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777-10・A350-2000はどんな新機種? 特集・A380真の後継機現れるか

 2年に一度、奇数年に大型機の受注合戦が繰り広げられるドバイ航空ショーが現地時間11月17日から開かれた。お膝元のエミレーツ航空(UAE/EK)は、ボーイングが開発中の次世代大型機777-9(777X)を65機追加受注したと発表するとともに、777Xファミリーの未発表機「777-10」の導入を視野に入れていることを明かした。

開発中止となったA380plus。777-10やA350-2000は開発されるのか=17年6月 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 総2階建ての超大型機エアバスA380型機を世界最多の123機発注したエミレーツにとって、500席クラスの後継機探しは大きなテーマ。400席クラスの777-9はまだ小さく、さらなる大型機を求めている。エアバスも、かつてはA350-1000の胴体をストレッチした「A350-2000」とも呼ばれる機体を航空会社に提案していることを認めており、今回のエミレーツによる777-10の言及により、双発の超大型機が注目を浴びている。

 777-10やA350-2000とは、どのような機体なのだろうか。結論から言えば、まだ開発が決まっていないため、具体的な仕様すら固まっていないが、777-10は現在777Xで最大の777-9を、A350-2000はA350-1000をそれぞれ最大40-50席程度増やす機体で、A350-2000はエンジン開発も不可欠と言われている。

—記事の概要—
2016年にも話題となった777-10とA350-2000
A380plusは開発中止
2040年代までA380運航
20席以上増える777-10とA350-1000

2016年にも話題となった777-10とA350-2000

 双発の超大型機が話題となるのは、今回が初めてではない。9年前の2016年にはボーイングが777-10の実現可能性に言及し、エアバスもA350-2000の市場投入を検討していることを明らかにした。しかし、いずれも計画は棚上げとなり、ボーイングは777Xの型式証明(TC)取得が大幅に遅延、エアバスは777-300ERとほぼ同サイズのA350-1000がヒットとなり、超大型双発機はあまり注目を浴びない機体サイズとなっていく。

ファンボロー航空ショーで飛行展示を披露する777X=22年7月 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

パリ航空ショーでデモフライトするエアバスのA350-1000。A350-2000は9年前にも話題になった=25年6月 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 2016年はボーイングにとって、「ジャンボ」の愛称で親しまれてきた747の最新型「747-8」の製造中止を公にした年でもあった。旅客型よりも貨物型が好調だった747-8は当時、世界的な航空貨物需要の低迷もあって注文を獲得できず、旅客型は燃費が良く運航コストを抑えられる双発大型機の台頭により、すでに時代の転換点を迎えていた。777Xは2013年のドバイ航空ショーでローンチし、エミレーツは150機とほかの航空会社と比べて圧倒的な発注機数をコミットし、翌2014年にすべて確定発注している。

 双発の777Xに大型機市場を担わせる計画を進めていたボーイングにとって、747-8の製造打ち切りは時間の問題であり、最後の747となったアトラスエアー(GTI/5Y)が747-8F(登録記号N863GT)は2023年2月1日に、米ワシントン州シアトル近郊のエバレット工場に隣接するペインフィールド空港から離陸。1967年から製造されてきた747は1574機が引き渡された。

シアトル近郊のエバレット工場でボーイングからアトラスエアーへ引き渡された最後のジャンボ機747-8F貨物機=23年1月31日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 747-8の生産完了により、ボーイングが超大型機を開発するとなれば、もっともコストがかからない選択肢は777Xをストレッチすることになっていく。

A380plusは開発中止

 777-10やA350-2000といった機種名が浮上した翌2017年。エアバスはパリ航空ショーにA380の改良型「A380plus」のコンセプトモデルを出展。開発が決まれば2019年に初飛行、2020年には初納入を迎えるはずだった。

2017年のパリ航空ショーで公開されたA380plusのコンセプトモデル=17年6月 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 しかし、2018年にはA380の製造中止をエアバスは示唆。改修前と比べ、1席あたりの運航コストを13%削減できるとしていたA380plusもお蔵入りとなり、2019年にはA380を2021年で生産終了すると発表した。A380の最大顧客であるエミレーツが、当時の受注残のうち、39機をキャンセルして、A330-900を40機、A350-900を30機発注したためで、両機種をエミレーツが発注したのは初めてだった。

 A380は2005年に初飛行し、2007年から引き渡しを開始。最終号機のエミレーツへの納入は14年後の2021年12月で、A380としては251機目、エミレーツ向けは123機目となった。エミレーツは、A380がまだ「A3XX」としてアナウンスされていた2000年のファンボロー航空ショーで、航空会社として初めてA380の発注を発表し、2001年のドバイ航空ショーで15機の追加発注を表明した。

 最終号機の座席数は4クラス484席(ファースト14席、ビジネス76席、プレミアムエコノミー56席、エコノミー338席)で、2020年12月にお披露目された新仕様。エミレーツのA380はこれまで、超長距離路線向けの3クラス489席(ファースト14席、ビジネス76席、エコノミー399席)、長距離路線向けの3クラス517席(ファースト14席、ビジネス76席、エコノミー427席)、ファーストクラスを設定しない長距離路線用の2クラス615席(ビジネス58席、エコノミー557席)の3仕様があったが、超長距離仕様と同等の座席数で4クラスを実現した。

ハンブルクのフィンケンヴェルダー工場で組立が進むANAのA380 3号機の後部胴体。現在このエリアはA320neoファミリーの製造施設として使われている=19年1月 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

ハンブルクのフィンケンヴェルダー工場で組立中のA380の胴体=13年8月 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 A380の製造中止を発表した2019年、エアバスのギヨム・フォーリCEO(最高経営責任者)は、500席クラスの超大型機について計画がないと明らかにし、「マーケットが変わってきており、航空会社から選ばれなかった。双発機の重要性が増している」と、4発機であるA380が時代に合わなくなっていることを認めた。

 この時点では、同時に「市場の需要が小さい」(フォーリCEO)として、A350-1000よりも大型となるA350-2000の開発には否定的な姿勢を示していた。

2040年代までA380運航

 2040年代に入れば、エミレーツが最後に受領したA380も就航から20年となり、徐々に運航継続は難しくなる。エミレーツは現地時間11月20日に、A380のエンジン「トレント900(Trent 900)」を製造する英ロールス・ロイスと、同エンジンのMRO(整備・修理・分解点検)を2027年から実施すると、ドバイ航空ショーで発表。ロールス・ロイスの長期保守・管理サービス「トータルケア」も、2040年代まで契約を延長した。

エミレーツ航空に引き渡されたA380最終号機(エアバス提供)

 エミレーツは、自社でエンジンのMROを実施するため、ファンケースを修理するための新たな施設を建設。ロールス・ロイスは、エンジンモジュールの修理能力を維持していく。A380のエンジンは、トレント900のほか、米エンジン・アライアンス製GP7200のいずれかを選択でき、エミレーツは初期発注がGP7200、トレント900は2015年4月に50機分を初めて発注した。

 仮に通常20年程度の退役時期を延長して25年運航した場合、トレント900搭載機は初期の機体が2040年前後まで、2020年以降受領した8機は2040年代中盤までは運航できる計算で、余裕を持って2030年代後半には、A380の後継機受領を始める必要がある。

20席以上増える777-10とA350-1000

 ボーイングもエアバスも、747-8やA380の生産ラインはすでに閉鎖しており、いまからこれらの機体を再生産することは困難だ。また、新型コロナ以降、サプライチェーンの混乱だけでなく、経験者の他業種への転職など、人材流出も頭の痛い問題となっている。

パリ航空ショーで公開された777-9飛行試験機の客室に設けられたA350と広さを比較する展示=23年6月 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 これに加え、737 MAXで起きた2度の墜落事故など、航空機に求められる安全性は日に日に高まっており、777Xの納入開始が始まらないのも、FAA(米国連邦航空局)による型式証明(TC)の審査に時間が掛かっていることが大きい。“胴体を延長するだけ”にみえる777-10やA350-2000も、実際にはさまざまな安全性の検証を経て、初めて型式証明を取得できるため、複合的な要因で従来の新型機開発よりも時間がかかる可能性が高い。

 777-9もA350-1000も、777-300ERの後継機として各社が選定している。一方で、受注が伸びなかった777-9について、北米航空会社のトップはAviation Wireの取材に対して「400席では大きすぎる」と、主に投入する長距離国際線の需給バランスを考えると、777-300ERが最適で、777-9では大きすぎる、という声が聞かれた。

 実際、受注が好調なA350-1000は777-300ERとほぼ同じサイズで、777Xは777-300ERより大きい777-9(メーカー標準座席数2クラス426席)と、777-300ERよりやや小さい777-8(2クラス395席)と、旅客型は2機種ある。しかし、777-8を発注する航空会社はわずかで、長期的な需要の伸びを考えると、「現行機より小さい後継機」という機種選定は現実的ではないと言えるようだ。

 今回話題にのぼった777-10は、座席数が450席超になると言われており、仮にこの数値が2クラスであれば777-9と比べて20席以上増やせる。一方、A350-2000は400席クラスと、A350-1000のメーカー標準3クラス375席と比べて25席程度は増やせる見込みで、いずれも現行機より20席程度増やせる大きさになるとみられる。

 777-300ERと同程度のA350-1000が上限だったエアバスにとっては、777-9と同規模の機体をラインナップでき、ボーイングは双発旅客機では最大サイズの機体を航空会社へ提案できるようになる。

  ◇ ◇ ◇

 奇しくも747-8やA380の製造中止が表沙汰になったおよそ10年前に、航空会社への提案が本格化した777-10とA350-2000。コロナを挟み、旺盛な旅客需要を取り込むエミレーツは超大型双発機に熱い視線を送る。一方で、これらの機種にほかの航空会社が関心を示すのかも注目される。早ければ来年2026年にも、新たな話題が出てくるかもしれない。

関連リンク
エミレーツ航空 [1]
Boeing [2]
Airbus [3]

777-10発注示唆
エミレーツ航空、777X新機種“777-10”変更も 65機追加発注 [4](25年11月17日)

777X試験機の機内動画(YouTube Aviation Wireチャンネル [5]
【4K】Boeing 777X 試験機の機内【パリ航空ショー】 [6]

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