- Aviation Wire - https://www.aviationwire.jp -

ANAの787、就航5周年 初便は香港行きチャーター

 全日本空輸(ANA/NH)のボーイング787型機が、10月26日で商業運航開始から5周年を迎えた。

 ANAは2004年4月26日、ローンチカスタマーとして787を50機購入すると決定。初号機となる787-8の中距離国際線仕様機(登録番号JA801A)を、2011年9月25日に受領した。今年9月末時点で標準型の787-8を36機、長胴型の787-9を44機、超長胴型となる787-10を3機の計83機を発注済みで、787の発注数としては世界最多となる。

 当初は2008年の北京五輪前の納入が予定されていたが、開発遅延やトラブルにより大幅に遅れた。787-8の飛行試験初号機(ZA001、登録番号N787BA)が初飛行に成功したのは、2009年12月15日。日本の型式証明を国土交通省航空局(JCAB)から取得したのが2011年8月29日で、9月25日に量産初号機(JA801A)がANAへ引き渡された。

東日本大震災の復興支援フライトで仙台空港に着陸するANAの787=11年10月30日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

—記事の概要—
5周年で50機到達
787ロゴ消える
6メートル長い787-9
トラブルつきまとった6年

5周年で50機到達

復興応援フライトで福島空港をローパスするANAの787=11年11月13日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 世界初の787の商業フライトは、2011年10月26日の成田発香港行きチャーター便のNH7871便。定期便は国内線が2011年11月1日の羽田発岡山行きNH651便、国際線は2012年1月14日の羽田発北京行きNH1255便だった。

 当時は3月11日に発生した、東日本大震災の影響が至る所で見られた。ANAは就航したばかりの787を使い、仙台や福島で子供たちを招待した復興支援フライトを行っていた。

 商業運航開始から5周年の今年は、ANAの787にとって節目の年になった。ボーイングは現地時間1月11日、ANAの787による商業運航が10万フライトに達したと発表。シアトル・タコマ空港では記念式典が開かれた。

 量産初号機と同じ787-8は、発注済みの36機が5月12日にシアトルで受領した機体(JA878A)で全機揃った。この機体は、ANAの787としては通算47機目。そして8月17日には、50機目となる787-9の中距離国際線仕様機(JA882A)を、シアトルで受領している。

 ANAの787のエンジンは、すべて英ロールス・ロイス製。787-8と787-9ともに、国内線用と中距離国際線用、長距離国際線用でエンジンの推力が異なる。

 787-8は国内線用がトレント1000-H(推力2万6300kg)、中距離国際線用がトレント1000-A(2万8940kg)、長距離国際線用がトレント1000-C(3万1660kg)を採用。787-9は国内線用がトレント1000-A(2万8940kg)、中距離国際線用がトレント1000-D2(3万1660kg)、長距離国際線用がトレント1000-K(3万3480kg)を搭載している。

787ロゴ消える

前部胴体に描かれた「787」ロゴ=16年10月24日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 4年7カ月で発注済みの36機がすべて揃った787-8。初号機を導入した当時を振り返ると、中距離国際線仕様の状態で、暫定的に国内線へ投入していた。

 初の国内線仕様機はJA809Aで、2012年6月20日に引き渡された。プレミアムクラスのシートは、JA817Aまでは国際線ビジネスクラスの「ANAビジネス・クレードル」で、2013年5月14日に受領したJA818Aからは、ゾディアック・シート・UK(旧・英コンター・エアロスペース)製のシートを搭載。座席数は335席(プレミアム12席、普通席323席)となっている。

 国際線の機材は、ビジネスクラスにスタッガード配列のシートを採用した長距離仕様は、2011年12月30日受領のJA805Aが最初。2013年9月1日からは、プレミアムエコノミークラスのサービスをスタートさせ、座席数は169席(ビジネス46席、プレミアムエコノミー21席、エコノミー102席)となった。

 現在787は、シアトルのエバレット工場と、サウスカロライナ州ノースチャールストン工場の2カ所で最終組立が行われている。ANA初のノースチャールストン製は、2014年1月7日に引き渡された国内線仕様のJA824Aだった。

羽田に到着するANAの787-8の36号機。「787」ロゴがない現行デザイン=16年5月14日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 そして、ANAの787と言えば、前部胴体に大きく描かれた「787」が特徴。新型機であることをアピールしていた。ところが、2014年2月6日に引き渡された通算25号機(JA827A、長距離国際線仕様)と26号機(JA825A、国内線仕様)からは、機体前部に描かれていた「787」ロゴが、ブランド管理の観点からなくなった。

 787-8とひと言でいっても、これだけの変化があった。

6メートル長い787-9

 長胴型の787-9は、胴体が前方と後方でそれぞれ3.05メートル、計6.1メートル長くなった機体で、座席数と貨物搭載量が787-8の約1.2倍に増加。ANA向けの最初の機体は2014年7月27日に引き渡された国内線仕様のJA830Aで、座席数は395席(プレミアム18席、普通席377席)となり、787-8よりも60席(プレミアム6席、普通席54席)増えた。

787-8(奥)と並ぶ787-9初号機=14年8月4日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

機体前方に描かれた50機目の記念ロゴ=16年8月18日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 初の国際線仕様機は、2015年4月23日に羽田へ到着したJA836A。座席数は215席(ビジネス48席、プレミアムエコノミー21席、エコノミー146席)で、同じく長距離国際線仕様の787-8よりも46席増えた。

 今年8月に受領した50機目の787となる787-9(JA882A)は、中距離国際線仕様。ANAでは14機目の787-9で、座席数は3クラス246席(ビジネス40席、プレミアムエコノミー14席、エコノミー192席)となった。長距離国際線仕様の215席と比べ、ビジネスが8席、プレミアムエコノミーが7席減るのに対し、エコノミーは46席増えた。

 JA882Aの機体前方には、ボーイングとANAが共同でデザインした記念ロゴが描かれた。客室の主な仕様は従来機と同じだが、エコノミークラスのシートのみ、座面の高さを約5センチ低くした。女性や子供でも足が着くようにし、座り心地を改善した。

 ANAにとっては今後、787-9が国内・国際線ともに主力となる。そして、3機発注した787-10は2019年度から2020年度にかけて受領し、すべて国内線に投入する。

トラブルつきまとった6年

羽田を出発する787定期便の再開初便=13年6月1日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 787導入から6年間の歴史を振り返ると、トラブルがどうしてもつきまとう。そもそもの就航が3年遅れとなり、2013年1月16日には、山口宇部発羽田行きNH692便でバッテリートラブルが発生。高松空港へ緊急着陸した。新しいバッテリーシステムに換装後、同年5月26日の臨時便、札幌発羽田行きNH1404便で運航を再開し、同年6月1日からは定期便に再投入した。

 バッテリートラブルは沈静化したものの、今年に入るとエンジンの不具合が発覚した。エンジン内にある中圧タービンのニッケル合金製タービンブレードの1本が、離陸上昇中に破断するもので、2月から8月までに国際線で2件、国内線で1件起きた。

 最初に起きたトラブルは、2月22日のクアラルンプール発成田行きNH816便(787-8、JA804Aの右エンジン)で、2件目は3月3日のハノイ発羽田行NH858便(787-8、JA807Aの右エンジン)と国際線が続いた。そして、8月20日には国内線の羽田発宮崎行きNH609便(787-8、JA825Aの右エンジン)でも起きた。

787-9のロールス・ロイス製トレント1000=15年4月28日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 この影響で8月26日から31日まで、787で運航する国内線の計18便が欠航。ANAはエンジン不具合を公表した8月25日時点では、1日10便程度欠航するとの見方を示していたが、9月と10月は欠航に至っていない。

 エンジンを製造するロールス・ロイスでは、不具合が起きた中圧タービンブレードの改良型を、早ければ2017年1月にも供給を開始する。

 バッテリーやエンジンではトラブルが見られたが、炭素繊維を使った胴体などでは、大幅な欠航につながるトラブルは起きていない。

羽田空港に着陸するANAの787初号機=11年9月28日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 787は、主翼や胴体といった機体の主要構造部位のうち、35%を日本が分担。ボーイングは「Made with Japan」と表現しているほどで、試験機としての役目を終えた飛行試験初号機(ZA001)は2015年6月、中部空港(セントレア)へ寄贈された。

 ボーイングは、2015年に月産10機だった生産レートを、東京オリンピック・パラリンピックが開かれる2020年までに、14機へ引き上げる。商業運航10周年を迎えるころには、どのような評価が787に定着しているのだろうか。

関連リンク
全日本空輸 [1]
ANAホールディングス [2]
Boeing [3]
ボーイング・ジャパン [4]

50機目の787
世界初、50機目の787 写真特集・ANAの787-9、エコノミー座り心地改善 [5](16年8月19日)
ANA、50機目の787羽田到着 記念ロゴ入り国際線仕様機 [6](16年8月18日)
ボーイング、ANAに50機目の787 米エバレットで記念式典 [7](16年8月18日)

787-10
ANA、787-10正式発注 最大サイズの787、19年度から国内線に [8](15年3月28日)

787-9
富士山と桜描いたANAの787-9急上昇 写真特集・ファンボロー2016展示飛行(1) [9](16年7月22日)
ボーイング、ANAの787-9で展示飛行 ファンボロー航空ショーで [10](16年7月13日)
ANAのR2-D2ジェット、バンクーバーへ初便出発 [11](15年10月18日)
ANA、R2-D2ジェットが羽田到着 ターミナル前でファンサービス [12](15年10月2日)
ANA、スター・ウォーズ塗装の787完成 シアトルでお披露目 [13](15年9月13日)
ANA、787-9国際線仕様機が就航 最新エンタメ機器搭載 [14](15年5月5日)
ANA、787-9国際線仕様を5月就航 リアルタイムでテレビ視聴も [15](15年4月29日)
787-9が世界初就航 ANA篠辺社長「お肌にやさしい飛行機」 [16](14年8月7日)
ANA、787-9羽田到着 座席数と貨物量1.2倍に [17](14年7月30日)
全日空、787-9を11機追加発注 [18](12年9月22日)
全日空、787-9を4機増の19機に 787-8からの発注変更で [19](12年6月19日)

787-8
中距離国際線機で完納 写真特集・ANAの787-8、36機揃う [20](16年5月18日)
ANA、787-8全機揃う 4年7カ月かけ、36機目が羽田着 [21](16年5月15日)
ANA、787の商業運航10万フライト到達 [22](16年1月12日)
ANA、世界初の787重整備 写真特集・JA801A初回Cチェック [23](14年6月30日)
ANAの787、他機種と同一塗装に 25機目から”787″ロゴ消える [24](14年2月10日)
ANA、787長距離国際線機にプレエコ導入 エコノミーも新シート [25](13年9月1日)
ANA、”真の国内線仕様”787を投入 初の新プレミアムクラス導入機 [26](13年6月1日)
全日空の787、羽田に到着 引き渡し再開後初の機体 [27](13年5月16日)
全日空へ787納入から1年 ボーイング、6社25機納入 [28](12年9月26日)

エンジン不具合
ANAの787エンジン問題、ロールス・ロイス社長「17年初頭に改良型」 [29](16年9月9日)
ANAの787エンジン、19年末までに改良型へ メキシコ用新型は計画通り [30](16年8月31日)
ANAの787「本当に大丈夫?」相次ぐトラブル、利用者から不安の声 [31](16年8月26日)
ANAの787、エンジン不具合で一部欠航 離陸直後にブレード破断 [32](16年8月25日)