日本航空(JAL/JL、9201)が100%出資する中長距離LCC、ZIPAIR(ジップエア、TZP/ZG)を運航するZIPAIR Tokyo(千葉・成田市)の初代社長を務めてきた西田真吾氏が3月31日付で退任し、創業前から事業立案に携わってきた取締役事業本部長の深田康裕氏が新社長に昇格した。西田氏は4月1日付でJALの執行役員として戻り、マイレージ・ライフスタイル事業本部長に就任。ZIPAIR社長就任前の“古巣”であるマイル関連事業を率いる。

ZIPAIR初代社長を務めた西田真吾氏=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
ZIPAIRの出発点には、2018年7月31日に準備会社「ティー・ビー・エル(T.B.L.)」の設立を発表した際、JALの赤坂祐二会長(当時社長)が西田氏を「JALっぽくない人材をトップにしたかった」と、送り出した経緯がある。この時に西田氏が掲げたのは「ぶっとんだLCC」。客室乗務員やグランドスタッフ(地上旅客係員)が履くのはパンプスではなくスニーカー、食べ物の機内持ち込みは自由、フルフラットを手頃な価格で提供など、乗客の納得感とLCCとしての合理性を優先した。JALの整備や部品、調達といったアセット(資産)は使う一方、本体が細かく介入しない体制も追い風になった。
その結果、ZIPAIRは8機のボーイング787-8型機で1日平均16時間前後の高稼働を続け、予備機を置かずに運航率や定時性を維持してきた。往復24時間超のフライトとなる成田-ヒューストン線や、フロリダ州オーランドへのチャーターを成功させ、長胴型787-9導入でフルフラット席「ZIP Full-Flat(ジップ・フルフラット)」の拡充も計画する。また、米スペースXの衛星通信「Starlink(スターリンク)」による機内インターネット接続サービスも今年2月26日から始まり、今春には全8機へ導入が完了する。
一方で、初便就航はコロナ真っただ中の2020年6月3日で、787-8による貨物専用便でのスタート。西田氏に、この6年を振り返ってもらった。
—記事の概要—
・JAL赤坂氏「新しいLCCに口出すな」
・フルフラット「本当に使ってくれるのか」
・時代に応じてやることは変わっていく
JAL赤坂氏「新しいLCCに口出すな」
── 社長就任からここまでを振り返ると、どんな6年でしたか。
中距離LCCは、欧州でもできては潰れの繰り返しでした。難しい事業に取り組む覚悟が最初にありましたし、2010年のJAL破綻も経験していますから、この会社は絶対に潰さない、たくましく生きていくんだ、という思いが原点にありました。

JAL系中長距離LCCの社名「ZIPAIR Tokyo」を発表する西田社長(当時)=19年3月8日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
その後、コロナで本当にえらいことになりましたが、自分たちで何とかするしかない、という気持ちでした。貨物専用便で客室乗務員の訓練を実機でやるなど、その場でできる工夫を重ねてきました。今、月間のロードファクター(座席利用率)が97%になることもありますが、それを当たり前と思わない仲間が多いのは、あの時期を経験したからだと思います。
── 当時JALの社長だった赤坂氏が「JALっぽくない人をトップにしたかった」と話していました。JAL本体との差別化は、どう実現しましたか。
根底にあったのは、なるべく合理的に物事を判断しようということです。パンプスで足が痛いのならスニーカーでいいし、機内食もお客様が自分で選んで持ち込めた方がいい。そういう「こうしたらいいのに」を、ZIPAIRなら実行できたのが大きかったと思います。
もうひとつ大きかったのは、JAL側が自由を守ってくれたことです。赤坂からJALの本部長たちに「新しいLCCに口を出すな。自由にやらせろ」と言ってくれた。FSC(フルサービス航空会社)には詳しくても、LCCは詳しくないだろ、と。
私には、JALのアセットやリソースで欲しいものは何でも使っていい、と言ってくれました。路線も座席もサービスも、自分たちで決めて、必要ならJALの仕組みを借りる。あの距離感が、ZIPAIRのスピードにつながったと思います。

白と黒のスニーカーを手にするZIPAIRの制服を着用したモデル=19年4月11日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

新LCCについて説明するTBLの西田社長(右)とJALの赤坂社長(肩書きはいずれも当時)=18年9月26日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
── 就航から5年以上が経ち、初期導入の787-8でも大きな問題はないと以前伺いました。その後、機材面の課題はどう見ていますか。
飛行機ですから不具合が出ることはあります。ただ、無理に飛ばすわけにはいかない。その前提で、日平均16時間くらい飛ばしながら、予備機なしで回すにはどうするか、を考えてきました。そこを支えているのが(JALが100%出資する整備会社)JALエンジニアリング(JALEC)の整備品質です。
いまはStarlinkのアンテナ改修で機体をドックに入れていますが、アンテナだけではなく、この機会にできることを全部やろうと、総掛かりで手を入れてくれています。ゴールデンウィーク前に戻ってくる時には、相当心配の少ない飛行機になって帰ってくると思います。
フルフラット「本当に使ってくれるのか」
── 座席は2種類でも、FSCのような複数クラスに分けない運賃設定を続けてきました。どう評価していますか。

フルフラットベッドになるZIPAIRの「ZIP Full-Flat」=19年12月18日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

成田空港でZIPAIR初便就航を横断幕を手に祝う西田社長(当時)と社員ら=20年6月3日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
フルフラットを最初に18席入れる時は、本当にLCCのお客様が使ってくれるのか、こちらもドキドキでした。ただ、今は長距離線、特に太平洋を渡る路線では販売と同時にほぼ完売です。ホノルルあたりから、フルフラットが悪くないぞ、という評価が立ち上がってきた印象があります。
誤解を招く言い方かもしれませんが、フルフラットは特別な方だけのものではないと思っています。お手軽価格で楽に移動できる選択肢があってもいい。787-9では、この「ZIP Full-Flat」を増やせるようになります。JALのようなフルサービスとも、既存のLCCとも違う、ちょうどいいところを狙ってきたつもりです。
── オーランド・チャーターを飛ばしました。米国東海岸就航に向けた課題出しは進みましたか。
ヒューストンは、我々にとって大きな転換点でした。往復28時間くらいかかって、24時間を超える路線を初めて運航した。1.5機ぐらい使うことになる運航をどう回すか、どこで遅延を吸収するかを考える意味で、本丸の東海岸に行く前にやってよかったと思っています。

成田空港でZIPAIR最長のヒューストン行き初便ZG16便を見送る西田社長(当時)ら=25年3月4日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
オーランドは、その次の段階でした。冬の偏西風が厳しい時期に飛ばして、復路は290席のうち230席程度まで販売を絞る計算でしたが、実際にやってみると、上方修正の余地があることも見えました。航空会社にとって相当ハードルの高いオペレーションですが、こうやってギリギリを攻めてみないと分からない。やってみてよかったですし、なんとかなりそうだという感触は得られました。
時代に応じてやることは変わっていく
── 日本人の海外旅行需要は戻ってきていますか。今後の拡大で何が重要になりますか。
今年の夏休み需要を見ると、ハワイや米国西海岸では日本人比率が先行しています。皆さん、我慢できなくなってきているのではないかと思います。一方で、全体を見ると日本人の海外渡航需要は、2019年の半分くらいしか戻っていないのではないかという感覚です。物価高や円安の影響は大きいです。

ZIPAIR初代社長を務めた西田氏=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
だからこそ、若い人がチャレンジしやすい環境が大事だと思っています。日本は海外との関わりなしに生きていけない国ですし、若い方にはぜひ海外へ行って見聞を広げてほしい。その時に、ZIPAIRが「この値段なら行ける」「乗るのは悪くない」と思ってもらえる選択肢でありたい。今、マス広告を始めたのも、そのためです。
── 創業メンバーの深田さんへの引き継ぎより、その先の世代につないでいく方が難しそうにも見えます。
深田は創業前から一緒にやってきた仲間ですが、大事なのは、西田たちがこうしていたから同じことをしろ、という会社にしないことです。ここにいる人たちが自由に発想して、実行していいんだということだけ守れれば、時代に応じてやることは変わっていくはずです。
JALが100%株主のままでも、目先の利益に焦点を当てて介入してこなかったことが、ここまでの成長を支えてくれました。これから2030年代の頭に20機規模まで拡大していくには、もっと多くのお客様の支持が必要になります。だからこそ、今のうちに「ZIPAIRに乗って悪くない」と思ってもらうことに意味がある。そこは、これからも変わらないと思います。
関連リンク
ZIPAIR [1]
ZIPAIR
・ZIPAIR、Starlinkで機内WiFi開始 無料で高速・安定ネット接続 [2](26年2月26日)
・ZIPAIR、フロリダ・オーランド就航 ディズニーへ成田からチャーター [3](26年2月23日)
・ZIPAIR、787-9を27年度以降導入 JAL機を10機規模改修 [4](25年3月19日)
設立から就航
・ZIPAIR就航 JAL系LCC初便は貨物専用便、翼振り成田からバンコクへ [5](20年6月3日)
・JAL中長距離LCC「ZIPAIR」、機体デザインと制服発表 西田社長「働きやすさ重視」 [6](19年4月11日)
・JAL中長距離LCC「ZIPAIR」、787で成田-バンコク・ソウル20年就航 [7](19年3月8日)
・「これだったらいいね」目指す 特集・JALっぽくない社長が考える新LCC [8](18年9月30日)
・JAL、LCC準備会社「TBL」設立 募集は秋から [9](18年7月31日)
・JAL、新LCC社長に西田氏 7月に準備会社 [10](18年6月29日)
機内の動画(YouTube Aviation Wireチャンネル [11])
・ZIPAIR 787-8 JA822J機内公開 フルフラットシートも [12]
写真特集・ZIPAIR 787-8の機内
(1)フルフラット上級席ZIP Full-Flatは長時間も快適 [13]
(2)個人用モニターなし、タブレット置きと電源完備のレカロ製普通席 [14]
(3)LCC初のウォシュレット付きトイレ [15]