10の型式証明、24年にずれ込み NMA開発「進捗なし」777Xは25年中ごろ [6](23年12月6日)
・777X、20年初の初飛行「エンジン開発が決め手」 NMAは220-270席級に [7](19年10月9日)
・“797”就航時期、2025年で変わらず マレンバーグ会長 [8](18年7月16日)
・ボーイング幹部、”797″の市場規模4000機 「アジアが潜在需要No.1」 [9](17年10月12日)
・「797」ってどんな機体? 特集・検討進む757後継機 [10](17年9月16日)
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・ボーイング、757後継機に慎重「より大型求められている」 [12](16年10月11日)
最大労組と暫定合意
・ボーイング、次世代機はシアトル製造 最大労組と合意 [13](24年9月9日)