- Aviation Wire - https://www.aviationwire.jp -

JAL、航空大学校にシミュレーター寄贈 仙台飛ぶバロン再現

 日本航空(JAL/JL、9201)は3月13日、仙台空港に隣接する国の航空大学校(航大)の仙台分校に「FTD(Flight Training Device)」と呼ばれる飛行訓練装置を寄贈した。

航空大学校仙台分校で開かれた贈呈式で長崎分校長(右)にバロンのFTDで使うタブレット端末を手渡すJALの立花運航本部長=23年3月13日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 JALが寄贈したFTDは、航大が仙台空港での飛行訓練に使用している双発プロペラ機ビーチクラフトG58「バロン」のコックピットを再現したもので、米TRU製。今回の寄贈で仙台分校のFTDは4台になった。

—記事の概要—
「真剣勝負の舞台だと思って」
「予習すると気持ちに余裕」

「真剣勝負の舞台だと思って」

 13日に仙台分校で開かれた贈呈式で、JAL執行役員の立花宗和運航本部長は「世界的に航空業界で働く人が徐々に減少していく中、需要は旺盛なのでどうやって支えていくかが課題。エアラインとしてお手伝いできることはないかと航大の方とお話したところ、FTDの寄贈に至った」とあいさつした。FTDであれば、実機ではできない緊急事態の訓練や、天候に左右されずに訓練を進めることができる。

JALが航空大学校の仙台分校に寄贈したバロンのFTD=23年3月13日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

航空大学校仙台分校で開かれた贈呈式であいさつするJALの立花運航本部長=23年3月13日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 立花運航本部長は、「JALを志望する人だけではなく、航空を担う人を増やしていきたい。年々機材が高度化していく中で、単なる操縦技術だけではなく、マネジメント能力の向上が必要だ。訓練が極めて高度化していく中で、エアラインの知見を入れていった方がよい部分があり、JALからも航大に教官を派遣しているが、学生さんが使う機材の充実も必要」と、寄贈した背景を説明した。

 当初は2021年の冬に寄贈する予定だったが、コロナの影響でFTDの完成に時間が掛かったなどの理由で後ろ倒しになったという。自社養成パイロット訓練生としてJALに入社した立花氏は、在来型747、737-400、747-400、777、787とボーイング機の操縦桿を握り、エアバスA350型機の運航乗員部長を経て運航本部長に就いた。

JALが航空大学校の仙台分校に寄贈したバロンのFTD=23年3月13日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

JALが航空大学校の仙台分校に寄贈したバロンのFTD=23年3月13日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 「私が(当時JALの訓練施設があったカリフォルニア州の)ナパで訓練を受けたころはほぼ実機訓練で、天気や空港の混雑状況で予定していた日にできない科目もあった。どんどんシミュレーターのクオリティーが上がっており、モーションがなくてもビジュアルの再現性が向上している」と、FTDの進歩にふれた。現在は訓練内容により、シミュレーター自体が操縦に合わせて動く「モーション」と呼ばれる機能がないFTDで訓練できる内容もあるという。

 贈呈式には、仙台分校で学ぶ5人の学生も列席した。立花氏は「シミュレーターを実機のように使い、実機ではシミュレーターの通りにやりなさい、と教わってきた。エアラインでシミュレーターだからと思ってやると、実機で何か起きた時に対応能力として使えない。今後自分たちが働く上で、真剣勝負の舞台だと思って欲しい」と言葉をかけた。

JALが航空大学校の仙台分校に寄贈したバロンのFTD=23年3月13日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

「予習すると気持ちに余裕」

 航大のキャンパスは宮崎と帯広、仙台の3空港にある。入学後は最初に宮崎で学科座学を5カ月、帯広と宮崎で単発機操縦を6カ月ずつ、最後に仙台で多発機操縦を7カ月と、2年間訓練を受ける。

航大仙台分校の訓練機は東日本大震災で津波の被害を受けた=11年5月 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

航大仙台分校のFTDが設置された部屋に貼られた東日本大震災の被害を受けた同校の写真=23年3月13日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 仙台分校の訓練機やFTDは、12年前の2011年3月11日に起きた東日本大震災で津波に流されたり、浸水して使えなくなるなどの被害を受けた。震災後にFTDを3台導入したが、同校の長崎将志分校長によると、FTDの台数不足で学生の訓練が遅れることもあったといい、「FTDが4台になることで解消され、訓練の加速化につながるだろう」と語った。

 2019年に入学し、仙台分校で学ぶ女子学生は「仙台空港はトラフィックが多く、初めての計器飛行になります」と帯広や宮崎でのフライトとの違いを話す。「秋田空港のアプローチが難しいので、FTDで予習すると気持ちに余裕ができます」と、FTDが増えたことを喜んでいた。

JALが航空大学校の仙台分校に寄贈したバロンのFTD=23年3月13日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

JALが航空大学校の仙台分校に寄贈したバロンのFTD=23年3月13日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

JALが航空大学校の仙台分校に寄贈したバロンのFTD=23年3月13日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

JALが航空大学校の仙台分校に寄贈したバロンのFTD=23年3月13日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

関連リンク
航空大学校 [1]
日本航空 [2]

JALと航大
「737は操縦のクセ表れる」特集・JALパイロットの”本気”帯広チャーター [3](22年6月17日)

立花運航本部長
「パイロットはおもてなしの舞台装置をコントロールする側」 JAL A350運航乗員部長・立花機長に聞く [4](19年8月26日)

特集・JALパイロット自社養成再開から5年
(1)ナパ閉鎖を経てフェニックスで訓練再開 [5]
(2)旅客機の感覚学ぶジェット機訓練 [6]
(3)「訓練は人のせいにできない」 [7]
(4)グアムで737実機訓練 [8]
(5)「訓練生がやりづらい状況ではやらせたくない」 [9]