国の運輸安全委員会(JTSB)は4月17日、羽田空港で2024年1月2日に起きた海上保安庁のMA722(ボンバルディアDHC-8-Q300型機、登録記号JA722A)と、日本航空(JAL/JL、9201)の札幌発羽田行きJL516便(A350-900、JA13XJ)の衝突事故について、JAL機に装備されていた客室乗組員が使う拡声器から声が伝わる範囲が不十分だったと発表した。同じ拡声器は、A350以外の航空機にも搭載されていることから、同様の事象が他機種でも起きる可能性があるとして、国土交通省航空局(JCAB)へ情報提供した。事故後の非常脱出に与えた影響は、引き続き調査している。
*国交省の対応記事はこちら [1]。

海保機との衝突で焼け落ちたJALのA350-900 JA13XJ=24年1月3日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
事故発生当時、機内の放送システム(PA)が作動しない状態だった。このため、一部の客室乗務員は拡声器を使って乗客への指示や案内を行ったが、効果が感じられず使用を中止した人もいたことが調査でわかった。
JTSBは、今後の被害軽減に向けた分析の一環として、2025年5月26日に事故機と同型のエアバスA350-900型機で、同型式の拡声器を使った検証を実施。右エンジンの回転音や乗客の声、客室乗務員によるパニック・コントロールなどを模擬した上で、左最前方「L1」ドア付近から客室後方へ脱出指示を伝達したところ、L2とR2への指示は聞き取れた。
一方、L2とR2から、L3とR3への伝達は、約20秒連続して声を出し、わずかに聞き取れる程度だった。また、L3とR3から、L4とR4への伝達は、25秒以上連続して声を出しても聞き取れなかった。JTSBは、今回の検証は事故当時の状況を完全に再現したものではないとしている。

A350-900に搭載されていた拡声器の検証結果(JTSBの資料から)

JTSBによる拡声器の検証実験(同委員会の第2回経過報告から)
これを受け、エアバスは同型式の拡声器を使い、音声の明瞭度を評価するRASTI(室内音響音声伝達指標)による音響解析を実施。事故時の騒音環境を忠実に再現することは難しいため、通常運航で最も客室内の騒音が大きい高度3万5000フィート巡航中の環境を模擬した。その結果、L1から後方へ発声した場合は座席列の7列目以降で、L2からでは19列目の周辺以降、L3からでは50列目周辺以降で、聞き取りできないエリアが広がるとした。JTSBによると、実際の非常脱出時の騒音条件により状況は異なる可能性があるとしつつ、同型式の拡声器では客室前方から後方への指示伝達には性能上の限界があるとした。
事故は2024年1月2日午後5時47分ごろ、羽田空港C滑走路(RWY34R)上で発生。滑走路上に停止していた海保機と、同滑走路に着陸したJAL機が衝突した。海保機には乗員6人が搭乗しており、機長が重傷、ほかの5人が死亡した。JL516便は乗客367人(幼児8人含む)と乗員12人(パイロット3人、客室乗務員9人)の計379人が搭乗していたが、全員が3カ所の出口から緊急脱出し、脱出時に1人が重傷、4人が軽傷を負った。
JTSBは今後、A350-900を使い、他型式の拡声器を使った検証も予定している。

JTSBによる拡声器の検証実験に使用した集音マイク(同委員会の第2回経過報告から)

JAL機に搭載されていたものと同型式の拡声器(JTSBの第2回経過報告から)
関連リンク
運輸安全委員会 [2]
第2回経過報告
・羽田衝突事故、疲労管理や視認性など12項目分析 運輸安全委が第2回経過報告 [3](25年12月25日)
第1回経過報告
・A350、海保機衝突で電源喪失 CFRP機初の全損、消火救助も課題=羽田事故 [4](24年12月25日)
・運輸安全委、羽田事故の経過報告公表 海保機が離陸順位優先と認識か [5](24年12月25日)
羽田事故
・1月の羽田事故、運輸安全委が年内に経過報告「事実情報は出来る限り入れる」 [6](24年12月17日)
・23年度の航空事故3件、重大インシデントは1件=国交省 [7](24年11月21日)
・羽田空港、C滑走路に誤進入防ぐ「RWSL」設置開始 深夜のC5で作業 [8](24年10月4日)
・国交省、離陸順序「No.1」8/8再開 管制官とパイロットに「留意事項」 [9](24年7月25日)
・羽田衝突事故、運輸安全委も海保機長聴取 CFRP機初の全損全焼 [10](24年2月27日)
・羽田JL516便、乗客1人打撲 3カ所から379人全員脱出、原因調査中 [11](24年1月3日)
・エアバス、日本に専門チーム派遣 羽田事故で [12](24年1月3日)
・JAL A350が羽田で炎上 札幌発JL516便、乗客乗員は全員脱出 [13](24年1月2日)