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アフターバーナーなし4発で超音速 解説・JALも出資オーバーチュアの今(前編)

 2029年の就航を目指す米ブーム・スーパーソニック(Boom Supersonic、本社デンバー)が開発中の超音速旅客機「オーバーチュア(Overture)」。ユナイテッド航空(UAL/UA)に続き、アメリカン航空(AAL/AA)が現地時間8月16日に導入を発表し、最初の20機については返金不可の手付金を支払った。

ファンボロー航空ショーでオーバーチュアの現状を説明するブームのショールCEO=22年7月19日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 これに先立つ今年7月にロンドン近郊で開かれたファンボロー航空ショーで、ブームはオーバーチュアの最終生産設計を発表。アフターバーナーを使わずに超音速を実現する方針は維持されたが、エンジンは従来の3基を4基に増やした。米ノースロップ・グラマンとの提携も発表し、これまで米空軍と協議を進めてきた大統領専用機を含む要人輸送機を中心とする防衛分野でのオーバーチュアの活用が一歩前進した。

 3発機から4発機に改められたオーバーチュアは、どのような改良が加えられたのだろうか。

—記事の概要—
前編
3発機から4発機に
全席ビジネスクラスで29年就航へ

後編 [1]
「基本的に平和的な用途」
複数の客室ゾーン設定可能

3発機から4発機に

 「安全性など、いろいろと調べてわかることがある。機体のリファインも、メインテナンス性などを考慮して設計した。フライトオペレーションと持続可能性に焦点を当てている」。ブームの創業者兼CEO(最高経営責任者)のブレイク・ショール氏は、新設計の狙いをこう説明した。

ファンボロー航空ショーでお披露目されたブームが開発中の超音速機オーバーチュアの最新模型=22年7月19日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 エンジンを1基増やしたのも、当然理由がある。「私たちは超音速で飛行する際の排ガスや騒音が好きではない。アフターバーナーは必要なく、十分な推力があればいい。そのため、4基の最新型エンジンを搭載し、製造可能なサイズにした。エンジンの設計はかなり進んでる」といい、いくつかの候補の中から4発機に決まった。

 離陸時には、世界初の自動騒音低減システムを採用。エンジン1基あたりに必要な推力を抑え、機体全体の騒音レベルを低減する。また、超音速域での性能を高めると同時に、亜音速域や遷音速域での操縦性を向上させるため、主翼の形状を工夫した。

 「断面積は機体や尾翼に沿って非常に滑らかに変化する必要がある」とし、「航空機の抵抗を最小限に抑え、航続距離を伸ばし、燃費を向上させ、排出ガスを削減することだ」(ショールCEO)と、機体の形状も運航コストや環境性能を踏まえて見直した。風洞実験は5回実施し、全面的な設計見直しは51回に達したという。

ファンボロー航空ショーでお披露目されたブームが開発中の超音速機オーバーチュアの最新イメージイラスト(同社提供)

ファンボロー航空ショーでお披露目されたブームが開発中の超音速機オーバーチュアの最新イメージイラスト(同社提供)

 今回の見直し後の仕様は、巡航速度が洋上で超音速のマッハ1.7、陸上で亜音速機のマッハ0.94、ペイロード航続距離は4250海里(7871キロ)を計画。乗客定員は65から80人で全席ビジネスクラス、外寸は全長201フィート(約61メートル)、翼幅106フィート(約32メートル)、全高:36フィート(約11メートル)、内寸は全長79フィート(約24メートル)、通路の最大高さ6.5フィート(約2メートル)、2つのLRU(列線交換ユニット)、4系統のデジタルフライバイワイヤ、エンジンは100%SAF(持続可能な航空燃料)対応、騒音レベルはICAO(国際民間航空機関)のチャプター14、FAA(米国連邦航空局)のステージ5としている。

 マッハ1.7は現在最速の民間航空機の2倍の速度で、マイアミからロンドンまで5時間弱、ロサンゼルスからホノルルまで3時間で飛行できる。

全席ビジネスクラスで29年就航へ

 ショールCEOは「ビジネスクラスのような経済性で運航でき、現在前方席に乗っている人であれば誰もが利用できる」と、これまでの計画と同じオールビジネスクラスの客室とすることで、収益性は確保できるという。

オーバーチュアの客室イメージイラスト(ブーム提供)

 今後はコロラド州センテニアルに新設した地上試験施設「The Iron Bird」で、オーバーチュアの機体とソフトウェア、システムの統合を行い、2024年の生産開始を目指す。オーバーチュアの製造施設「オーバーチュア・スーパーファクトリー」は、ノースカロライナ州グリーンズボロのピードモント・トライアド国際空港に建設し、最終組立ラインや試験施設、顧客へ引き渡すデリバリーセンターを設ける。

 最初の機体は2025年にロールアウト(完成披露)し、2026年の初飛行を経て2029年の就航を予定している。

ファンボロー航空ショーでお披露目されたブームが開発中の超音速機オーバーチュアの最新イメージイラスト(同社提供)

 米国の航空会社では、ユナイテッド航空が2021年6月3日に15機を確定発注。オーバーチュアが確定受注を獲得したのはこれが初めてで、35機のオプション(仮発注)付き。アメリカン航空は最大20機の発注で、追加40機分のオプション付きの契約を結んだ。

 また、日本航空(JAL/JL、9201)が2017年12月にブームと提携して1000万ドル(当時の円換算で約11億2500万円)を出資し、将来の優先発注権を20機分確保している。

 「私たちはすでに6億ドル(約820億円)以上の資金を調達しており、今日に至るまでに使ったのはごく一部だ」(ショールCEO)と述べ、今後も資金面で問題はないと強調している。

 では、オーバーチュアの防衛分野での活用は、どのようなものを描いているのだろうか。

つづく [1]

関連リンク
Boom Supersonic [2]

解説・JALも出資オーバーチュアの今
後編 大統領専用機の座も狙う超音速機 [1]

ユナイテッド航空とアメリカン航空が発注
超音速機ブーム、アメリカン航空が最大20機発注へ 洋上でマッハ1.7 [3](22年8月16日)
ユナイテッド航空、超音速旅客機を15機発注 東京-西海岸6時間、29年にBoom社Overture就航 [4](21年6月3日)

Overtureの解説記事
アフターバーナーなしでマッハ1.7 解説・Boomの超音速機オーバーチュア [5](21年6月4日)

グリーンズボロで生産
ブーム、グリーンズボロに超音速機オーバーチュア製造施設 24年生産開始 [6](22年1月27日)

本邦初!CEO独占インタビュー。Boomのオフィス写真も。
超音速機ベンチャーBoom、実証機XB-1を19年末ロールアウトへ 西海岸まで5.5時間 [7](19年5月20日)

Boom
Boom、超音速実証機XB-1ロールアウト 25年実用化へ [8](20年10月8日)
Boom、超音速実証機XB-1を10月ロールアウト 21年初飛行へ [9](20年7月14日)
運賃はビジネスクラス+α 超音速機ベンチャーBoom、JALもサポート [10](19年6月27日)
JAL、超音速機開発で米社と提携 20年代の実現目指す [11](17年12月6日)

特集・ JALさん、シリコンバレーで何やってるんですか?
前編 表敬訪問で終わらせない [12]
後編 地に足着いたベタなイノベーションを [13]