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パイロットの体内アルコール濃度、英国と同基準に 国交省が中間報告

 2018年、航空各社ではアルコールに関するトラブルが相次いだ。そして年明けの1月3日、ANAホールディングス(ANAHD、9202)傘下のANAウイングス(AKX/EH)で、全日本空輸(ANA/NH)から出向中の40代男性機長から乗務前のアルコール検査で基準値を超える反応が出た。これにより、機長が乗務予定だった3便を含む国内線5便に最大1時間44分の遅れが生じ、乗客677人に影響が出た。

—記事の概要—
飲酒時刻と量は規定内
英国と同基準に

飲酒時刻と量は規定内

パイロットの体内アルコール濃度は英国と同基準に=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 ANAウイングスの機長は会社の聞き取り調査に対し、社内規定時間前に飲酒を終えており、飲酒量も上限以内だったと応じている。乗務開始12時間前にあたる2日午後7時まで、同乗予定だった副操縦士と缶ハイボール(350ミリリットル)を2本飲んだ。飲酒量はANAが定めるアルコール摂取量の上限「2単位」以内で、1単位はアルコール20グラムにあたり、2単位はビール1リットルに相当し、8時間程度で分解できる量と定義している。

 3日はアルコール検査機を用いて乗務前検査を実施したところ、機長からアルコール反応が出た。ANAによると、呼気1リットル当たり0.05ミリグラム以上のアルコールを検出すると反応するが、数値は表示されないという。別の検査機を使うなどの再検査でもアルコール反応が出続けたことから、機長交代が決まった。一方、一緒に飲んだ副操縦士からはアルコールは検出されなかった。

 監督する国土交通省航空局(JCAB)は昨年12月21日に、パイロットの飲酒問題が相次いだことを受け、日本航空(JAL/JL、9201)に対し事業改善命令、ANAとANAウイングス、スカイマーク(SKY/BC)、日本エアコミューター(JAC/JC)の4社を厳重注意とした。いずれも今月18日までに、再発防止策を報告させる。

英国と同基準に

 こうした中、JCABは12月25日に「航空従事者の飲酒基準に関する検討会」の中間取りまとめを公表。運航に影響を及ぼすパイロットの体内アルコール濃度を明確化し、血中濃度は1リットル当たり0.2グラム、呼気濃度は同0.09ミリグラムとした。これらを下回る値でも、運航に影響を及ぼすおそれがある場合は乗務を中止するとしている。自動車の場合は、血中濃度が同0.3グラム、呼気濃度は同0.15ミリグラムと定めている。

 国内の航空会社などに対しては、パイロットのアルコール検査を義務化。検査で不正が行えないよう、ストロー式でアルコール濃度を数値で表示できる検査機を使い、運航部門以外の社員が立ち会うことを義務化し、検査日時や氏名、結果などの記録を保存させる。また、業務前8時間以内の飲酒は禁止し、経営者を含む全社員への定期的なアルコール教育を義務化し、飲酒関連のトラブルもJCABへの報告を義務化する。

 JCABによると、血中アルコール濃度と自動車の運転技術の関係は、1リットル当たり0.2グラムで反応が遅れ、0.3グラムでハンドル操作がうまくできなくなり、0.4グラムでは一点を見ることができなくなるという。ビール500ミリリットルと、チューハイ350ミリリットルではアルコールの重さは同じ20グラムで、血中濃度は0.4グラム、呼気濃度は0.2ミリグラムとなり、アルコールが体内から消える推奨時間は5時間だという。

 JALの副操縦士(当時)が昨年逮捕された英国の基準は、血中が0.2グラム、呼気は0.09ミリグラムで、米国は血中が0.4グラム、呼気が0.19ミリグラムと、今回JCABが公表した中間取りまとめは、英国の値と同じものになった。また、飲酒を禁止する期間は、多くの国で業務開始8時間前に定めているという。

 一方、航空会社では競争激化やパイロット不足とともに、パイロットの1カ月あたりの乗務時間が延びるなど、精神的、肉体的な負荷が掛かりやすくなってきている。不規則勤務であることから、飲酒で睡眠につなげる人もおり、パイロット自身や会社側の健康管理、個人差のあるアルコール分解時間、検査には引っかからない飲料や薬などによる身体への影響なども、総合的に判断していく必要が従来以上にあると言えそうだ。

関連リンク
国土交通省 [1]
運航乗務員の飲酒による法令違反に関する調査経過と再発防止策について [2](JAL)
飲酒に関する航空法等の遵守の徹底について(報告) [3](ANA)

国交省の対応
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