米国のホワイトハウスは現地時間7月23日、トランプ大統領が日本との新たな経済協定を締結したと発表した。協定には民間航空機や防衛装備の購入に関する大型の合意が含まれた。一方で、日本の大手航空会社は、ボーイングにここ数年まとまった数の航空機を発注済みで、“合意”というよりは参院選で大敗を喫した石破政権が大幅に譲歩したとも言えそうだ。

日米関税合意ではボーイングの民間機100機の発注も含まれた=17年6月 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
—記事の概要—
・大手は大量発注直後
・関税15%適用
大手は大量発注直後
民間航空機分野では、日本が米国製の民間航空機を購入することを約束。ボーイング製航空機100機の購入契約が含まれた。防衛分野では、米国の防衛装備を年間数十億ドル規模で追加購入すると明記され、インド太平洋地域での相互運用性と同盟の安全保障を強化することを目的とした。

パリ航空ショーで787-9と737-8をボーイングに正式発注したANAホールディングスの芝田浩二社長(中央右)ら=25年6月 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

ファンボロー航空ショーで787-9の正式発注を発表するJALの中川由起夫調達本部長(右、当時)ら=24年7月 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
国内最大手の全日本空輸(ANA/NH)を傘下に持つANAホールディングス(ANAHD、9202)は、6月に開かれた世界最大規模の国際航空宇宙見本市「パリ航空ショー」(奇数年開催)で、ボーイングに787-9型機を23機、737-8(737 MAX 8)をオプション(仮発注)を含む最大22機(確定18機、オプション4機)の合わせて最大45機(確定41機、オプション4機)を正式発注した。
日本航空(JAL/JL、9201)は昨年7月にロンドン近郊で開かれた「ファンボロー航空ショー」(偶数年開催)で、787-9を最大20機(確定10機、オプション10機)正式発注した。この契約とは別に、傘下のZIPAIR(ジップエア、TZP/ZG)が運航する機材として787-8も2機追加発注している。JALも737-8(737 MAX 8)を現行機737-800の後継機として国内線を中心に38機導入する見通しで、JALの発注は3機種合わせて最大60機(確定50機、オプション10機)となる。
国内大手2社の合計機数は確定91機(ANA 41機、JAL 50機)、オプションも含めると最大105機(ANA 45機、JAL 60機)。今回の「購入」が現時点で正式発注に至っていないオプション契約を含まない場合、新たに国内の航空会社が100機発注する必要が出てくる。
一方、コロナによる国内出張需要の大幅減や、10年に一度は訪れる感染症などによる世界的な航空需要の蒸発など、航空会社はボラティリティの高い事業環境に置かれており、日本政府がこうした航空業界の実情を正確に理解しているのかは疑問だ。
また、スカイマーク(SKY/BC、9204)も、737 MAXのうち標準型の737-8(737 MAX 8)を13機、胴体長がもっとも長い737-10(737 MAX 10)を7機の計20機を導入予定。2026年3月から受領が始まる見通し。計20機のうち、購入機は737-8と-10が7機ずつ計14機で、残り6機の737-8はリース導入となる。
大手2社とスカイマークの国内3社合計では、確定発注は105機(ANA 41機、JAL 50機、SKY 14機)となる。
ボーイングは、787や737 MAX、開発中の次世代大型機777Xで、737 MAXは機体に起因する2度の墜落事故、787と737 MAXは度重なる品質問題や納入遅延、777Xは開発遅延を起こしており、世界の航空会社から早期引き渡しを迫られている。こうした中、トランプ政権も大量発注を日本側に約束させた以上、引き渡しのスロット(枠)を優先させるなどの対応をすべきであるものの、長期化した交渉の経緯からは、一般的な商道徳が通じるかは未知数と言える。
関税15%適用
今回の合意では、5500億ドルを超える新たな日米の投資の枠組みの用意や、米国の輸出品への市場アクセス拡大、日本からの輸入品に対する基準関税率15%の適用なども盛り込まれた。
また、米国国内の産業基盤の再建に向けて、日本からの投資を活用する計画も発表。対象分野には、エネルギーインフラと生産(LNG、高度燃料、電力網の近代化)、半導体の製造と研究(設計から製造まで)、重要鉱物の採掘・加工・精製、医薬品や医療用品の生産、造船(商業・防衛用)などを挙げた。
農業・食品分野では、日本が米国産米の輸入を75%増やすことを求め、トウモロコシや大豆、肥料、バイオエタノール、持続可能な航空燃料を含む80億ドル相当の米国産品を購入することも明記された。
エネルギー分野では、米国のエネルギー輸出を大幅に拡大するとともに、アラスカ産LNG(液化天然ガス)に関する協議を日米で進めているという。
自動車・工業製品や一般消費財の分野では、米国製自動車・トラックに対する日本側の長年の制限撤廃を求めており、米国の自動車規格が日本で初めて承認されるという。
関連リンク
The White House [1]
Boeing [2]
ボーイング・ジャパン [3]
国内線は赤字
・PIVOTの航空特集で当紙編集長が大手2社の現状やパリ航空ショー解説 [4](25年7月11日)
・国内線は「赤字体質」出張減とドル建てコスト増で航空各社苦境、国交省有識者会議が初会合 [5](25年5月31日)
ANA
・ANA、787と737MAXパリ航空ショーで正式発注 過去最大発注の一環、28年度以降受領 [6](25年6月16日)
・ANA、A321neoとピーチ向けA321XLRパリ航空ショーで正式発注 30年度から受領 [7](25年6月17日)
・ANA、E190-E2パリ航空ショーで正式発注 28年度から国内初導入、エンブラエルとも初契約 [8](25年6月17日)
JAL
・JAL、787-9最大20機正式発注 ZIPAIRも検討、28年度から国際線 [9](24年7月23日)
・JAL、エアバス機31機正式発注 A350-900追加と初導入A321neo [10](24年7月23日)
・JAL、737MAXを17機追加導入 計38機に [11](25年3月19日)
・JAL、737MAXを26年から導入 18年ぶりボーイング機発注 [12](23年3月23日)
スカイマーク
・スカイマーク、737MAXシミュレーター公開 モーションで挙動再現 [13](25年7月18日)
【お知らせ】
スカイマークの737 MAXの内訳と国内3社の確定発注機数を追記しました。(25年7月25日 13:49 JST)
ANAとJALの発注機数の詳細を追記しました。(25年7月25日 13:24 JST)