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CRJ買収、2強入りなるか 特集・スペースジェットの生きる道

 三菱重工業(7011)が、カナダのボンバルディアとリージョナルジェット機「CRJ」事業買収で合意した。これまでに各国の航空会社に約1900機が引き渡されている機体で、ブラジルのエンブラエルが覇権を握る前は、航空各社の主力リージョナルジェット機だった。

パリ航空ショー出展を終えル・ブルジェ空港を出発する三菱スペースジェットの飛行試験3号機。CRJ事業買収で2強入りなるか=19年6月18日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

三菱重工が買収したボンバルディアのCRJ事業。サポート体制構築などに役立てる考えだ=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 ボンバルディアは新型機「Cシリーズ」の開発コストがかさみ、事業再編を進めている。Cシリーズはエアバスに売却し、A220と名前が改められた。CRJ売却後、ボンバルディアの民間機事業はビジネスジェットのみとなり、鉄道事業と二大主力事業に絞る。

 リージョナルジェットの2強のうち、ボンバルディアが市場を去ると、最大手のエンブラエルが残る。三菱重工はCRJの整備やサポートの拠点やノウハウを生かし、子会社の三菱航空機が開発する「三菱スペースジェット(Mitsubishi SpaceJet、旧MRJ)」を軌道に乗せたい考えだ。

 業界再編が進む中、スペースジェットは2強のひとつになり得るのだろうか。

—記事の概要—
「MRJ90よりも進んだM100」
勝負は価格?

「MRJ90よりも進んだM100」

 スペースジェットは、従来「MRJ90」と呼んでいた90席クラスの機体を「SpaceJet M90」と、M90をベースに新設計する70席クラスの「SpaceJet M100」の2機種で構成。これまで将来像として描いていた100席クラスのMRJ100Xは、「SpaceJet M200」として検討を進める。

手荷物収納棚を開けた三菱スペースジェットのモックアップ=19年6月19日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 主力はM100で、リージョナルジェットの需要がもっともある米国市場に最適化した機体サイズだ。座席数は3クラス65-76席、最大1クラス88席まで設定できる。北米市場の「スコープ・クローズ」と呼ばれる、リージョナル機の座席数や最大離陸重量を制限する労使協定に準拠した機体だ。

 従来MRJでは、短胴型の70席クラスを「MRJ70」と呼んでいたが、M100はM90をベースに新設計を取り入れることから、M90よりも進化したことを示す意味で、大きな数字が割り当てられた。三菱航空機の水谷久和社長は、「MRJ90よりもさらに進んだM100、という意味だ。90とか70という、シートに直結する数字をやめた」と説明する。

 M100は現在型式証明(TC)の取得を目指しているM90をベースに開発する。このため、大幅な設計変更は難しい。客室に大型のオーバーヘッドビン(手荷物収納棚)を設置するなど、機体に大きな変更が生じない見直しが中心になる。

 こうした中、大きく変えるのが貨物室だ。水谷社長は「M100は貨物室を短くする。90席クラスの貨物室を残す必要もなく、オーバーヘッドビンが大きくなるので、貨物室は大きくなくていい。その分、客室を広くできる」と説明する。

 北米市場に適した機体サイズで、静粛性や低燃費を売りとするエンジンを備え、機内に大型のオーバーヘッドビンを備えたのがM100と言える。

勝負は価格?

 「機齢20年に達する機材の代替需要が世界で毎年200機あるが、ボンバルディアは航空産業から抜けるので需要を満たさない。エンブラエルがこのエリアの競合として残るが、リージョナルジェット機市場を取り込む上で、今までで一番良い機会だ」。三菱航空機のアレックス・ベラミーCDO(最高開発責任者)兼プログラム推進本部長は、現状をこう説明する。

スーツケースが4つ収まるE190-E2飛行試験機の手荷物収納棚。エンブラエルはどのような手を打ってくるか=18年7月 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

国内でもFDAなどが運航するE170。エンブラエルはどう迎え撃つか=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 ボンバルディアの市場撤退を好機としてMRJをリブランドし、ラインナップも刷新する三菱航空機。しかし、スペースジェットは当初2013年だった初号機納入が5回延期され、2020年中ごろが現在の目標だ。この間に、エンブラエルはスペースジェットと同じ低燃費・低騒音の新型エンジンを採用した「E2」シリーズの納入を始めている。

 M100が参入を目指す70席クラスの競合としては、エンブラエル170(E170)の製造が続いている。エンブラエルはE170とE175、E190、E195の4機種で構成する「Eジェット」の後継として、スペースジェットと同じ新型エンジンを採用した「E2」シリーズを開発しており、E175-E2とE190-E2、E195-E2の3機種を揃えるが、E170の後継機は存在しない。

 しかし、エンブラエルはE170にスペースジェットが売りとする大きなオーバーヘッドビンを取り入れた新仕様の客室を計画していると噂されており、日本の航空業界では、この新仕様機で価格勝負に出るのではないかとの見方がある。

 リージョナル機を運航する航空会社は小規模なところが多いことや、フライト時間が短い路線では燃費改善効果を出しにくいなど、すでにE170を運航している航空会社であれば、E170の新仕様機のほうが魅力的に映る可能性がある。スペースジェットが快適性でE170に勝るとしても、それだけで勝負に勝てるとは言いがたい。

 水谷社長は、「パートナー企業からどういったコストのオファーをいただけるかを伺った上で、プライシングを考えていく」と語る。M100の部品などを製造するサプライヤーが、三菱航空機にどういった価格提案をするかが、勝負の分かれ目になりそうだ。

 今回のCRJ事業買収により、三菱航空機は経験がないに等しい民間機のアフターサービスについて、一定の道筋をつけた。ボンバルディアという2強の1つが市場から消えるものの、性能の良さだけでは売れないのが民間機だ。エンブラエルが70席クラスの将来像を明確にしない中、スペースジェットの挑戦が始まる。

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