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初の重整備迎えた空飛ぶウミガメ 特集・ANA A380就航2周年

 空飛ぶウミガメ「FLYING HONU(フライング・ホヌ)」と名付けられた全日本空輸(ANA/NH)のエアバスA380型機が就航して、5月24日で2周年を迎えた。と言っても新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響により、定期便への投入は2020年3月25日に成田へ到着したホノルル発NH181便(登録記号JA381A)を最後に中断したままで、8月22日からスタートした遊覧飛行が数少ないフライトになっている。

初の重整備を終えて成田空港へ着陸するANAのA380初号機=21年3月27日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 ANAを傘下に持つANAホールディングス(ANAHD、9202)は、A380の新造機を成田-ホノルル線の専用機材として3機発注。2機を受領済みで、全機にハワイの空と海、夕陽をイメージした特別塗装を施した。初号機のJA381Aが青(ANAブルー)、2号機(JA382A)が深緑(エメラルドグリーン)、3号機(JA383A)がオレンジ(サンセットオレンジ)と1機ごとに色が異なるだけでなく、機首の表情も正面を見る初号機、ほほ笑む2号機、まつげを描いた3号機と、同じデザインが存在しない機体だ。

 昨年の5月24日にも、「ANA、空飛ぶウミガメA380就航から1年 3機揃うのは秋? [1]」と題した記事を掲載し、FLYING HONUの1年間を振り返った。今年はA380の製造が終了し、最後の機体はエミレーツ航空(UAE/EK)へ引き渡される節目の年。ANAのA380は定期便への投入再開が難しい状況が続いているが、直近1年間を振り返ってみよう。

—記事の概要—
日本の4発機5年ぶり
今も人気の遊覧飛行
初の重整備

日本の4発機5年ぶり

 A380の座席数は4クラス520席で、アッパーデッキ(2階席)にファーストクラス8席(1-2-1席配列)と、全席通路アクセス可能なフルフラットシートのビジネスクラスを56席(1-2-1席)、プレミアムエコノミーを73席(2-3-2席)を配した。メインデッキ(1階席)はすべてエコノミーで383席(3-4-3席)、後方6列60席は日本初のカウチシート「ANA COUCHii(ANAカウチ)」とし、家族旅行などの需要を狙った。1階後方のカウチシート近くに多目的ルームを設けることで、おむつ交換や授乳といったニーズにも対応している。

トゥールーズでA380を受領するANAホールディングスの片野坂社長(中央)=19年3月20日 PHOTO: Yuriko NAKAO/Aviation Wire

成田空港へ着陸するANAのA380初号機=19年3月21日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

成田空港に到着したANAのA380初号機=19年3月21日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 初号機のJA381Aは、2018年12月13日に独ハンブルクにあるエアバスの塗装工場をロールアウト。16色の塗料が使われ、120人の作業者が21日掛かりで複雑なデザインの塗装を仕上げた。年明けの2019年1月には、ANAのさまざまな部署の社員がハンブルク工場で機体の最終確認作業を行い、3月20日に仏トゥールーズで引き渡された。成田には21日に到着し、放水アーチによる歓迎を受け、4月からの慣熟飛行を経て就航日の5月24日を迎えた。

成田空港を出発するANAのA380初便となるホノルル行きNH184便=19年5月24日 PHOTO: Yusuke KOHASE/Aviation Wire

成田空港を離陸するANAのA380初便となるホノルル行きNH184便=19年5月24日 PHOTO: Yusuke KOHASE/Aviation Wire

ダニエル・K・イノウエ空港を離陸するANAのA380ホノルル発初便成田行きNH183便=19年5月24日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 初便のホノルル行きNH184便は乗客512人(幼児13人含む)と乗員24人(パイロット2人、客室乗務員22人)を乗せ、午後8時10分に成田空港の45番スポット(駐機場)を出発。午後8時38分にA滑走路から静かに離陸した。エンジンが4基ある旅客機による定期便を日本の航空会社が運航するのは、2014年3月31日にANAのボーイング747-400D型機が退役して以来5年1カ月ぶりで、初めての夏休みもファーストやビジネスクラスの予約が困難になるなど、人気を集めた。

 2号機は2019年5月15日に引き渡され、仏トゥールーズから成田空港へ同月18日に到着し、1カ月後の6月18日に就航した。そして現地時間7月2日(日本時間3日)には、ハワイのダニエル・K・イノウエ国際空港(旧称ホノルル国際空港)に2機が初めてそろった。この時点では、週14往復ある成田-ホノルル線のうち、10往復がA380運航になっていた。

初号機を投入するNH182便よりも成田を早く出発するNH184便に投入したA380の2号機(手前)=19年7月2日 PHOTO: Tatsuyuki TAYAMA/Aviation Wire

ホノルルのダニエル・K・イノウエ空港を出発するANAのA380 2号機NH183便(上)とC9スポットで出発を待つA380初号機=19年7月2日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

今も人気の遊覧飛行

 新型コロナの感染拡大に伴い、ANAのA380は2020年3月から定期便の運航がなくなったが、初号機と2号機ともに3月25日が最終日だった。

横断幕を手にする井上慎一専務らに見送られて成田空港を出発するANAのA380チャーターフライト=20年8月22日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

成田空港を離陸するANAのA380チャーターフライトNH2030便=20年8月22日 PHOTO: Kiyoshi OTA/Aviation Wire

 そして3カ月が過ぎた6月22日に2号機が、翌23日に初号機が、乗客を乗せずに成田空港を1周して戻る整備のためのフライトを行った。航空機は飛行しない期間が90日を超えた場合、機体をジャッキアップして主脚などを整備するなど、通常よりも整備作業の項目が増えて費用がかさむ。このため、90日以内に乗客を乗せずにフライトすることがあり、2機もこの理由で3カ月ぶりのフライトとなった。

 航空ファンからは、乗客を乗せずに飛ぶなら乗せて欲しいという声が挙がり、社内でも新たな収益源として遊覧飛行が検討され、8月22日に成田発着で第1回目のフライトが行われた。この時の倍率は約150倍で、その後は機内食付きのフライトや、今年の元日の初日の出フライト、関西空港と中部空港での遊覧飛行とバリエーションが増え、フライトはせずに機内食をテーマにしたイベント「レストランFLYING HONU」も成田で開かれている。

 成田発着の遊覧飛行は、依然として人気が高い。3月31日にボーイング777-300ER型機の機内をレストランにするイベント「翼のレストランHANEDA」が初めて開かれた際、参加した人に動機を尋ねると、「ホヌに乗れないからダメ元で応募してみた」といった感想が多く聞かれ、ホヌの人気ぶりは健在だった。同じく関空で初開催された遊覧飛行に参加した男性も、成田は抽選に外れてばかりなので地元開催を狙ったと話していた。

A380初号機のファーストクラス=19年4月23日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 そして、7月31日に開催される成田発着の遊覧飛行は、これまでとは違った形で参加者を募った。ファーストなどアッパーデッキの上級クラスは、セブン&アイグループで電子マネー「nanaco」を手掛けるセブン・カードサービス(千代田区)が、抽選で当たるキャンペーンを5月15日から6月15日まで展開中。そしてメインデッキにあるエコノミークラスは、同グループのセブンカルチャーネットワーク(千代田区)が5月20日に全席を先着順で販売した。

 エコノミーは383席あるが、カウチシート扱いをせずに全席を販売した場合、もっとも安い通路側席の3万8000円で計算しても、満席になれば1455万4000円の売上になる。4月に行われた関空での遊覧飛行は、参加者が230人(幼児3人含む)で座席数の半分程度を募集していたが、各クラスの平均料金で計算すると1300万円程度の売上は見込めるので、このくらいが1回のフライトでクリアすべき金額なのだろう。

初の重整備

 遊覧飛行以外でこの1年間を振り返ると、今年3月に初の重整備(Cチェック)を迎えた。自動車の車検に例えられるもので、機体の配管や配線、エンジンなどの内部構造点検など機内外の多岐にわたり、おおむね1年半から2年ごとに行われる。

成田空港を離陸しアモイへ向かうANAのA380 2号機=21年3月30日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 ANAのA380は、初号機が最初に重整備を受けることになり、3月4日夜に成田を離れ、中国・アモイで整備を終えて同月27日早朝に戻った。2号機は3月30日深夜に出発し、同じくアモイで重整備後、4月28日早朝に成田へ帰着した。初号機は成田へ到着して2日後の3月29日の、2号機は帰国翌日となる4月29日の成田遊覧飛行で復帰している。

 そして残るのは、サンセットオレンジの3号機。2020年1月24日にハンブルクでロールアウトし、予定では同年4月に受領し、6月に就航して週14往復(1日2往復)の成田-ホノルル線全便がA380による運航になるはずだった。

 コロナの影響で受領は10月まで半年ほど延期されたが、エアバスの納入歴では10月30日に引き渡されている。契約に基づく支払いは生じているものの、ANAHDはさらに1年程度延期し、今年10月ごろに受領する計画だが、コロナの感染状況によっては新たな対応も必要になりそうだ。

 定期便投入を再開できないまま、就航1周年、2周年と2年連続で記念すべき日を迎えた空飛ぶウミガメ。就航3周年の来年こそは、ハワイの海に2機が並ぶ光景が戻ってほしいものだ。

ハンブルクでロールアウトするANAのA380 3号機=20年1月24日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

関連リンク
全日本空輸 [2]

写真特集・ANA A380 FLYING HONUの機内
(1)個室ファーストクラスでプライバシー確保 [3](19年5月21日)
(2)ペアシートもあるビジネスクラス [4](19年5月22日)
(3)2階後方にゆったりプレエコ [5](19年5月23日)
(4)カウチシートもあるエコノミー [6](19年5月24日)

初の重整備
ANAのA380、ほほ笑みの2号機も成田帰着 初の重整備終えアモイから [7](21年4月28日)
ANAのA380、2号機も重整備でアモイへ 深夜の成田から [8](21年3月31日)
ANAのA380、初の重整備終え成田帰着 [9](21年3月27日)
ANAのA380初号機、初の重整備でアモイへ [10](21年3月4日)

2019年5月24日就航
ANA、空飛ぶウミガメA380就航から1年 3機揃うのは秋? [1](20年5月24日)
ANA、A380就航 空飛ぶウミガメ、成田からハワイへ [11](19年5月24日)
ANAのA380、ホノルルからも初便出発 [12](19年5月25日)

遊覧飛行
ANA、関空初のA380遊覧飛行 機内照明はハワイの虹イメージ [13](21年4月17日)
ANA空飛ぶウミガメA380、成田発着で遊覧飛行 抽選150倍、2機並びも [14](20年8月22日)

整備フライト
ANA、A380初号機も3カ月ぶりフライト 40分で成田へ戻る [15](20年6月23日)
ANAのA380、3カ月ぶり飛行 26分で成田1周、運航再開は未定 [16](20年6月22日)

ホノルル空撮 初号機と2号機の2機並び
【空撮】空飛ぶウミガメ、ホノルルに2機揃い踏み ANAのA380、週10往復に [17](19年7月3日)

3号機
ANA、A380の3号機受領へ 10月内納入も日本飛来は未定 [18](20年10月22日)
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2号機
ANAのA380、2号機も就航 7月から週10往復に [20](19年6月19日)
ANA、空飛ぶウミガメ2号機成田到着 深緑のA380、6月に就航前倒し [21](19年5月18日)

成田へ初号機到着
ANA、A380「フライング・ホヌ」成田到着 片野坂社長「乗った瞬間ハワイ感じられる」 [22](19年3月21日)
ANAのA380、トゥールーズ離陸 成田へ [23](19年3月21日)
ANA、A380初受領 総2階建て、5月から成田-ホノルル線 [24](19年3月21日)

4K動画(YouTube Aviation Wireチャンネル [25]
【4K】ANA A380 成田離陸 Early Christmas Flight [26]