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ANAとジャムコ、ドア触れずに出られるトイレ試作 非接触で感染防止、羽田ラウンジに展示

 新型コロナウイルスの感染拡大で航空需要が大幅に落ち込む中、航空会社では乗客に安心して利用してもらおうと、機内や空港の消毒や清掃頻度を高めるなど、さまざまな取り組みを進めている。客室乗務員や地上係員はマスクやゴーグル、フェイスシールド、手袋などを着用して接客し、機内では除菌用シートを配る航空会社も増えてきた。

ひじを使って内側から扉を開けられるようにしたANAとジャムコによる非接触ラバトリーの体験評価用試作品=20年8月19日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 接触感染を防ぐため、他人がさわったものは極力手で触れたくないと考えていく中で、機内で課題となるひとつがトイレだ。航空業界では「ラバトリー(化粧室)」と呼ばれることが多い機内のトイレは、設置面積が限られているなどの理由もあり、自動ドアを設置するのは難しい。しかし、手を洗った後は、ドアのノブなどには触れずに外へ出たいものだ。

 一方で、航空会社は過去に例のない規模の大幅な減収減益となり、新型コロナ対策を実施するにも予算の制約が大きい。既存設備を最大限に生かして感染防止策を早期に強化することが、今後空の便で移動する機会が回復した際に、利用者に安心してもらう上で重要になる。利用者にとって関心が高いのは、シートと空調、そしてトイレだ。

 全日本空輸(ANA/NH)は航空機内装品大手のジャムコ(7408)と共同で、非接触性を高めたラバトリーの試作品を作り、羽田空港第2ターミナル本館南側のANA LOUNGE(ANAラウンジ)入口に8月末まで展示。体験評価用の試作品で、アンケートに答えると記念品がもらえる。非接触ラバトリーを企画したANA商品企画部プロダクト企画チームの牧克亘マネージャーに、狙いを聞いた。牧さんの普段の主な仕事は、新シートの開発だ。長距離国際線に2019年8月から導入している個室タイプのビジネスクラス「THE Room」や、新しい国内線のプレミアムクラスなども関わってきた。

羽田空港のANAラウンジ入口に設置された非接触ラバトリーの体験評価用試作品=20年8月19日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

—記事の概要—
ひじで開けられるドア
「人は思った通りに動いてくれない」
アジアで関心高い衛生対策

ひじで開けられるドア

 「コンビニで冷蔵庫のドアを足でも開けられるようにした取り組みを知り、うちでも何かできないかとゴールデンウイークに考えました」と牧さんは話す。ANAは飛沫感染を防ぐため、化粧室では便座のふたを閉めてから水を流すよう、乗客に依頼している。手を洗った後、ドアを手を使わずに開けることができれば、接触感染を防ぐ上で有効ではないかと考えた。

扉をロックするノブを大型化したANAとジャムコによる非接触ラバトリーの体験評価用試作品=20年8月19日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

ANAの787のラバトリー。蛇口や水洗スイッチは非接触式になっている=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 ANAでは国際線用機材の化粧室は、手をかざすと水が出る「センサー式蛇口」がすでに100%導入されている。用を足してから水を流す際も、約半数の機材がセンサー式の水洗スイッチを採用しており、化粧室内の非接触化を進めてきた。一方で、化粧室を出る際は、手を洗った後にドアを手で押して開ける必要があり、牧さんはここを非接触にできないかと考えた。試作品はひじでドアのロックを解除し、ドアを開けて退出できる。

 「足を使って開けることも考えたのですが、飛行機は揺れる場合があるので姿勢が不安定になり、結果としてどこかに手で触れてしまう可能性があります。ひじを使えば、安定した状態で手を使わずに開けられます」(牧さん)と、ひじを使って化粧室内からドアを開ける試作品の意図を説明する。

 今回の試作品は、ドアが折りたたみ構造の「バイフォールドドア」のもの。ドアの化粧室内側に「ひじ」を使って開けるためのハンドルを追加し、ドアをロックするノブを大型化した。これにより、従来通り手で開けることも、ひじで開けることも可能にした。故障せず、乗客がけがをしない構造にし、自社にとどまらず業界全体で活用できるものを目指しているという。

「人は思った通りに動いてくれない」

 ANAの飛行機はジャムコ製のラバトリーを多く採用していることから、牧さんは同社と試作を進めることにし、6月にモックアップが完成した。ジャムコも新型コロナの発生以降、感染防止策の開発を進めていたところだった。

ひじを使って扉を開けられるようにしたANAとジャムコによる非接触ラバトリー試作品のハンドル(左)とロックノブ=20年8月19日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 ジャムコの社内では、飛行機を普段あまり利用しない社員を中心に、100人規模で評価を実施。非接触の仕掛けを用意しても、利用者に意図が伝わらなければ従来通りの使い方をされてしまうので、手を使わずにドアを開けるよう、誘導していく方法を検討するためだ。

 「ハンドルの形状やプラカード(案内表示)を改良していきました」と話す牧さんによると、ハンドルに穴を開けるなどの改良を加えることで、検証参加者の中で徐々に意図した使い方をする人が増えていったという。「ひじを使って何かをする、という動作が一般的ではないので、どうやって伝えるかが難しいですね」(牧さん)と、羽田で試作品を展示して利用者から感想を聞くことで、よりわかりやすいものにしていきたいという。

ひじを使って扉のロックを解除できるようにしたANAとジャムコによる非接触ラバトリーの体験評価用試作品=20年8月19日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 羽田の展示では、具体的な使用方法はあえて案内せず、体験する人が予備知識なしにどう感じたかを重視してアンケートをとっているという。化粧室に入り、プラカードやハンドルを見てどう反応するかを検証しているが、「人は思った通りに動いてくれません」(牧さん)と、改善課題はまだある。アンケートは1カ月間で約320人ほど回答があり、少し迷ったなどの意見も寄せられたそうだ。

 8月末まで展示後、9月からアンケート結果の最終的な集計が行われ、社内で検討を進めていく。

ひじを使って扉を開けられるようにしたANAとジャムコによる非接触ラバトリー用ハンドルの試作品(ANA提供)

ひじを使って扉を開けられるようにしたANAとジャムコによる非接触ラバトリー用ノブの試作品(ANA提供)

アジアで関心高い衛生対策

 現在の試作品のように、ハンドルの追加やノブの形状変更といった改良で済めば、航空会社側の負担は小規模に抑えられそうだ。とはいえ、航空機用部品は安全性が厳しく評価されるため、ジャムコでは耐久性の検証などを進めているという。新しいドアノブが外れてしまっても、ドアを開けられる構造になっており、今後は国土交通省航空局(JCAB)など当局の承認をどのような形で取得するかなど、安全性の証明が課題になる。

非接触ラバトリーを企画したANA商品企画部プロダクト企画チームの牧克亘マネージャー=20年8月19日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

既存の部品と交換することを想定した大型ノブ=20年8月19日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 航空会社側は、費用や作業スケジュールがどのようになるかなど、改修作業が会社に与えるインパクトを検討する必要がある。牧さんによると、こうした課題が順調にクリアされ、ANAが導入を決めた場合は、最短で半年後くらいから導入できそうだという。

 ANAは新型コロナ対策を「ANA Care Promise(ANAケアプロミス)」と名付け、告知を強化している。英国を本拠地とする航空業界の調査・格付け会社SKYTRAX(スカイトラックス)社の調査では、客室の清潔さに対する調査の上位10位以内は、ANAを含めてアジアの航空会社でほぼ占められており、日本を含むアジア圏では清掃や衛生に対する関心が高いと言える。

 牧さんは「今後はタッチレスとデジタライゼーションの2つが加速すると思います」と予測する。非接触ラバトリーなどの衛生対策が、航空会社の評価基準としてこれまで以上に重視されることになりそうだ。

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