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JAXA、ソニックブーム低減試験成功 超音速試験機で世界初

 JAXA(宇宙航空研究開発機構)は7月27日、静粛性の高い超音速機の技術開発「D-SENDプロジェクト」第2フェーズの飛行試験で、超音速試験機の飛行に世界で初めて成功し、低減したソニックブームを計測したと発表した。

「D-SENDプロジェクト」第2フェーズのイメージ(JAXAの資料から)

 「ソニックブーム」とは航空機が超音速飛行時に生じる「ドン、ドーン」と打ち上げ花火や落雷のような音を伴う衝撃波で、D-SENDプロジェクトではソニックブームを低減する研究を実施している。

 実験は現地時間7月24日、スウェーデン北部、キルナ近郊のエスレンジ実験場で実施。試験は超音速機の模型を気球から落下させ、データを収集する。

 試験にはJAXAの超音速試験機「S3CM(S-cube Concept Model)」を使用。先端と後端に低ソニックブーム化を施した機体を気球で吊るし、高度30キロまで上昇させる。30キロ地点で気球と機体を分離し、落下させる。地上ではブーム計測システム(BMS)を設置。BMS上空を通過時に発生する低ブーム波形を計測する。スピードはマッハ1.3、経路角は50度を想定。機体は試験場内に着地する。

 試験は7月27日午前4時43分(日本時間午前11時43分)、気球に吊した機体を上昇させて開始。午前10時(同午後5時)に、高度30.5キロ地点から気球と機体を分離させ、BMSに向かって飛行を開始した。

 分離後117秒後、BMS上空を高度8.2キロをマッハ1.39、経路角47.5度で通過。同138秒後にはBMSが、低減したソニックブームを計測した。同177秒後、機体は試験場内に着地した。

 JAXAでは今後、計測データを詳細に解析し、結果を公表する。また、国連の専門機関ICAO(国際民間航空機関)のCAEP(航空環境保全委員会)10総会(2016年2月開催予定)までに試験結果を提示し、ソニックブームの国際基準について技術的な議論を進める。

 D-SENDプロジェクトは2つの試験から構成する。第1フェーズは2011年5月に実施。第2フェーズで使用した気球落下試験によるソニックブームの計測方法を、世界で初めて確立した。

 第2フェーズは2014年7月22日から8月22日まで実施予定だったが、エスレンジ実験場の気象条件が整わず期間を延長したものの、このときは実施しなかった。その後、今年6月29日から実施に向け、準備を進めていた。

 JAXAが想定している次世代超音速機は36人から50人乗りの全席ビジネスクラスで、巡航速度マッハ1.6。アジアの日帰り圏化を目標に据えている。シンガポールの場合、現在の6.9時間から3.5時間に短縮される。

 超音速機では、マッハ2で飛行できる英仏共同開発のコンコルド(1969年初飛行)が、人が住むところでは超音速で飛行できず、実力を生かせるのは大西洋上に限られた。早めに減速してソニックブームを防ぐことが燃費悪化につながり、2003年に全機退役している。

試験場内に着地した試験機(JAXAの資料から)

関連リンク
D-SEND#2試験サイト [1](宇宙航空研究開発機構)

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