国土交通省航空局(JCAB)は9月10日、日本航空(JAL/JL、9201)に対し、行政指導にあたる「厳重注意」を行った。現地時間8月28日のホノルル発中部行きJL793便(ボーイング787-9型機、登録記号JA874J)に乗務予定の男性機長(64、懲戒解雇予定)が社内規程に違反する飲酒をしたことで乗務交代が生じ、ホノルル発3便が最大18時間遅れ、約630人に影響が出た問題によるもので、30日までに再発防止策を文書で提出するよう同社に求めた。

国交省での会見で陳謝する(左から)JALの中川常務、鳥取社長、野田常務=25年9月10日 PHOTO: Yusuke KOHASE/Aviation Wire
—記事の概要—
・「飲酒監督不十分」と「安全意識の不徹底」を指摘
・飲酒リスク選定に肝機能数値
・経営陣と運航本部に「距離」
・自主検査60回もゼロにならず
「飲酒監督不十分」と「安全意識の不徹底」を指摘

国交省での会見で飲酒問題を説明するJALの鳥取社長=25年9月10日 PHOTO: Yusuke KOHASE/Aviation Wire
行政指導を受け、国交省で会見したJALの鳥取三津子社長は「再発防止を即時対応する」と、安全問題の責任を負う「安全統括管理者」の中川由起夫常務、野田靖・常務執行役員総務本部長とともに陳謝。行政指導では「飲酒傾向の管理監督の不十分」と「社員への安全意識の不徹底」の2点を指摘されたと説明した。
飲酒傾向の管理については、監督の仕組み見直し、新たに肝機能の数値を飲酒リスク選定の基準として導入。飲酒リスクの高い乗務員は乗務不可とし、滞在先でのアルコール検査時は画像を提出させる。安全意識の徹底は、1人ひとりの理解度が異なり「画一的な取り組みが適切ではなかった」(鳥取社長)なことから、外部の知見を取り入れ意識改革を進めていく。
当該機長の飲酒は、航空法第104条に基づいて国交省の認可を受けたJALの運航規程に定められている、飲酒に関する規定に違反していた。
飲酒リスク選定に肝機能数値
飲酒リスクの高い乗務員の選定基準を見直し、過去の飲酒事案や勤怠などに加え、肝機能を示す数値「γ-GTP(ガンマ-GTP)」も判断材料とする。また、過去に飲酒トラブルがあった乗務員については、健康データをより厳しく参照。これまでは3段階に分類していた選定基準のうち、最もリスクの高いいちばん上をさらに厳密に分類し、新たな選定基準では4段階となった。新分類の適用後は健康データを重視し、一程度の基準超えた人物は乗務できないようにした。
新たな分類を適用した結果、最もリスクの高い「要注意リスト」扱いのパイロットは、4人いることが判明。現在はいずれも運航から外れ自宅待機となっている。鳥取社長は運航を外れた4人について「乗務できなくなったので放置するわけではない。数値下がるように伴走していく」としつつ、「数値がメインだが、下がったら乗務できる、という短絡的なものではない」との認識を示した。「安統管」の中川常務によると、乗務を外れた4人は過去にアルコール事案が「把握している上では」なかったという。
鳥取社長は新たな選定基準の導入について「従来の分類は、過去事例に重きを置いたもので、肝機能の数値がおきざりになっていた」と述べ、新たな選定基準では肝機能の専門医を活用し選定していくとした。中川常務は「過去にアルコール不具合起こしたことは重要なファクター。過去に起こした人はより厳しく健康データを参照する」と説明した。
今回のホノルルでの飲酒事案を起こした機長は、従来の選定基準ではリスクの「低い」乗務員と見なされていたが、肝機能の数値を採用した新基準では「高い」人物に分類されるという。また、運航を外れた4人に次ぐ高リスクの乗務員は「数十人」(中川常務)いるという。
当該機長は航空局の聞き取り調査を済ませた後、数日以内に懲戒解雇となる見通し。
経営陣と運航本部に「距離」
JALは2018年と2019年に、飲酒問題を受けた再発防止策を策定。2024年は安全上のトラブルが相次いだことから、安全に対する意識の再徹底などの対策も講じている。また同年12月には飲酒問題を再び発生させ、今年1月にJCABから行政指導にあたる「業務改善勧告」を受けたばかりだった。
頻発する飲酒問題については、経営陣と運航本部との間に「距離」があることも一因だとする意見も聞かれる。鳥取社長は運航本部を「専門色の強い職業」とした上で、「(経営陣が)入っていって意見するのは難しい分野。コミュニケーションをうまく取っていかなかった」と述べた。また、私見とした上で「運航本部と経営陣の間に距離があるのだろうと思っている。運航本部との距離を近づけるなど、経営陣も努力しなければならない」との認識を示した。

国交省での会見に臨む(左から)JALの中川常務、鳥取社長、野田常務=25年9月10日 PHOTO: Yusuke KOHASE/Aviation Wire
自主検査60回もゼロにならず
問題が発生したのは現地時間8月28日。ホノルルを定刻午後2時20分に出発予定の中部行きJL793便に乗務予定だった当該機長が、前日27日の昼ごろ、ステイ先のホテルでアルコール度数9.5%のビール(1本568ミリリットル入り)を3本飲んだ。翌朝には体内にアルコールが残り、ゼロになることを確認するため、出発予定時刻までの間に自主検査を約60回も繰り返していた。このうち、約10回分の検査日を改ざんしていた。
当該機長が乗務予定だった28日の中部行きJL793便は、後続のホノルル28日午後4時35分発羽田行きJL71便(787-9、JA876J)のパイロットと交代して出発。JL793便は定刻より2時間8分遅れの28日午後4時28分に、乗客239人(幼児2人含む)と乗員12人(パイロット2人、客室乗務員10人)を乗せてホノルルを出発した。
一方、28日の羽田行きJL71便は、代わりのパイロットを日本から手配する必要があり、18時間41分遅れ、29日の羽田行きJL71便(787-9、JA875J)も、パイロット手配の影響が残り、18時間21分遅れの出発になった。
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国交省航空局安全部の石井靖男部長は、「当該機長は会社に対し断酒すると申告をしていたにもかかわらず、乗務前日に過度に飲酒し、個人的な悪質性があったと認められる」とした。また、JALのパイロットに対する管理監督については一定程度が認められるとしつつ、「管理監督が十分であったとは言えない」との認識を示した。
国による処分は、もっとも軽い「口頭指導」から「厳重注意」「業務改善勧告」までが行政指導。業務改善勧告より重いものは行政処分の「事業改善命令」で、「事業の全部または一部の停止命令(事業停止)」が続き、もっとも重い処分は「事業許可の取り消し」になる。
関連リンク
日本航空 [1]
8月のホノルル飲酒問題
・JAL、飲酒機長解雇へ ホノルルで自主検査60回もゼロにならず [2](25年9月5日)
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