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[著者に聞く]『災害と空港』編者・轟朝幸さん

 地震や豪雨など災害が各地で多発する中、支援拠点としての空港を考察する『災害と空港─救援救助活動を支える空港運用』(成山堂書店、税別2800円)が発刊されている。これは東日本大震災で被害を受けた仙台空港など空港関係者や航空機の運航関係者にインタビュー、その上で災害の時、そしてそれに備えて空港はどのように運用されるべきかを提言している。編者の一人である日本大学理工学部の轟朝幸教授にきたるべき災害に、空港はどのように備えるべきかを聞いた。

── この本ができるきっかけは。

轟:2011年に東日本大震災が発生し、この本を書いた研究者たちがその被害についていろいろな学会で発表してきました。そこから得られたことを関係者だけに発表しているだけでは不十分だろうと、私たちの知見を一般にも還元すべきだと考え、本として出版しました。

── 2011年に東日本大震災が起こり、発刊される2018年までやや時間がかかっていますが。

轟:調査研究では、現場の人たちの声をできる限り拾いたいという姿勢でした。災害が起きた直後は行けなかったという事情もありますが、インタビューを幅広く行うために時間がかかりました。

 結果、本のために海外も含めて30以上の機関に話を聞きました。私を含めた2人の編者のほか、執筆者6人、さらに執筆者が教えている学生さんにも手伝ってもらいました。研究成果をまとめるのに5年かかり、本にしようと思ってから、2-3年近くかかってしまいました。

── インタビューをしてみた感想は。

轟:東日本大震災では、私は最初は土木学会の調査団として現地に行きました。専門の空港港湾担当だったのですが、当時は消防防災関係者が言う「受援」(援助を受けること)という言葉すら知りませんでした。空港の専門家であるのに、知らないことは多すぎると思い知りました。

 その状態からインタビューをスタートさせたのですが、逆に研究者という立場で行っていると、さまざまな状況をよく教えてくれました。「ダメだったらダメと言ってください。その問題をクリアにしていきたい」という姿勢を出すとフランクに話してもらえました。その意味で、この本は諸機関の報告書より中立的だと自負しています。

── 知見としてわかった部分は。

轟:通常時からそうではあるのですが、空港というところは多種多様な組織が関わっています。空港を運営する側で国や地方自治体あるいは運営会社は、通常はエアラインとの付き合いが基本です。しかし、災害時にはそれ以外の機関を空港側がコーディネートしないといけない。そこで災害にあってしまった利用者や見学者も含め、多様な主体があることをこの本では明確に指摘しました。

── 災害時の救援機、特にヘリコプターの運用についても詳しく触れています。重要な点は何でしょうか。

轟:災害時の救援機も多くの機関が運用します。自衛隊、消防、警察、海上保安庁などです。ここで重要な役割を果たすのは、参加する機関が一堂に会して情報交換する「航空機運航調整会議」だと思います。

 岩手・宮城内陸地震(08年)の時に各機関の連絡が問題となり、災害対策本部の下にこうした会議が設けられました。東日本大震災でも、岩手県で運航調整会議がもたれ、そこでの情報交換を基礎に航空隊も行動をしていました。

 ただ、消防航空の関係者からの聞き取りでは、旅客機の離着が多い主要空港をベースにするという考えが薄いことも教えられました。それは旅客機が混在する空港では、その着陸や離陸まで管制上待機しなくてならず、一刻も早く行動したい時には、やはり空港とは別の「ヘリベース」に持ち、そこを拠点に運航することが効率的であるという趣旨でした。

── これから先、首都直下地震などの大規模地震も予想されています。先生の目から見ての懸念は。

『災害と空港』の編者の一人、轟朝幸さん=PHOTO: Masahiro TSUKAHARA/Aviation Wire

轟:空港はインフラとしてはかなり強く作られており、施設の破損ということに関してそれほど心配はしていません。また、高波などは堤防などの強化で対応できると思います。

 問題なのは地盤の液状化でしょう。羽田空港はどのようになるのか、わかりません。対策として薬剤を注入して地盤を強化する方法もありますが、現在運用中の空港では横から入れるなど工夫が求められ、コストもかかります。ここに懸念をしています。

── 災害に対して空港はどのような準備をすべきでしょうか。

轟:やはり、過去の災害で得た教訓を生かした「空港BCP(業務継続計画)」の策定です。そして訓練が重要だと思います。すでに主要な空港が「空港BCP」を持っていますが、地方空港は現在策定中のところが多いのも事実です。今後は、自分がどのような役割を果たすかを考えるためにも、多くの機関が参加した「運用調整会議」などの訓練も積極的に行うべきだと思います。

 米海兵隊の教育の中に「OODA」という考え方があります。「観察(Observe)」「仮説構築(Orient)」「意思決定(Decide)」「実行(Act)」の頭文字を取ったものですが、互いに何しようとしているのか、そして、自分がどうすべきか、観察から感じ取れというものです。空港に関わる人は、災害へのイマジネーションを持って、それに対して自分が何をするかを常日頃から考えておくことが必要でしょう。

【編者略歴】
とどろき・ともゆき 1964年長野県長野市出身。日本大学大学院修了。工学博士。東京大学工学部講師、高知工科大学工学部助教授などを経て、2008年より日本大学理工学部教授。国土交通省「交通政策審議会航空分科会技術・安全部会」臨時委員、航空局「空港の津波対策検討委員会」委員長など歴任。

関連リンク
『災害と空港─救援救助活動を支える空港運用』 [1](成山堂書店)
轟朝幸教授 [2](日本大学理工学部)

著者に聞く
『日本のローカル航空』秋本俊二さん [3]
『国際線機長の危機対応力』横田友宏さん [4]
『世界の旅客機捕獲図鑑』チャーリィ古庄さん [5]
『JETLINER VI(EVOLUTION)』ルーク・オザワさん [6]
『航空機と空港の役割 航空機の発展とともに進歩する空港』唯野邦男さん [7]
『航空のゆくえ─自由化の先にあるもの』柴田伊冊さん [8]

雑誌
「まず、国内線。」月刊エアライン 20年9月号 [9]
「男子よ、CAを目指せ!」月刊エアステージ 20年9月号 [10]
「ブルーインパルス“新しい2020年”と、その先へ」航空ファン 20年9月号 [11]
「日本の防災航空」航空情報 20年9月号 [12]
「やっぱり一度は乗ってみたい!エアバスA380」航空旅行 vol.33 [13]

書籍
イカロスMOOK『ヒコーキ写真テクニック 2020 Spring Summer』 [14]
イカロスMOOK『CA&グランドスタッフ筆記試験問題集』 [15]
Pen+『完全保存版 エアライン最新案内。』 [16]
「世界航空機年鑑 2019〜2020年」 [17]
イカロスMOOK『エアライン GUIDE BOOK 改訂新版)』 [18]
イカロスMOOK『政府専用機 B-747』 [19]
井上泰日子『最新|航空事業論[第3版]エアライン・ビジネスの未来像』 [20]
イカロスMOOK『ANA&JAL 日本のエアラインCAになる本』 [21]
丹治隆『どこに向かう日本の翼―LCCが救世主となるのか―』 [22]
大宅邦子『選んだ道が一番いい道』 [23]